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66 下平家、訪問! 後編

案内された奥の部屋には年配の男性とかなり年配の女性がいた。その向かいに案内されて、座るように促された。案内してくれた年配の女性は男性の隣に座った。そこに下平さんと同じ年くらいの女性がお茶を持ってきてくれて、皆の前に置いた。そうしたら男の子を抱いた男性も現れた。


・・・女性とか男性とか言っているけど、部屋の中に揃ったのは下平さんの家族。ご両親と祖母。お兄さん一家のはず。


皆に見つめられて私の緊張感が高まってきた。なんとか笑顔を張り付けているけど、もう泣きたい気分だ。


「こちらがおつき合いをしている沢木麻美さんです」


下平さんに紹介をされて私は挨拶をした。


「沢木麻美です。どうぞよろしくお願いします」


軽く頭を下げた。顔をあげると、向かいのご両親は目を細めて私の事を見ていた。


「麻美、俺の両親と祖母。あと兄夫婦と姪と甥だ」

「浩二、そんな紹介の仕方があるか。すみませんね、沢木さん。ちゃんとした紹介も出来んやつで」


下平さんが凄く簡単に紹介をしたら、下平さんのお父さんが顔をしかめて軽い叱責をした。


「あっ、いえ。そんなことはないです。し・・・浩二さんから先に聞いていますから」


そう答えたら、お父さんの目が細まった。隣のお母さんも笑っている。


「そうか。だが、最初が肝心だろう。こういう時にちゃんと出来ないようでは、仕事の時にも出てしまうだろう」


(いえ、それは私の緊張を解そうと、わざと簡単にしてくれたんです。って言ってもいいのかな)


そんなことを思っていたら、私の足に下平さんの手が触れた。軽く手の甲でポンと触れてすぐに離れたから、私が考えたことは当たっていたみたい。それを言うなということなのだろう。


「浩二、沢木さんもいることだし、説教はまた今度にしてやる。沢木さん、私は浩二の父の泰浩やすひろです。隣が母の博美ひろみ。こちらが祖母の登美とみ。そちらにいるのが浩二の兄の泰一やすかず、隣が嫁の佳恵よしえ、その娘の真佑美と、息子の隆政たかまさです。これからよろしくお願いします」

「はい。よろしくお願いします」


私はお父さんの紹介に一人一人の顔を見ていった。皆さんは紹介されると私と目を合わせて、軽く頷いたり、頭を下げたりしてくれたの。


「じゃあ顔を見せたし、もう行くよ」


下平さんはそう言って立ち上がった。私は腰を浮かしかた状態で下平さんのことを見上げた。下平さんは微笑んで私の腕を持つと引っ張った。つられて立ち上がったら、お父さんの声が聞こえてきた。


「なんだ、もう行くのか。まだ何も話してないだろう」

「そうだけど、約束があるから」


そう言われた下平家の人々は納得したように頷いた。私はその様子に(聞いてない!)という気持ちを込めて、下平さんを見た。下平さんはお兄さんと話していて私の視線に気がつかなかった。


「浩二、丸山の兄貴に今度飲みに行こうって伝えてくれ」

「わかった」


私の背中に背をあてて玄関に連れて行かれた。皆さんも玄関まで来てくれた。


「慌ただしくてすまないね、沢木さん。今度はゆっくり来てください」

「はい。お邪魔しました」


お父さんが代表して挨拶をして、私も軽く頭を下げた。お母さんが下平さんに何か紙袋に入ったものを渡した。


「これ、行く前に仕舞いなさいね」

「わかった」


受け取った下平さんが頷いた。そうして私達は下平家をあとにしたの。


車に乗ってすぐ、私は下平さんに文句を言った。


「下平さん、今度はどこに行くのよ」

「麻美、名前」

「だから、どこに行く気よ!」


睨みつけたら、シートベルトをしめようとした手を止めて、私のほうに身を乗り出してきた。


「麻美、名前を呼んでって言ったよな」

「だから、下平さんも私の問いかけに答えてよ!」


そう言ったら顎に手が掛かり唇を唇で塞がれた。すぐに離れたけど、まだ顔は私のすぐそばにある。やばいと思った時には右の耳元に口を寄せて囁いてきた。


「名前を呼んでくれないと、お仕置きするぞ」


背中をゾクりとしたものが駆け上り、私は耳を押さえてドアのほうに身を寄せた。


「浩二さんの意地悪」


そう言って睨んだら、もう一度顔が近づいて唇が触れあった。


「素直じゃない麻美が悪い」


そんなことを言われたけど、どこに行くのか教えてくれないのが悪いと思うの。


シートベルトをしめて車を発進した下平さんは言った。


「どこに行くかは着いてからのお楽しみな。だけど、その前に少し寄りたいところがあるけど、いいか」

「いいけど・・・」


着いた先は下平家から車で5分ほどのアパート。下平さんが手招きするからついて行く。彼は2階の一番奥の部屋の鍵を開けて中に入った。


「えーと、もしかしてここで暮らしているの」

「ああ。兄貴たちは真佑美が生まれたら同居したんだ。部屋もないし邪魔だろうから家を出た」


そう言ってお母さんから渡された紙袋の中からタッパーを取り出して冷蔵庫に仕舞っている。どうも中身は料理みたい。私はそれを横目に見ながら部屋の中をキョロキョロと見回した。適度に物が散らかっている。誰かのモデルルームみたいな部屋と比べて生活しているのがわかる部屋だと思ったの。


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