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64 沢木家にて

鍋のふたを開けた私は小皿にスープをとって味見をし、迷ってしまった。祖母に話しかけられて相手をしている下平さんの姿を見ながら思案する。小皿にスープを入れて祖母の元にいった。


「おばあちゃん、これどうかな? 少しからいかな」

「ど~れ。・・・そうだね、少しからい気もするねえ」

「やっぱり。じゃあ、もう少し薄めるね」


コンロのそばに戻ったら下平さんもついてきた。


「何を作っているのかと思ったら、ロールキャベツか。道理でいい匂いがしたわけだ」


私は少し薄めて、味の微調整にお酒を足した。小皿にとって味を見て、チラリと下平さんのことを見る。


「下平さんも味見してみます」


別の小皿に少しスープをよそって渡す。下平さんが味見をする姿をじっと見つめた。飲み干した下平さんと目が合い、ニコリと微笑まれた。


「美味い」


その言葉に私は肩の力を抜いたの。コンロの火を消して椅子に座ったら、下平さんが少し心配そう見てきた。私は大丈夫だというように、彼に笑いかけたの。



今朝は起きた時、まだ熱が大分高かった。昨日よりは下がっていたけど、まだ熱があるといえるくらいには高かった。


なので、父に連れられて近くの医院に行ってきた。医院で体重を量って、先生に急に痩せすぎと言われてしまった。採血もされて3日後に結果を聞きに行くことになっている。そして薬を処方された。


なので家に帰ったら、私は自分の部屋ではなく祖母と一緒の部屋で寝ていたの。その間に両親はキャベツを採りにいった。母は運ぶことは難しいけど、キャベツを採ることはできる。移動は杖を使うからゆっくりだけど、動けないわけじゃない。


昨日よりは数は少ないけど採ってきたキャベツを袋に詰めると、二人で市場へと出かけて行った。


薬が効いたのか両親が出掛ける頃には、私の熱は下がっていた。なので、私は夕食を作り始めたの。


今の我が家はキャベツが大量にある。市場には出せないものは家で食べるのだ。採りたては甘くておいしい。千切りキャベツでも十分に美味しいもの。


両親が帰ってきて、夕ご飯になった。父さんは下平さんに少し申し訳なさそうにして、晩酌を始めたの。でも、下平さんはお酒にあまり強くないからと「気にしないでください」と笑っていた。


私はご飯を食べながら、思った。


(なんか馴染んでない?)


チラリと下平さんを見てから、小さく息を吐き出したのよ。



食事が終わった後、片付けは母がやるというので任せることにした。


話があるという下平さんと私の部屋に行って・・・。


(なぜ私は下平さんに抱えられているのだろう?)


部屋の中に入って座布団を置いて座ってもらい、私も向かい側に座ろうとしたはずなのに。

腕を引っ張られて体が反転したと思ったら、下平さんの腕の中に納まっていた。背中から抱きしめられるように抱えられている。・・・じゃなくて抱きしめられているのか。


「あの、離して欲しいんですけど」

「駄目。病み上がりなのに無理をしただろう」


(おかしいな? バレているとは思わなかった。でも、無理というほどのことはしてないんだけどな。熱は下がったけど反動なのか、料理を作るために立っていたら疲れただけなんだけど)


「麻美、お医者さんは何て言っていた?」


腕の中から抜け出そうかと考えていたら、左耳に囁くように声がして私はピキリと固まった。返事ができなかったら、もう一度耳元で声がした。


「麻美? 話せないようなことを言われたのか」

「ち、違うから。疲労による発熱か、もしくは知恵熱だって言われたから」


私は下平さんの声に痺れて、言わなくていいことまで言ってしまったことに気がつかなかった。


「知恵熱? そんな子供みたいなこと・・・。って、麻美?」


下平さんが後ろから顔を覗き込んでこようとしたから、私は急いで顔を両手で覆った。


「ねえ、麻美。知恵熱出したって、そんなにストレス掛けたか」


(・・・いや、ただ単にキャパオーバーしただけです)


「引っ張り回して疲れさせたとは思ったけど、それがストレスになっていたなんて・・・」


(・・・ストレスにはなってません。・・・というか、耳元で囁かないで~! なんかゾクゾクするんだけど!)


「そうか、ストレス。・・・やはり麻美とは縁がなかったと諦めた方がいいか」


その言葉と共に耳に下平さんの唇が触れて、思った以上に体が跳ねた。

暫しの沈黙後、再度耳に唇をつけられて声まで聞こえてきた。


「麻美って耳が弱いの?」


バッと振り返ったら、楽しそうな表情の下平さんと目が合った。そしてクックッと笑いだした。


「顔、真っ赤」

「うるさい!」


腕の中から抜け出そうと彼の腕の引きはがそうとしてみたけど、逆に力を入れられて動きを封じられてしまったのよ。


「離してよ」

「やだ」

「やだって、子供じゃないだから。・・・ひゃあ!」


耳に唇が触れられただけでなく、軽く噛まれて変な声が出てしまった。


「麻美、かわいい」

「かわいくないもん」

「麻美はかわいいって。・・・やばいな~」


私を抱え直すように腕の位置を直した下平さんが、ぼやくように言った。


「何が?」

「麻美にいたずらしたくなってきた」


(いたずら? いたずらってどんな?)


頭に浮かんだのは、某漫画のある場面。ヒロインが息も絶え絶えの状態にされていたっけ・・・。想像したものに固まったら、今度は溜め息が聞こえてきた。


「病人の麻美にはしないよ」


(病人じゃなかったら、あんなことや、こんなことをするつもりだったのかー!)


私の顔を見た下平さんはもう一度溜め息を吐いた。


「どんな想像をしたのかは知らないけど、それは間違いだと思うぞ」


(えっ、そうなの?)


という気持ちを込めて見つめたら、軽く唇にキスをされて、再び下平さんは溜め息を吐いたのでした。


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