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86 誤解しているのはゴニョゴニョのこと 

浩二さんの顔を見たら、複雑な表情をしているのが見て取れた。愛しさと切なさと憐れみと・・・。


(憐れみ? なんでそんなことを思っているのよ)


「麻美、急がなくていいからな。ゆっくりと俺に慣れればいいから」

「・・・言っていることと行動があっていない気がするんだけど」

「気付けなかった俺が悪かったから」

「いや、だから、なんか誤解してない?」

「怖がっているのに無理やり抱いたりしないから」

「怖がっているって、私が?」


(それって、今まで何度かそういう雰囲気になったのを、私が怖がっていると思って手を出すのをやめたってこと?)


浩二さんの胸についた手に私は力を入れた。


「私は怖がっていないわ」

「だけど、抱きしめるたびに体を強張らせているじゃないか。昨夜だって今だって震えていたし。酷いことをされたからそうなるんじゃないのか」


浩二さんの言葉に、私はもっと手に力を入れた。


「麻美、ひっくリ返りそうだから力を入れるのをやめてくれないか」


私は押す力を抜いた。浩二さんがホッとしたような顔をしたのを確認して、上半身をぶつけるように抱きついて浩二さんのことを押し倒したの。


「こら、麻美。何をする・・・ウッ」


私は浩二さんの唇に自分の唇を押し付けて、浩二さんの言葉を奪ったの。唇を離すと浩二さんは目を丸くしていた。


「麻美から・・・初めて・・・」


浩二さんの手が私の頭の後ろに回って、自分のほうに引き寄せようとするから、私はその手を捕まえて浩二さんの顔の横に縫いとめるように手を重ねた。


「・・・なあ、立場が逆じゃないか」


困惑した顔で見上げてくる浩二さんの顔を、私はムッとした顔で見下ろした。せっかくサイドをあげてかわいく見えるように、バレッタで留めていた髪がほつれて、浩二さんの顔につきそうだ。


そして・・・そのまま私は動けなくなった。


(押し倒してキスをして、それから私はどうするつもりなの? 浩二さんの服を脱がせるの? それとも自分で服を脱ぐの? それでも抱いてくれなかったら・・・)


私が捕まえていない方の浩二さんの手が伸びてきて私の頬に触れた。その手から逃れるように浩二さんの上から退いて、私はくるりと背中を向けた。


(落ち着こう、私。なんか思考がおかしくなっているわ。・・・そう。浩二さんが誤解をしているみたいだから、それをまずは解かないと)


深呼吸をして向きを変えようとしたら、浩二さんに肩を抱かれたの。そのまま部屋を出るように歩いていく。チラリと顔を見たら、浩二さんの眉間にしわがよっているのが見えた。私が見ていることに気がついた浩二さんは苦笑を浮かべて言ったのよ。


「どうも認識に齟齬が生じているみたいだから、ちゃんと話し合おうか」


部屋を出てリビングに移動して。浩二さんがコーヒーをいれてくれたから、それを一口飲んだ。冷静になると自分の行動が赤面ものだったと、恥ずかしくなってきた。コーヒーを一口飲んだ浩二さんも落ち着いた声で話して来た。


「えーと、聞くけど・・・麻美は、そういう行為が嫌なんじゃないのか」

「い、嫌ではない・・・です」


私は目線を合わさずに俯き気味に答えた。


「でも、あきらかに体を強張らせていたけど?」

「それはその・・・浩二さんが・・・」


視線はコーヒーに向けたまま小声で言った。


「俺が? 何?」


チロリと浩二さんの顔を見てから、顔を伏せて告げる。


「だって・・・いつも激しいキスをしてくるじゃない。肩を抱かれるとそうかなって、身構えちゃうんだもの」


顔に熱が集まってくる。言葉にするのはこんなにも恥ずかしいなんて。


「それは・・・悪かった。麻美の反応が初心うぶすぎて、ついやり過ぎてた」


その言葉に顔をあげてチロッと見たけど、全然悪いと思ってないよね。その顔は!


「だけど、ある意味麻美も悪い。従順にされるがままじゃないか。もう少し抵抗なり合図をしてくれれば・・・」


浩二さんの言葉が途中で途切れた。見ると口元を手で押さえている。


「いや・・・俺が悪いか。悪かった」


目の前で頭を下げられて私は慌てた。


「ううん。確かに私もされるがままだったもの。浩二さんが悪い訳じゃないし。ごめんなさい」


私も軽く頭を下げた。顔をあげると目が合って、どちらからともなく笑みがこぼれた。


「まあ、なんだ、やり過ぎには注意するから」

「はい」


ニッコリと笑ったら浩二さんも笑みを返してくれたの。でも、すぐに真顔に戻って訊いてきたのよ。


「ところで麻美は酷いことをされてないのか」

「酷いこと? それってどんなこと?」

「その・・・無理やりとか、暴力的とか」

「そんなことはなかったけど」


浩二さんは私の返事に納得できないみたいで、重ねて訊いてきた。


「それにしてはあの震え方は普通じゃなかった気がするけど」


そう言われて考えてみた。もしかしたらあのことが、気がつかないうちにトラウマみたいになっているのかもしれない。


「えーと・・・多分・・・あのことが・・・気にかかって・・・いるんだと・・・思う・・・かな」


視線を彷徨わせながらそう答えたら、浩二さんがまた訊いてきた。


「どんなこと?」


私は目を合わせないように浩二さんから視線を外した。


「その・・・セックスが気持ちよくなかったの」


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