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76 両家の顔合わせ 後編 *

「麻美さん、堪能させていただいたわ」


浩二さんのお母さんが満足そうに言ってくれた。


「いえ、お粗末さまでございました」


私は作りながら祖母と共に台所で食べた。味には自信があるつもりだけど、どうだったのだろうか。


久し振りに真面目に腕を振るってみた。自分にできることでおもてなしをしたいと思ったから。

例えお世辞だったとしても、浩二さんのお母さんの言葉はうれしかった。


この後、下平家は浩二さんの運転で、沢木家は私の運転で結婚式場に行った。祖母は伯母が来てくれて、みてくれることになっていたから。


結婚式場では丸山さんが待っていた。


「ようこそお越しくださいました」

「哲夫が担当なのか」

「当たり前でしょう、叔父さん」


席に座って丸山さんがうちの両親に挨拶をした。


「この度はおめでとうございます。私は丸山哲夫と申します。私の母が泰浩叔父さんの姉になりますので、以後お見知りおきください。浩二と麻美さんのお式は私がサポートさせていただきます」

「ありがとうございます。私は麻美の父の沢木尚志、こちらが母の美知枝です。どうぞよろしくお願いいたします」


挨拶が済むと、早速丸山さんはこれから結婚式に向けての準備の流れを説明してくれた。


「浩二から春の挙式ということで4月の1週目の土曜日を押さえましたけど、それでよろしかったでしょうか」

「もちろんだとも」

「こちらも異論はないです」


父達が返事をした。


「それでは差し当たっては急ぎで決めるものはありませんが、結納はどうされますか」

「行うつもりだ」


浩二さんのお父さんの言葉に頷く父。


「そうですか。それでは」


と、父達のほうに顔を近づける丸山さん。


「結納品はそちらで準備してください」

「なんだ、哲夫が準備してくれるんじゃないのか」

「そうしてもいいのですが、それだと高くなりますよ」

「そんなに違うのか」

「ええ。ここから700メートルほど離れたところに結納品を扱っている店があるのは知っていますか」

「もちろん知っているとも」

「そちらに直接行って購入した方が断然安いですからね」


丸山さんの言葉に声を潜めて父達も言葉を返した。


「どれくらい違うのか聞いてもいいか」

「こちらでも用意できないことはないのですが、昔と違って簡略化の方向になってますよね。なので、知らないで結納も当式場に頼まれると」


といって、丸山さんは手の平を見せた。


「これくらいは手数料として上乗せされると思ってください」

「そんなにか」

「はい。それにここで結納後の会食は受けていないので、また別なところに移動しなければいけなくなります。それならばそちらで購入して会食場所でやった方が安いですから」


小声で告げた丸山さんに浩二さんのお父さんが言った。


「いいのか、そんなことを教えてしまって」

「嫌だな、叔父さん。親戚に損をさせるようなことをするわけないじゃないですか。それに結納品とは別に婚約指輪は用意するのですよね。そちらはこちらで紹介させて頂きますから」


丸山さんはいい笑顔でそう言った。ということはジュエリーショップに紹介すると、紹介料が入るということなのだろう。


「でも浩二。急がなくていいぞ。結納のひと月前までに決めればいいからな。いや待てよ。サイズの直しがある場合も考えて、ひと月半前くらいに決めた方がいいか。そこはまた近くなったら確認するようにしておくな」


丸山さんはカレンダー(多分私達のスケジュール用)に書き込んでいた。


「それから来週にブライダルフェアが行われます。まだ時期的には早いけど、空きもあったので浩二達にも参加を促しました。いいですよね」

「それは親の参加は必要か」

「参加なさるうちもありますが、最近は結婚する当人だけの参加が多いですね」

「それなら二人に任せよう」


浩二さんの両親もうちの両親も頷いた。


「それでは差し当たってこんなところですが、何かご質問などはございますか」


丸山さんの言葉に親たちは首を振った。


「では、ご足労いただきましてありがとうございました」


私達は挨拶をしあうと、結婚式場のところで別れたのでした。


家に戻って伯母にお礼を言って見送ったら、父と母はぐったりとしていた。やはりかなり緊張をしていたようだ。なので、お茶を入れて私達は一息ついた。


ピンポーン


チャイムが鳴ったので、動こうとした父を制して私が玄関に行った。


「はい。どちら様でしょうか」

「浩二です」


と、ドアを開けて玄関に入ってきたのは、浩二さんだった。


「ご両親は?」


送ってきたにしては早すぎる。私達が家について10分も経っていないもの。


「駅前に送ってきた。デパートに行くって言ったから」

「浩二さんは行かなくてよかったの」

「一緒に行動するような歳じゃないだろう」

「あっ、そうね。えーと、どうぞ、上がってください」

「お邪魔します」


台所に顔を出したら、両親は驚いていた。私に話したことを繰り返し伝えた彼。その後私の部屋に移動した。


もってきたお茶をローテーブルに置いて座ったら、向かい側で手を広げている浩二さんの姿が目に入った。私が動かずにいたら浩二さんのほうが移動してきて、抱え込むように抱きしめられた。


「今日はお疲れ様。麻美の本気の料理を食べられてうれしかった」

「私も久しぶりに本気で作ったから楽しかったわ」

「あれならお店を開けるんじゃないか」


耳元で囁くように言われて背筋をゾクゾクしたものが上がってくる。


「それは無理でしょう。というか、お願いだから離れて」

「やだ。頑張った麻美を労わるの」


そう言って顔を仰向けにされて、優しい口づけが降ってきたのでした。


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