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80 カツオ事件? 悪友との本談義編?

私が自室に入るとなぜか和彦もついてきた。


あのあと、和彦はビールから父と同じ焼酎に変えて何杯か飲んでいたけど、全然酔っているようには見えない。隙がなくてつまらん奴と、私はいつも思っていたのよ。


本棚に本を片付けながらいつもの調子で和彦に言った。


「これっていくらだったの」

「今回はいいよ。婚約祝いにやる」

「そう言ってさ、何気にうちの本を増やさないでくれる。うちは和彦の書庫じゃないんだから。それに和彦だって、置けるところがいっぱいあるでしょ。本棚を購入すればいいじゃない」

「あの部屋に本棚って似合わないだろう」

「似合う似合わないじゃなくて、自分のものとして手元に置けばいいだけでしょ」

「麻美に会いに来る口実になるのに」


私は思わず和彦の顔を見た。相変わらずのいたずらっ子のような表情に頭が痛くなってくる。私の味付けを気に入ってくれているのは嬉しいけど、夕飯を食べにくる口実に本を使う気だとは。


「口実なんて言わずに普通に来ればいいんじゃないの」


私は本棚から読んで面白くなかった本を取り出して、和彦に差し出した。


「なにこれ?」

「すんごくつまらなかったから読ませようと思って」

「相変わらず性格悪いな。つまらないなら捨てるか、売ればいいだろう」

「それなんだけどね、設定や世界観は好きなんだよね。でも、この作家はそれを生かし切れてないのよ。惜しいのよ。なんか悔しいのよ」


そう言ったら和彦は私の頭に手をのせてポンポンと叩いて来た。


「そんなにいうなら読んでみるよ。ちなみにお前はどのレベルを希望してたわけ」

「えー、それは矛盾がない話よ。あと、あちこちにたてた旗の回収を忘れないとかね」

「麻美が好きなのって、栗本薫と、水野良だっけ」

「コバルト系以外だと、あとは田中芳樹さんと小野不由美さんかな。他にはイラストに惹かれて買う癖があるけど」

「コバルトは赤川次郎の吸血鬼のやつだったか」

「それはもう読んでないよ。今は前田珠子さんと榎木洋子さんかな。あとは若木未生さんとか」

「えーと、新井素子は?」

「最近はコバルト以外で書いているよね。今は新婚物語だったかな」


和彦は相変わらずポンポンと名前が出てくるな。私の好みを把握しているというか、読む系統が同じというか。


「漫画のほうは何を買っているんだ」

「安定の作者買いよ。でもね~、雑誌を買うのをやめたし立ち読みもしてないから、よっぽどでないと新しい人の話を読む気になれなくて」

「漫画喫茶がこっちにも出来たって聞いたぞ」

「そこに行く時間がないでしょう」


そう答えたら和彦が苦笑のような笑いを浮かべた。ついでに口の中で何事か呟いたみたいだけど、なんと言ったのかわからなかった。


「そういえば映画には行かないのか」

「映画? こっちに戻ってきてからは行ってないわね」

「麻美はどういうのが見たいんだ」

「う~ん。香港映画とか」

「・・・なんでカンフー映画なんだよ」

「だって、スカッとするもの」

「恋愛映画とかは」

「あー、無理。あんまり見たいと思わないわ。私は漫画でも思ったけど、コメディなら恋愛物を読めるけど、真面目な恋愛物は無理っぽだよ」


そう答えたらなぜか溜め息を吐いた和彦。ついで言った言葉に「えっ?」となった。


「だ、そうですよ、下平さん」


入口を振り向いたらゆっくりと部屋の中に入ってくる浩二さんの姿が見えた。


「ええっ。いつからそこにいたの」

「割合早くだったよね。多分ほとんどの会話を聞いていたんじゃないの」


浩二さんではなくて和彦がニヤニヤ笑いながら答えた。


(知っていたのなら教えろよ~)


などと思ったら、そばに来た浩二さんに抱え込まれてしまった。


「えっと、何しているの。浩二さん?」

「どうしてこう危機感がないかな、麻美は」


耳元で聞こえた低い声にゾクリとしたものが背筋を走っていった。


(これって、絶対わざとだ。・・・というか、なんで和彦の前でこんな体勢になっているのよ~!)


「放してくれないかな」

「嫌だ」


・・・これは酔っぱらいの駄々っ子なのだろうか?


「下平さんも苦労するねえ」


和彦が他人事のように言うから、私はギッと睨みつけた。浩二さんも同じことを思ったみたいで、鋭い声が和彦に投げかけられた。


「それを君が言うのかい」

「だって、俺と麻美がどうこうなるわけないから」


真顔で答えた和彦に私はこぶしを握りしめた。


(だったら変な挑発するなー!)


「どうこうなるわけないとは、君は麻美のなんなんだ」


(はい。私も何なのか知りたいです)


「何って、幼馴染みで親戚で、大学時代はこいつの保護者してましたね」

「ちょっと、聞き捨てならないこと言わないでよ。いつ保護者になったのよ」

「お前な、この前も言っただろ。俺の友人達に狙われていたって。俺が牽制してなきゃ泣くようなことになっただろうが」

「そんなことないもの。ちゃんと自衛したもの」

「麻美、お前の認識はずれているっていい加減わかれよ。あいつらの誰かとつき合っていたら、今頃妊娠させられてそいつと結婚していたか、堕ろすはめになって体と心に傷を負っていたかもしれないんだぞ」


和彦の言葉に私はムッとした。そこまで私は迂闊なことをしない自信はあるもの。


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