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7 居酒屋にて

山本さんと次に会ったのは翌週の土曜日。本当は前の週の週末も会いたかったけど、軽い風邪をひいてしまい、両親に外出を止められてしまったの。代わりに毎日、電話で話をした。


翌週の土曜日(10月2週目)に会ったのは、山本さんと2人だけではなかった。京香さんと原田さんも一緒だった。

いえ、これは間違い。それぞれの彼氏と彼女も一緒で、6人で会った。


居酒屋で京香さんの彼氏といって紹介されたのは、ひょろりとした男の人だった。体格のいい京香さんと並ぶと細さが目についた。でも、京香さんのことが好きで仕方がないようだ。面倒見のいい京香さんに惚れて、付きまとって落としたとか。

一歩間違えればストーカーだったと、京香さんは笑いながら話していた。


原田さんの彼女は三友紀ちゃんではなかった。彼女さんとはもう5年のつき合いになると言っていた。綺麗な人で、軽いノリの原田さんを尻に敷いている感じが伺えた。


私は山本さんの隣に座りながら、緊張をしていた。今日会ってからこの前のことが思い出されて仕方がなかったの。


京香さんと原田さんに揶揄われながら、和やかに食事をした。お手洗いに行って戻ってきてそろそろお腹がいっぱいになり、右手で飲み物を飲んでいたら不意に左手をつかまれた。


山本さんは左利きだから、右手で箸などを待たないから空いていると云えば、空いていたけど。突然のことにどうしていいか分からなくて、黙ってしまった私に気がついた原田さんが、話しかけてきた。


「どうしたの、麻美ちゃん。もう酔っちゃったとか」

「あっ、いえ・・・その」


言い淀む私とすました顔の山本さんの顔を見比べて、ピンときたらしい原田さんが私達のことを覗き込んできた。


「航平、お前麻美ちゃんに何してるの。麻美ちゃんを困らせるようなことをするなよ」


覗き込まれた時には山本さんは私の手を離していた。なので何もない状態の私達に訝しそうな表情を向けてきた。そうしたら山本さんは突然立ち上がった。


「どこに行くんだ、航平」

「トイレだよ」


そう言って席を離れていった。残された私に皆の視線が集中した。


「それで麻美ちゃん。公平に何をされたの」


原田さんが心配そうに訊いてきた。


「他から見えないのをいいことに、スカートの中に手を突っ込まれたとか」


続けて言われた言葉に私は顔を赤くしながら、首を横に振った。


「違います。そんなことされてません」


と私が答えるのと原田さんの頭が思い切り叩かれたのは同時だった。


「痛―な。何するんだよ、沙也加」

「俊樹、それってセクハラよ。ごめんなさいね、沢木さん。本当にこいつってばデリカシーがなくて」


原田さんの彼女の沙也加さんが済まなそうな顔をして言ってきた。


「でも、麻美がおとなしくなるなんて、本当に何をされてたの」


京香さんにまで言われて私はもっと赤くなったと思う。


「あの・・・手を・・・」

「ん? 手?」

「握られて・・・驚いただけで・・・」


目を伏せながらそう言ったら、誰かの溜め息が聞こえてきた。


「何してんだよ、航平は」

「俊樹、航平ってこんな奴だっけ」

「いや・・・わかんないな。今まで、あいつの彼女込みで会ったことはないから」


みんなの視線が私に向いた気がする。


「でも、なんかわかるかな~」


京香さんの彼氏、典行(のりゆき)さんがのほほんと会話に加わった。


「沢木さんが可愛くて反応が見たくなったんじゃないのかな」

「あっ、それ! 私も賛成。沢木さんって慣れてない感じがすーごくわかるから、いろいろ構いたくなるのよね」


沙也加さんも頷きながら言った言葉に、京香さんまで。


「そうなのよ。なんか危なっかしくて放っておけないのよ」

「えーと、どうしたの、麻美さん」


そこに山本さんが戻ってきて、真っ赤な顔で俯いている私に声を掛けてきた。私は顔をあげると、山本さんのことを見上げた。


「ウッ」


何故か、うめき声をあげた山本さんは私の隣に座ると、私の頭を抱え込むように抱きしめてきた。


「あまり麻美をいじめないでくれませんか」

「お前だ、お前! 航平。俺達から見えないからって、麻美ちゃんに何しているんだよ」

「手を繋ぎたくなったから繋いだだけだけど」


悪びれずにいう山本さんに、原田さんと京香さんが動いた。


「お前、酔っているな。麻美ちゃんから離れろ」

「そうよ。離れなさい、航平。麻美が気を失う前に」


原田さんが山本さんを押さえている間に、私は京香さんの腕の中に移った。そのまま私は京香さんの隣の席に移動させられた。

山本さんの隣には原田さんが座った。沙也加さんの隣に典行さんが移動した。


「ひどいな~。麻美がかわいいから手を繋いだのに」

「お前はもう、黙れ」

「えー、私は山本さんの気持ちがわかるけど」

「僕も。沢木さんはかわいいですよね」

「麻美はあげませんよ。俺のものです」

「いいから、お前ら黙れ!」


カオスな会話が繰り広げられている横で、私は京香さんに顔を覗きこまれていた。


「大丈夫、麻美」

「はい。なんとか・・・」


私の顔を見ていた京香さんは、ふう~っと息を吐き出した。


「本当に困ったものね。経験不足にしても、もう少しどうにかしないとね」


この後カラオケ店に移動して2時間みんなで歌いまくった後、家に帰った。もちろん山本さんは一緒のタクシーに乗ってうちのそばまで送ってくれた。


私が先にタクシーに乗り込んだのでいつものところで降りる時に、一度山本さんが降りてから私が降りることになった。


私が降りてすぐにタクシーに乗るのかと思ったのに、山本さんは私の肩に手を掛けて顔を近づけてきた。すぐに離れてタクシーに乗り込んだ。


「おやすみ」

「おやすみなさい」


私はタクシーが見えなくなるまで、そこから動くことが出来なかったのでした。


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