8 遊園地にて -Wデートー 前編
10月3週目の日曜日。今日は私と山本さん、原田さんと沙也加さんの4人で遊園地に来ています。
先週の土曜のカラオケ店で、どこかに遊びに行こうという話になった。どこか行きたいところがあるかと聞かれて、遊園地と答えてしまったら、原田さんと沙也加さんも最近行っていないからWデートをすることになったのよ。
原田さんが車を出してくれて、行きは何故か沙也加さんと後部座席に並んで座ったの。沙也加さんは4人兄妹の2番目だそうで、自分の妹達が生意気で可愛くないと言っていた。私みたいな妹が欲しかったと言ってもらえたわ。
それはいいのだけど、今のこの状況はどうしたらいいのだろう。
遊園地について約2時間。ジェットコースターやコーヒーカップなどのメジャーな乗り物を乗り倒し、園内のフードコートでいろいろ買い込んでのランチタイム。目の前に座った沙也加さんがニッコリ笑顔で、手に持ったものを私に差し出している。
「はい、あ~ん」
「・・・自分で食べれますけど」
「いいじゃない、食べてくれても」
目の前でフライドポテトが揺れている。これは食べなきゃダメかと思って、パクッと食いついた。その様子に満足そうにポテトから手を放した沙也加さん。
そうしたら何故か今度はナゲットが目の前に差し出された。差し出しているのは原田さん。期待に満ちた目で私を見ている。
(困った、どうしよう)
と思っていたら、山本さんがナゲットを奪って食べてしまった。
「おい、航平。せっかく麻美ちゃんに食べさせようとしたのに、取るなよ」
「お前がするな。ということで麻美さん、これ食べる」
つまようじに刺さったたこ焼きを差し出されたので、受け取ろうとしたら出した手を押さえられた。
「違うよね。はい、あ~ん」
(えっ、ここで)
戸惑って口を開けずにいたら、たこ焼きが唇に触れた。
「やっぱり駄目か」
そういうと山本さんはパクリとそのたこ焼きを食べてしまった。つまようじを他のたこ焼きに差して、今度はパックごと「どうぞ」と差し出された。そこから一つ取って食べたけど、先程のことが気になって、味なんてわからなかった。
もうキスをしているのに、間接キスが気になるってどうなんだろうと思いながら飲み物を口にした。
「やだもう~。麻美ちゃんがかわいい~。真っ赤になっちゃって~」
「お前とは大違いだよな」
「なによー。私だってつき合い始めはかわいかったでしょう」
「いやー。沙也加は最初から押せ押せで来てたじゃないか。恥じらいなんてお前には縁がないもんだろ」
「ひどい。俊樹のバカ。いいもん、午後は麻美ちゃんと回るから」
沙也加さんの宣言通りに食事後のアトラクションは、沙也加さんと並んで3つの乗り物に乗った。流石に3つも続けてはやり過ぎだと思っていたら、次のお化け屋敷の入り口で原田さんが沙也加さんを引っ張って中に入ってしまった。それも喧嘩をしながら。
「お前はいい加減にしろ。今日はWデートなんだぞ。2人に悪いと思わないのか」
「なによ。俊樹が悪いんでしょ。私だって・・・」
声が聞こえなくなり、まだ入り口で止められている私は、気をもんでいた。
「大丈夫かな、沙也加さん。あのまま本気の喧嘩にならないよね」
「大丈夫だよ。俊樹だってわかっているから。それにいつものことだし」
山本さんが笑顔でそういった時に私達の番になった。黒い幕をくぐって中に入ったら、そこは何も灯りがない場所だった。真っ暗すぎて何も見えなくなり、隣にいるはずの山本さんに手を伸ばした。私は触れた服をギュッと掴んだ。
「もしかして麻美さんて、お化け屋敷はダメな人なの」
「違うの。暗すぎて見えなくて」
「じゃあ、こうしようか」
服をつかんでいる手に山本さんの手が触れて、しっかりと握られた。
「じゃあ、行くよ」
山本さんに連れられて角を曲がると、そこはよくある日本の昔話に出てきそうな感じのつくりだった。私は薄暗くても灯りがあることにホッとして、進んでいった。井戸からお化けが現れたり、古いお堂から矢の刺さった落ち武者が出て来たり、お墓が動いたりするのを、どれもからくりだなと思いながら進んでいく。
だけど、山本さんが本当はこういうのが苦手なのだと気がついてしまった。からくりが動いて『ギャー』などの叫び声の効果音が響くと、つないだ手がビクッとしていたから。
出口はこちらと書かれた立札が見えてホッとしたところで、最後のからくりがバタンと出て来たのにはビックリした。上から逆さで血だらけのマネキンが降ってきたの。もう終わりだと油断していたから、本当にびっくりしたわ。
外に出て「怖かったね」と言われて、素直に頷けるくらいには驚かされた。
先に出て待っていた沙也加さんが少し青い顔をして、原田さんの服の裾をつかんでいるのが可愛かったです。