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83 カツオ事件? お泊り編?

浩二さんはなぜかまた複雑な表情をしていた。私が何か言う前に、父が浩二さんに声を掛けた。


「浩二君、お風呂はどうするかね」

「あー、はい・・・」


浩二さんはそのまま台所に入っていった。私はお手洗いにいき、手を洗うために洗面所によったの。そこに着替えを手に持った浩二さんが来た。


「浩二さん、お風呂に入るの」

「シャワーだけ浴びようと思って」

「無理して入らなくてもいいわよ」

「・・・」


なぜか黙ってしまった浩二さんに、私は軽く首を傾げた。それから浴室のドアを開けて浩二さんに説明をした。


「一応ボディソープと石鹸があるから、好きな方を使ってね。シャンプーとリンスはこっちが女性向けでフローラルな香りなの。シャワーは最初に少し出してからのほうがいいと思うのね。水がでてくるのよ。これが温度調節になっているからね。タオルはこれを使ってください」


フェイスタオルとバスタオルを手渡して浩二さんの顔を見た。何か言いたげにしているからまた首を傾げたら、浩二さんの顔に苦笑が浮かんだ。


「うん、ありがとう」


そうして私の肩に手を置いて私の向きを変えると、私は廊下の方に押し出されてしまったの。私が廊下に出ると洗面所のドアを閉めてしまったのよ。


台所に戻ったら母が洗い物をしていたから、手伝おうとそばに行った。そうしたら、ここはいいから先に着替えを持ってきなさいと言われたから、着替えを取りにいったの。


浩二さんがお風呂を出たら、私に入れと言われてしまった。私が浩二さんが寝る場所の支度をしていないと言ったら、それは父がするからと言い出して、私と少し言い合いになった。結局、浩二さんが間に入って、自分も布団を敷くのを手伝うからというので、仕方なくあとは両親に任せて私はお風呂に入ることにしたの。


何となく落ち着かなくて、いつもより湯船に浸かるのが短くなった。お風呂から出て髪をドライヤーで半分くらい乾かしてから、台所に行った。


そこにいたのは両親だけだった。


「浩二さんは?」

「浩二君はお酒に強くないみたいで眠そうにしていたから、休むように言って部屋・・に置いてきたよ」

「そうなの。じゃあ」


と、私は台所を出て客間に向かおうとした。


「どこに行くんだ、麻美」

「おやすみの挨拶をしようと思って」

「やめなさい。眠っているのを起こしてしまうかもしれないだろう」

「それもそうか」


私は台所を出たところで立ち止まった。


(寝ているのなら起こしちゃ悪いよね)


そんな私に父が声を掛けてきた。


「麻美も、もう休みなさい。明日は浩二君の友達と会うんだろう」

「うん、そうだね。睡眠不足で醜態は晒したくないものね」

「わしたちも、もう寝るから」

「うん、お休みなさい。お父さん、お母さん」

「おやすみ、麻美」


そうして、何も考えずに私は自分の部屋へと戻ったのでした。


部屋の中に入ろうとして、灯りがドアの隙間から洩れていることに気がついた。さっき着替えを取りに来た時に、消すのを忘れたのかと思いながらドアを開けた。


「なっ!」


見えたものに声をあげかけたら、いきなり口を手で塞がれた。暴れる前に耳元で声が聞こえた。


「落ち着こうな、麻美」


こんな時なのにその低い声に背筋をゾクりとしたものが駆け抜けていった。おとなしくなったと見て浩二さんは私の口から手を離した。それを見て私はギッと浩二さんのことを睨んだ。


「なんで、ここにいるのよ」

「親父さんがこの部屋で寝ろって言ったから」

「だからって、普通断らない?」

「婚約しているのだからおかしくないと言われた」

「・・・あんの、くそ親父」


(忘れてた。傷心の私を連れ出して、そのあと一晩帰ってこなくていいと唆したんだった!)


踵を返して部屋を出て行こうとしたら、浩二さんに止められた。


「麻美、親父さんだって悪気があるわけじゃないんだから」

「そうだけど、いきなりこれって、ひどいじゃない。だから文句言ってくる」


浩二さんを押して横を通り抜けようとしたら、体を引き寄せられて唇が重なった。


「ん~」


抱擁から逃れようとジタバタしていたら、唇を離した浩二さんが耳に口を寄せた。


「麻美」


そしてもう一度唇が重なったけど、今度は宥めるような優しい口づけをされたの。唇が離れて優しく抱きしめられた。


(なんか、ずるい。これじゃあ、私が親の気持ちもわからない駄々っ子みたいじゃない)


しばらく浩二さんの胸元に顔を埋めていたら、困ったような浩二さんの声が聞こえてきた。


「麻美、その、一度離れてくれないか」


気がついたら浩二さんの手は背中に回っていて、抱きしめるというより支えるという感じに添えられていた。それよりも私の方が両手で彼の服を掴んでいたのよ。


「あっ、ごめんなさい」


パッと離して私は彼から一歩下がった。


「えーと、麻美がどうしても嫌なら、別の部屋にしてもいいのだけど」


なぜか視線を合わせずにそういう浩二さん。微かに頬が赤い気がする。


(これは・・・覚悟を決めるべきよね。まあ、ある意味最初から親公認な訳なのだしね)


だから。


「もう、いいです。嫌な訳じゃないですから」


そう言ったら、見るからにホッと息を吐き出した浩二さん。


「じゃあ、寝ながら話をしようか」

「はい」


そして灯りを消して布団にもぐり込んで・・・。


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