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84 朝・・・です

いつものように目覚ましが鳴る寸前に目を覚ました私は、まず目覚ましのアラームを解除した。そして、隣の布団で眠っている浩二さんを見つめた。


(・・・とりあえず起こさないようにしよう)


私は布団から出ると着替えを持って部屋を出たの。


洗面所で着替えてから、台所に行き朝食の支度を始めた。といっても、お湯を沸かしてお茶の支度とお味噌汁を作るだけ。


(後はどうしよう。母が糠漬けを出してくるから、それを出して・・・。目玉焼きとか作った方がいいのかな)


他の献立に迷いながらお味噌汁を作っていった。でも作りながらも、私は昨夜のことを思い出していたのよ。



布団は二つ並んで敷いてあった。布団にもぐりこんだところで、浩二さんはよほど気になっていたのか訊いてきたのね。


「ところで、麻美。渡辺君はあの後どこに行ったのかな。あの感じだと家に戻ったわけじゃないんだよね」

「ええっと・・・まあ、そうなんだけどね」


和彦がどこに何をしに行ったか分かる私は言葉を濁した。


「そんなに言いにくいことか」

「そういう訳じゃ・・・。でも、聞いて楽しい話でもないけど」

「そんな言い方されると余計気になるんだけど」

「えーと、男の人だと羨ましがるかも」


隣からわからないという顔で見てくる浩二さん。私は気まずいから目を逸らしてから答えた。


「女の人を引っかけに行ったのよ」

「えっ?」


よほど意外だったのか、浩二さんは布団から体を起こした。私は横になったまま浩二さんのことを見上げた。豆電球の灯りじゃ陰になって表情はよく見えない。


「だって、彼は好きな人がいるんだろう」

「あー、まあ、そうなんだけど・・・その相手には手が届かないから」


少し小声でポソリと付け加えた。


「どういう事なんだ」


気色ばんだ浩二さんの声に、私も体を起こして浩二さんと向かい合った。


「だから、他の人の奥さんなのよ。和彦の好きな人って」


しばらく絶句していた浩二さんは、何かに気がついたように訊いてきた。


「なんで麻美がそのことを知っているんだ」

「私だってそんなことに気がつきたくなかったのよ。でも偶然が重なり過ぎてしまって・・・」


あの時のことを思い出して、私は溜め息を吐きだした。


「和彦の好きな人って、私の遠縁にあたるのよ。と言っても血は繋がっていないけどね。従姉のいとこだから、またいとこでいいのかしら」

「いとこのいとこ?」

「そうなの。私ね、高3の時に従姉の結婚式に出たことがあったの。祖母の付き添いで行ったのよ。その時に会っていたのね。そのあと偶然にも和彦の従兄の奥さんになっていて・・・。会った時に私のことを覚えていてくれて、再会したことを喜んでくれたのよ。それで・・・まあ、たまたま和彦と彼女が話しているのを聞いて、その後に和彦のあんな顔を見てしまったらねえ・・・。察したくなくても察するわよ」


(別に知ったからってどうこうするつもりはなかったのに、彼は見られたことについて脅してきたのよね。『誰にも話すなって』ほんと、いま思い出しても腹立たしいったら)


ムッとしながら考えていたら、浩二さんが呟いた。


「それで引っかけに・・・か」

「でも、地元でそんなことしないわよ」


浩二さんの呟きについ口から言葉が滑り出ていた。というより、いい加減誰かに聞いて欲しかったのよ。千鶴なんかに話したら、大事になるのはわかっているもの。だから、接点の少ない浩二さんに漏らしてしまったのだろう。


「それじゃあ彼はどこに行ったんだ」

「う~ん。多分東京のどこかじゃないかな。遊びを求めている女性がいる所があるらしいから」


そう言ったら、なぜかまた凝視されているのよ。


「どうして、そんなことを知っているのかな、麻美は」

「うん? 何かの会話で男性の生理的欲求の話になって、そこから和彦が教えてくれたのよ。後腐れなく遊べる女性と出会える所があるって」


今度は浩二さんが溜め息を漏らした。


「麻美はそういうことに疎いのかと思っていたのだが」


ぼやくように言われたけど、それには異議を唱えたい。昨今の漫画はすごいんだから。小説だってね、官能小説なんて赤面ですまない様な描写があったりするのよ。


・・・まあ、そういっても私が知っているのは、ほとんど紙に書かれた知識なんだけどさ。


「えーと、知識はあるのよ」

「・・・つまり実践はあまりないと」


見つめ合っていたら、浩二さんが近づいてきた。そのまま私は仰け反るように布団の上に背中から倒れこんだ。浩二さんが私の上に覆いかぶさるようにしてきて、口づけをされた。いつもの呼吸を奪うような口づけに息があがる。


しばらくして唇を離した浩二さんは、耳元で「おやすみ、麻美」と言うと、隣の布団に戻ったのでした。



回想終わり・・・。


そう、昨夜は結局何もなかったのよね。


(これってどう考えればいいのかしら? 私にそういった魅力がないとか? それにしては最初から激しめのキスをされているじゃない。じゃあ、何で手を出されないのかしら? というか、浩二さんも私が何も知らないとは思っていないわよね)


考えても答えは出るはずもなくて、私は悶々としながら朝食作りをしたのよ。



私が朝食の支度を終える頃に、両親と祖母が台所に顔を出した。それから5分くらい後に浩二さんも起きてきた。いつもと違って前髪が顔にかかっている。瞼が腫れぼったい気がするけど、昨夜は眠れなかったのかしら。


朝食を食べる間じゅう、私は気になって仕方がなかったのでした。


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