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69 浩二の告白 その2

下平さんの胸に頭を寄せるようにして彼の話を聞く。


「それで、少しでも意識して欲しくて、別れ際に指先に口づけたんだ。本当は手の甲にしようと思ったけど、そこまではやり過ぎかなと思ったし」


(グッ・・・確かにあれから気になって仕方なかったけど・・・。まんまとひっかかっていたじゃん、私)


「その後、てっきり麻美の家から断られると思ったのにそれはなくて、どうなったのかと思った時に麻美から連絡が来てうれしかった。麻美は断りたそうにしていたけど、もう一度会いたくて仕事中を口実に連絡先を聞きだした。本当は中野さんに聞けばすぐに連絡先は教えて貰えただろうけど、出来ればそれはしたくなかった」


(う~。母さんが断ってくれなかったから。だから、私が自分で連絡することになったのよ)


「もう一度麻美に会えることができてうれしかったけど、会った時の麻美の様子が凄く気になった。明らかに前より痩せてしまっていたし、会ってすぐに断ろうとしていただろう。何があったのかはわからなかったけど、暗い表情をさせていたくなかった。美術鑑賞している時、本当に嬉しそうに楽しそうにしていたから、よかったと思ったよ」


(私、あの時そんなに暗い表情をしていたの? その時から心配をかけていたの?)


「靴擦れのことに気がつかなくて悪かった。もう少し早くわかっていれば喫茶店まで歩かせなかったのに」

「それは、先に予防をするのを忘れた私が悪かったから」


そう、いつもなら先に予防で絆創膏を貼るのに、忘れてしまったから。


「でも、手当てをしてくれてありがとう」

「いや、逆にご褒美はもらったから」

「ご褒美?」


あの時のことを思いだす。手当てが終わりストッキングを穿こうとしたら、「煽った私が悪い」ってキスされた・・・。


(あれがご褒美かー!)


と、キッと下平さんのことを睨みつけた。なのに下平さんは手を顔の下半分にあてて、視線を逸らしている。


「麻美は天然すぎるよな」

「どこがよ」

「あの時だって」


と、言い淀む下平さん。


「何よ。私が何かしたっていうの」

「治療した後・・・」

「ストッキングを穿こうとしただけじゃない」

「やっぱりわかっていなかったろ」

「だから、何が? 普通の行動でしょ」

「思い出して見ろ。あのスカートで足を立てたらどうなる」


えーと、ワンピースが膝丈で、座るともう少し上まであがって、足を立てると・・・!


「見た?」

「ただでさえ生足で色の白さにドキドキしていたのに」

「見たのね!」


下平さんと視線が合った。


「麻美が天然だって気がついてなかったら、誘っているって思ったぞ」

「そ、そんなこと、し、してないから~!」


動揺してどもってしまった。多分顔は真っ赤になっていることだろう。


「はいはい。わかっているから」


と、言ってまた抱きしめられた。


「本当にかわいいよ、麻美は」


顎に手が掛かると上を向かせられて、唇が重なった。さっきまでとは違う優しい口づけに私は目を閉じた。


(えーと、何でこんなことになっているんだっけ。喧嘩・・・を、しているわけじゃないのよね。・・・そうよ。今日の出掛けた先のこと。私に何の説明もなく勝手に進められて、文句を言おうと思ったのよ。・・・なのに、何故私のほうが詰られているの? それに・・・これって、告白? 最初から気に入られていたなんて・・・)


唇が離れると下平さんに頭を抱え込むように抱きしめられた。


「どこまで話したかな。・・・ああ、美術館に行った後のことまでだったな。あの時、我慢できなくてキスをして、麻美に拒絶されなかったから、少しは可能性があるかと思って告白したけど・・・結局は断られたんだった」


下平さんの声に苦いものが混ざったように思う。私を抱きしめる手に力が入った。


「つき合っている人がいると言われて、麻美が俺と会った時の態度にやっと納得できた。麻美とは縁がなかったものとして諦めようと思った。・・・けど、麻美が泣きながら彼とは別れると言ったから・・・それなら、俺が貰おうと思った」


(ん?)


「別れ話をすると云うから、なんとか理由をつけてその場について行こうと思ったんだ」


(はい?)


「麻美はそこまでは申し訳ないとか言いそうだったから、後をつけて行こうと思っていたんだけどね」


悩まし気に溜め息を吐きだした、下平さん。告げられた言葉に疑問と疑惑が浮かんできた。声が震えそうになったけど、とにかく聞いてみる。


「なんで? そんなことをしようとしたの」

「もちろん心配だったから」


(やっぱり。好意からなのよね)


でも続けて言われた言葉に、下平さんの腕の中から逃げ出したくなった。


「麻美が別れ話を切り出せないとは思わないけど、説得されて別れないことになるかも知れないとは思ったな。そうならないように見張っていようかなってな」


(・・・見張ってって・・・)


私は唇を噛んだ。


「だけど、それよりも別れを告げられた男が、麻美に何をするかわからなくて不安に思ったんだ。もしそいつが逆上して麻美のことを傷つけたらって思ったら、居てもたってもいられなくなった。・・・けど、肝心な会う時間を聞き忘れたことに気がついて、電話をかけたけど、麻美がもう家を出た後だと聞かされたんだ。それなら麻美からの連絡を待とうと思ったら、親父さんから話があると言われたんだよ」


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