6 2度目のデート -初キスー
山本さんとその次に会ったのは4日後の水曜の夜。一緒に食事をしたの。行ったのは気取らなくて済むファミレスだった。
食事を終えるとお店を出て夜のドライブに行った。夜景が綺麗に見えるという山の中腹に行ったの。9月も終わる頃なので、昼間は暑いくらいの気温でも夜は肌寒いくらいだった。というよりも、今日は夕方から冷え込むと言っていたの。
それなのに私は昼間の感覚で上着を持ってこなかった。車を降りて夜景を見ていたら、体が冷えてしまった。「クシュン」とくしゃみをしたら、山本さんに車に戻ろうと言われた。
車に戻ると山本さんは上着を脱いで私にかけてくれようとした。私は悪いからと断ると、両手をギュッと握られた。
「こんなに冷たいじゃないか」
と、じっと見つめられながら言われたの。
私の心臓はドキドキと鳴っていた。山本さんに掴まれた手から、私の鼓動が伝わってしまうのではないかと焦ってしまった。
「あの、大丈夫だから」
山本さんの手から自分の手を引き抜こうとしたら、逆にもっと強くつかまれてしまった。
「手をつないでいるのは嫌?」
「嫌、じゃない・・・」
優しい声で微笑んで言われたけど、山本さんの目を見ていられなくて私は俯いてしまった。
山本さんの右手が離れて、私の頬に移動した。優しく撫でられて彼の事を見つめた。
「頬も冷たいよ、麻美さん」
心臓がドクンと鳴った。
「・・・名前」
私は名前を呼ばれたということを呟いた。
「名前を呼ばれるのは、嫌かな」
「ううん」
彼の手が頬に触っているから、小さく首を振った。
「そう、よかった」
微笑んだ彼の顔が近づいてきて、唇が重なった。軽く触れてすぐに離れたけど、彼の顔は目の前にある。彼の目を瞬きを忘れたかのように、私はじっと見つめた。
「好きだよ、麻美さん」
「・・・私も」
勝手に戦慄く唇を一度噤んで、力を入れると同じ気持ちだと、一言で伝える。彼の顔が嬉しそうに綻んだ。
「同じ気持ちで嬉しいよ」
彼の顔が再度近づいてきて、私は今度は目を閉じた。唇だけでなく頬や額にもキスの雨が降ってきた。もう一度唇にキスを落とされて、彼が私から離れていった。
ばさりという音がして、私の身体に彼の上着が掛けられた。
「まだ、手が冷たいから」
照れて、言い訳のようにそう言った彼。そして車を発進させた。
私は彼の上着を口元まで引き上げて、赤くなっているだろう顔を隠したのでした。
家のそばまできて、この前のところで車が停まった。
「あの、ありがとうございました」
そう言って車を降りようとしたら、右手をつかまれた。彼の方に引き寄せられて唇が重なった。そのままギュウッと抱きしめられた。私もおずおずと手を伸ばして、彼の背中に手を回す。そうしたらもっときつく抱きしめられた。
「駄目だよ。こんなことされたら離せなくなる」
耳元で山本さんの切なげな声がした。
「私も・・・もっと一緒にいたいの」
口からするりと本音が漏れた。
「そんなにかわいいことを言わないでくれ」
私を抱く力が少し弱まって、彼が顔を見てきた。もう一度顔が近づいてきて唇が重なる。さっきより長くキスをして、彼が唇を離した。それと共に私を抱きしめていた腕も解かれた。
「また、連絡する」
「はい」
小さな声で返事をして車を降りた。
「じゃあ、おやすみ」
「おやすみなさい」
助手席の窓を開けて彼がそう言った。私は彼の車が走り去るのを見送った。車が曲がって見えなくなると、私は家に向かって歩き出した。
無意識に唇を触りながら。
翌日、私は両親から最近よく会っている人がいるようだけど、どういう関係か聞かれたの。友達に紹介されて付き合い始めた人だと答えたら、「今度うちに連れてきなさい」と言われたのよ。
両親のその言葉に私は素直に「はい」と返事ができなかった。なので。「そうね」と曖昧に笑って誤魔化した。
両親は私の様子に訝しそうな視線を向けてきたのでした。