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74 親友と悪友への報告?

ゴールデンウィークの真っただ中の5月2日。千鶴が泊まりに来た。千鶴の会社はあまりゴールデンウィークに関係のない仕事のため、会社全体での休みはない。でも、2日、3日、4日と休みをもぎ取ったと笑って言っていた。


「それで、どうなったの」


と、聞かれたから、山本さんとの別れ話のことと、浩二さんとの結婚に向けてのおつき合いとなったことを報告した。

話を聞き終わった千鶴はニッコリと笑って言った。


「よかったね、麻美。ああ、違う。おめでとう、麻美!」


我が事の様に喜んでくれる千鶴に、うれしくなった。


「それで、プロポーズってどんなだったの?」


(・・・聞くのか、それを。いや、私だって他の人のプロポーズを知りたいと思うけどさ。でも、あのやり取りを話せと。・・・無理。絶対、無理!)


「えーと、そんな話すようなことはないのよ」

「ええ~、いいでしょう。私と麻美の仲じゃない。・・・もう、わかった。じゃあ、プロポーズはどこでされたの?」

「・・・えーと、海の見える公園で」

「時間は?」

「夜」

「ほうほう。それじゃあ、いつだったのそれって」

「えーと、2週間前の土曜日」

「えっ? ちょっと待とうか、麻美。私に話してないことがあるでしょう」

「何のこと?」

「とぼけるってことは、あるのね」


そう言ってニンマリと笑った千鶴。


「うふふっ。さあ、全て吐いてもらおうじゃないの」

「千鶴、悪い顔で迫らないで!」


結局千鶴の押しに負けて全て話すことになってしまったのよ。


山本さんとの話が終わり、家の前で別れたあと、私が浩二さんに連絡したことから話すことになった。迎えに来てくれた浩二さんに泣かさせてもらったこと。翌週、つまり2週前の土曜日に気晴らしに連れ出されて、その帰りのプロポーズだったと話した。


「そうか~。下平さんはいい人じゃん。麻美、幸せになるんだよ」


と、千鶴に満面の笑顔で言われたのでした。



千鶴は一泊だけをして家に帰っていった。

そして5月4日。私の目の前にはニヤニヤ笑いを張り付けた和彦がいる。


私はよーく考えた結果、やはり浩二さんとのことをなかったことにしようと思った。だからなかったことにするために、協力者として和彦を呼び出したのよ。


「それで、どんな面白い事になっているんだよ」


(くそ~。こいつにだけは知られたくなかったけど、頼めるのはこいつしかいないもの)


私は腹をくくると千鶴に話したことよりは詳しくどんなことがあったのか話していった。千鶴には話さなかった、プロポーズに関する顛末まで。


話し終わったら和彦はお腹を抱えて笑い出した。涙まで滲ませて笑っている姿に、殴りたくなるのを必死にこらえた。


「あー、おっかしー。本当に落としてやんのー」


やっと笑いを治めた和彦がそう言った。


「それで、麻美はどうしたい訳。もう外堀どころか内堀も埋まっている状態だろ」

「・・・なかったことにしたい」

「ほお~。どうやって?」


和彦は口笛を吹くような感じに口をすぼめて楽しそうに言った。


「他の男の影でもあればなかったことに出来るんじゃないかと」

「つまりその役を俺にやれと」

「そうよ。他に頼める人がいないんだから、和彦にお願いしたいんだけど」


和彦はフムッと考え込んだ。


「それだと俺にはデメリットしかないんだけど」

「ウッ・・・ごめん。私にできることなら何でもするから」


そう言ったら、少し考えこんでからニヤリと笑った。


「いいぜ。やってやっても」

「ほんとう。お願いします」


私は和彦の手を握ってそう言ったら、逆に私の手を掴まれてしまった。


「ただし、条件がある」

「条件?」

「そう。偽の恋人をやってやるから、その間俺につき合うこと」

「和彦につき合うの? わかった」


私はその条件に頷いた。そうしたら、和彦が悪魔のような悪い笑みを浮かべた。


「おいおい。本当に分かっているのか。俺は恋人ごっこをしようって言ってるんじゃないんだぞ。ちゃんと大人のつき合いを望んでいるんだからな」

「大人のつき合い?」


えっ? って、思った時には、私は和彦に押し倒されていた。


「麻美もさ、それくらいのことはしてくれんだよな。もうすぐ下平さんが来るんだろ。どうせならそういう状態を見せつけた方が早くねえ」


押さえこまれて逃げ出そうともがく私に、和彦はそんなことを言った。


「麻美が本気なら、俺もつき合ってやる。どうする、麻美」


私は動くのをやめて和彦のことを見つめた。和彦は何の感情も見せない眼差しで私のことを見つめ返していた。


しばらく見つめ合っていたら和彦はフウ―と息を吐き出した。そして私の上から退くと引っ張って起こしてくれた。


「ほら、麻美には無理だろ」

「でも、・・・悪いもの」


俯いてそう言ったら和彦に抱きしめられた。


「本当、お前は面倒くさい性格しているよな。自分のことは後回しで周りの奴のことばかり気にしてさ」


肩に手を置かれて。


「だから、そんな奴なんかごめんだね」


その言葉と共に突き飛ばされた。ひっくリ返ると思ったのに、誰かに受け止められて、そのまま抱きしめられた。


「初めまして、下平さん。俺は麻美の幼馴染み兼親戚の渡辺和彦です。ちゃんと捕まえておかないと誰かに盗られるかもしれませんよ」

「それは君じゃないのか」

「俺? 嫌ですよ。こんな面倒くさいやつ。もっと素直なやつがいいです」


和彦は私に顔を寄せると小声で(ただし浩二さんにも聞こえる声で)いった。


「下平さんにお仕置きされろ」


そうして、私の部屋を出て行ったのよ。残されて私は浩二さんの腕の中で震えていた。


「麻美、彼との関係を話してくれないか?」


私はやってしまったと思いながら、ただの親戚の幼なじみだと言葉を尽くして話したのでした。


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