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77 ブライダルフェア *

5月の3週目の日曜日。結婚式場のブライダルフェアに浩二さんと来ています。


結婚式場は、もちろん毎日結婚式が行われるわけではない。土日だって毎回行われてはいないもの。

現在いまはいろいろ西洋化してきているのに、結婚に関しては六曜の大安がいいとなっているからだ。人気がないのは仏滅と赤口。この日にはほとんど予約は入らないそうなの。

だから、予約が入らないこの日にブライダルフェアを行う様になったと聞いたのね。


ブライダルフェアは丸山さんが言ったように、カップルの参加がほとんどだった。


流れとしてはチャペルでの模擬結婚式から始まって、簡単な式の流れを見せられたの。その後、神式で行う場合の部屋にも案内されたわ。そこから披露宴会場に移り、プロジェクターで映し出される最近の式で行われるオプションの数々を見せられた。


(ゴンドラ? どこぞの芸能人よ。ドライアイスの煙もオプションなのね。神輿って・・・。キャンドルサービスもそうなの。はあ~? 親への感謝の言葉・・・これもオプションって!)


う~ん。と私は考え込んでしまった。あれもこれもオプションっておかしくない?


「麻美はやってみたい物ってあったか」


浩二さんが顔を寄せて訊いてきた。


「いや、どれもやりたくないと思ったけど」

「そうだよな。ゴンドラで降りてくるって、どんな拷問だと思うよな」


浩二さんもオプションの数々に辟易したようだ。でも、周りではカップルたちが、あれをやってみたい、これは必ずやりたいとキャッキャッと話していた。


「でもね、何もやらないのは間が持たないと聞いているわ」

「間が持たない?」

「そうなのよ。私の好きな作家さんが自分の結婚の話を小説に書いていたけど、その中で何もやらないのは間が持たないと言われて、最低限のことはやっていたのよ」

「最低限って?」

「確か、ケーキカットとキャンドルサービスだったかな。それから、お色直し」

「お色直しってオプションだったか?」

「えーとね、確か基本プランの中に、衣装のところがあったじゃない」

「そうだったか?」

「まあ、そこは女性のほうがメインになるから、男性が気がつかないのは仕方がないとは思うけど」


私は苦笑しながら答えた。


「それで、衣装は着物が1点とドレスが1点が基本プランの中に入っていたのよ」

「えっ? それは・・・」

「それもね、選んだ貸衣装の金額次第では差額を請求されるのよ」

「・・・」


私の言葉に無言になる浩二さん。しばらく黙ったのちポソリと言った。


「結婚式って何のためにするのだろうな」

「それは皆様への娯楽でしょ」

「娯楽なのか」

「昔って今みたいに娯楽は少なかったでしょ。飲んで騒ぐための口実だったと思うのね」

「家同士の結びつきの大切なものだと思っていたのだけど」

「それもあったのは確かよ。でも、庶民にとっては娯楽以外の何物でもないわよね」


頭を抱えた浩二さんが呻くように言った。


「式をやめるわけには・・・」

「いかないわよね。もう父が喜んでふれ回っているもの」


私のことをギョッとしたように見つめてきた彼。


「なんて?」

「娘の結婚が決まって式に呼ぶから来てくれって。畑で会うたびに皆さんに話すから恥ずかしくて」


浩二さんはガクリと肩を落として項垂れてしまい、なんか可哀そうになってしまった。


「大丈夫よ。そこは丸山さんと話して、必要最低限のものだけをやるようにしましょう」

「そ、それもそうか」


私の言葉に何とか持ち直した浩二さんでした。


その後は、披露宴に出される料理の試食。もちろん全部が出るわけではないけど、何品かの料理が出された。ローストビーフの柔らかさを堪能し、これは出す料理に加えようと浩二さんと意見が合ったのでした。


試食が終わった後は引き出物が展示してあるコーナーへ。バームクーヘンなどの定番なお菓子類や食器なども幾種類か置かれていた。ここに展示してないものはカタログも用意されていて、そこから選ぶこともできるようだ。


私の家に戻り両親にどんな様子だったのか報告してから、また私の部屋に行った。


部屋に入ると途端に抱きしめられた。しばらくされるがままになっていたけど、唇が離れたところで私は浩二さんの目を見つめて言った。


「なんか、くっつきすぎ」

「嫌か」

「嫌ではないけど・・・」


じゃあという感じに抱え込むように抱きしめられた。私の髪に顔を埋めるようにしているみたい。


(なんかな~、背もたれに丁度いいのだけど・・・)


「そろそろくっつくのには暑い季節になってきたよね」

「まだ、大丈夫だよ」

「私、あれから体調を崩してないんだけど」


一応気にかかっていたから言ってみる。


「・・・わかってる」


(わかってるって、何?)


それでも離してくれそうにないから私は軽く息を吐き出した。そうしたら、浩二さんが顔をあげたのか、頭から重みが消えた。


「そうだ、言い忘れてた。麻美、来週の土曜にちょっとつき合ってくれ」

「どこに行くの?」

「俺の友達の家」

「浩二さんの友達?」

「結婚することを話したら、お祝いしてくれることになった。急で悪いけどな」

「そう。わかった」


そう答えて、ん? となった。


「ねえ、その友達ってもしかして私が会わせて欲しいと言った人?」

「ああ。そいつもいる」

「そうなんだ。その人もいるんだ。フフッ」

「麻美?」


(フフッ。楽しみに待っていようじゃないの。変なことをけしかけてくれたことは忘れてないんだから!)


そんなことを考えていたから、浩二さんが不安そうに私のことを見ていたことには、気がつかなかったのでした。


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