79 カツオ事件? 婚約者と悪友の対決編?
夕方の6時30分過ぎに浩二さんがうちに来た。台所に来て父に挨拶をした後、テーブルの上を見て声をあげた。
「すごいですね。どうしたのですか、これは」
「わしの同級生が持ってきたんだよ。捌かないと冷蔵庫に入らなくてな。仕事帰りなのにすまなかったな」
「いえ。カツオは好きですから」
そのまま父の隣の席を勧められて座ったのよね。
「浩二君も何か飲むか」
と、自分が飲んでいる焼酎を見せて父が言った。
「いえ、車ですから」
「ああ、そうだったな」
父は少し残念そうにしていた。私はご飯とお味噌汁をよそって、父以外の人の席に置いた。
そして、さあ食べようとした時に、玄関のチャイムが鳴った。
「はーい」と玄関に向かおうとしたら「おじゃましま~す」という声が聞こえてきた。なので、私は顔だけ廊下に出して声を掛けた。
「遅かったね。もう来るのをやめたのかと思ったよ」
「車を置いてきたのと、これ」
持っていたものを渡されて、袋の中身を見て私は言った。
「こんなに。ま~た~。持ってこなくていいのに」
「だけど克義伯父さんが持っていけっていうからさ。伯父さん家にも飲み切れないくらいあるからな」
台所に入りながら、来た人物、和彦が答えた。その姿を見て、浩二さんが驚いた顔をしている。そういえば和彦も一緒に食事をすると伝えてなかったと思った。
「和彦、お前はそこに座りなさい。浩二君、和彦のことは知っているかね」
「ええっと、この間挨拶はしました」
「そうそう。挨拶はしたからさ、おじさん」
「そうか。それで、和彦は何か飲むか」
「それじゃあ、ビールをお願いします」
和彦の注文に私はビールとコップを用意してテーブルに置いた。すかさず父がビールを持ってグラスに注ごうとした。慌てて和彦がグラスを持ちビールをうける。
「ありがとうございます、おじさん。・・・あれ。下平さんは飲まないんですか」
「俺は車だから」
「なんだ。それなら泊まればいいんじゃないですか」
「おお、そうだな。どうだい、浩二君」
「いや、それはさすがに・・・」
和彦の提案に父が喜色を浮かべて言った。それを浩二さんはとんでもないという様に、首と手を振っている。
「遠慮することはないんだぞ。浩二君は麻美の婚約者なんだし」
「そうだよねー。あっ、おじさん。俺も泊めてもらってもいい?」
「もちろん構わんぞ。部屋も布団もあるからな」
和彦は父と乾杯すると美味しそうにビールを飲んだ。その様子を見ていた浩二さんが、意を決したような顔で言った。
「すみません。やっぱり頂いてもいいですか」
「おおっ、そうか。何にするかい、浩二君」
「俺もビールをお願いします」
私はコップとビールをもう一つ出してテーブルの上に置いた。和彦がビールを持つと浩二さんに向けた。浩二さんもコップを持ちビールを受けた。
「それじゃあ、これからよろしくお願いしますね、下平さん」
「こちらこそ、渡辺君」
浩二さんと和彦と父はコップを触れ合わせていた。
それから和やかに・・・食事となった。
けど、母と祖母は早々に食べ終えて自室へと行ってしまったのよ。
私は食器を洗いながら、自室に逃げたくなっていた。
(というか、父さん。あなたが何とかしてよ。なんで雰囲気の良くない二人を見ながら、ニコニコ笑ってお酒が飲めるわけ?)
飲みながら食事を始めて、まずは和彦が浩二さんにちょっかいをかけたのよ。
「下平さんはお酒を飲めるほうなんですか」
「いや、あまり強くなくて、ビールも2本くらいで限界かな」
「そうなんだ。じゃあ、無理して飲まなくてもよかったのに」
シレッとそんなことを澄ました顔で言った和彦。その言い方に浩二さんは少しカチンと来たようだと、向かいに座っていた私はわかった。
そのあとしばらくは父を挟んで男三人で話しをしていた。そして気がついた浩二さんが和彦に言った。
「渡辺君は煮物に手を付けてないみたいだけど、好きじゃないのかい」
「あー、俺はゴボウやレンコンって好きじゃないんですよ。なんていうのかな、根っこを食べているような気になるんですよね」
「それは勿体ないね」
「でも麻美が作るものは、わりかし平気なんですよ。やっぱ下処理をちゃんとしてくれているからですかね」
「・・・麻美の料理を今までに食べたことがあるんだ」
「そりゃー、そうですよ。大学の時も近いところにいたから、差し入れで作ってもらったこともあったし。なー、麻美」
「そうだね」
(・・・和彦。なんで喧嘩を売っているの~! それも若干誤解を招く言い方をしているし。浩二さんの目が怖いんだけど! こんな感じじゃ食事を楽しめるわけないじゃない。母と祖母が逃げ出しても仕方がないわよ)
私も一通り片付けが終わって後ろを向いたら、浩二さんはかなり酔いが回っているのが見て取れた。
「浩二さん、もう飲むのをやめて少し横になったらどうかしら」
そう声をかけたら頷いた浩二さん。
「トイレに行ってくる」
と言ってお手洗いへと向かった。私は布団を敷こうと客間に向かおうと台所を出た。そこに和彦が声を掛けてきた。
「あっ、そうだった。麻美、玄関のところに本があるから」
「本?」
確かに玄関に紙袋が置かれていた。中には10冊ほどの本。
「読み終わったから返すやつと、新刊が出ていたから買ってきたのと、俺のお勧め」
「そう、ありがとう」
私は本を部屋に置いてこようと先に自室へと向かったのでした。




