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87 気持ち良くないゴニョゴニョのこと

私の言葉に、浩二さんは口を開けて固まった。


「えーと、麻美。気持ちよくなかったって・・・その」


どう受け止めていいのか困ったような顔をしている浩二さん。


「いや、待った。もう一度訊くけど、暴力的な酷いことはされてないんだな」

「うん。されてない」

「じゃあ怖いって言ったのは・・・」


(怖いって言った? 私が? それって・・・ああっ! あの時のこと!)


「それは違うの。抱かれるのが怖いんじゃなくて、浩二さんのこれからを私のために変えるのが申し訳なく思ったから出た言葉なの」


浩二さんは少し考えたあと、私のことをじっと見つめてきた。


「だけどそれは、女性にもいえることだろう。結婚すればどちらかは名字を変えることになるわけだし。住むところだって二人で暮らし始めるのなら、二人とも今まで住んでいたところを離れることになるだろう。俺には名字が変わるくらいたいした違いはないことだよ」


(・・・どうしてこういうことをさらりと言えるかな。悩んだ私がバカみたいじゃない)


私は少し迷ったあと「ありがとう」と言ったの。他になんといっていいのか、わからなかったから。浩二さんはフッと笑ったの。その笑顔が自然に見えて心からの言葉だとわかったわ。


「それで・・・その、よくわからないのだけど、気持ちよくなかったとはどういうことだろうか」

「えーと、えーとね・・・」


(・・・うん、どういう事なのかわからないよね。でもどう言えばいいのだろう)


私はどういえば伝わるのかと考えた。


「その、ね・・・触られ方が・・・不快・・・ではない・・・けど、気持ちよくなくて・・・」


(う~ん、何か、似たような感じがあったような・・・あっ!)


「そ、そう! お医者様みたいだったの」

「お医者様? 医者みたいって、ごっこ遊びでもしてたのか?」

「違うの! 触られ方が、お医者様に触診を受けているみたいな気分になったんだってば!」

「はっ?」


浩二さんはわからないという様に、首を捻っている。なんか腕が揺れているから、テーブルの陰で手を動かしてでもいるのだろう。


(・・・というか、その手の動きにツッコんだ方がいいの?)


私がジーと見ているのに気がついた浩二さんが、決まり悪げに苦笑いを浮かべた。


「えーと、まあ、なんだ。相手が悪かったと思えばいいんじゃないかと、俺は思うけど」

「そうかな。私が不感症なんだと思っていたけど」

「なんで、そんなことを・・・。どちらかというと麻美は感度よさそうだけど」


浩二さんは言ってから、口元を手で覆って隠した。何を想像したのか知らないけど、頬が赤くなっている。


「だって、本の中では好きな人とする行為は素晴らしいってあったもの。それを気持ちよく感じないだなんて、私の方がおかしいんじゃないかって思ったって、おかしくないでしょう」


私がそう言ったら、なぜか手を額に当てて苦悩しだした浩二さん。そんなにおかしいことをいったかしら?


「麻美が耳年増なのはわかっていたけど、どうしてそんな思い込みをするんだよ」


溜め息交じりに呟かれたけど、別に思い込むまではいってないのよ。これも説明した方がいいかしら。


「あのね、浩二さん。私だって知識はあるから、自分が本当に不感症だとは思ってないのよ。それに気持ちよくもさせてもらったから」

「・・・気持ちよくなかったって言わなかったか?」

「えーと、服を脱がされる前に触られるのは気持ちよかったから」

「・・・はあ?」

「だからかな、服を脱いだ後がなおさら気持ちよくなくて・・・」


そう言ったら両肘をテーブルの上に置き額に手を当てて、浩二さんは「う~ん」と呻き声をあげた。しばらく何か考えていたけど、やがて額から手を離して私のことを見つめてきた。


「何となくわかったかな。多分麻美の反応を見ていたんだろうけど・・・。あとは実際に確かめてみればいいか」


その言葉に肩がビクンと跳ねた。多分顔は引きつっているだろう。


(ま、まさかね。これから確かめるなんて言わないわよね)


「確かめるって何を?」


聞きたくないけど、気になって言葉が口をついて出た。浩二さんはテーブルに手をついて身を乗り出すと、私の額に口づけを落とした。


「大丈夫だよ。変なことはしないから。それよりもそろそろ出ないと約束に遅れてしまうから、支度をしようか」


言われた言葉にそっとつめていた息を吐き出した。時計を見たら、かなりな時間が経っていた。


「えーと、確か1時間半くらいかかるのでしたっけ。その人の家まで」

「そうなんだ。先に俺達にお昼をご馳走すると言っていたから、遅れるわけに行かないからな」


浩二さんはそういうと立ち上がった。浩二さんが髪を整えている間に、私はカップを洗っておいた。それから、乱れてしまった髪を直すために洗面所で鏡を見ながら梳かしたの。お化粧も軽く直しておく。


それから浩二さんの部屋を出て車に乗りこんだのよ。


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