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58 すっとばしのプロポーズ その2

なんやかやと遊園地を堪能した私達は、夕方の少し早い時間に遊園地を後にした。でも、しっかり渋滞にはまってしまった。30分ほどノロノロ走り、渋滞を抜けて静岡に向けて走らせていく。


途中富士宮で夕食を食べた。知り合いのお勧めの店とかで洋食屋さんに入った。ピザがお勧めだそうでピザとパスタを頼んだら、当然のように取り皿がついてきた。他のテーブルを見ると、分け合って食べていた。なので、私はお皿にパスタを取りわけて下平さんに渡したの。


「ありがとう」と笑顔を向けられて困ってしまった。「いえ」とだけ返して、私は食事に集中した。


お店を出てここから静岡まで2時間はかかると言われた。「眠っていいよ」と言われたけど「眠るわけにはいかない」と言ったら、下平さんに苦笑をされた。


思っていたよりも道が空いていたそうで、高速に乗るのに時間はかからずに1時間で静岡に着いた。なのに、高速を降りたら家に向かわずに、別のほうに車を走らせる下平さん。


「どこに行くんですか」


思いっ切り不審な声を出したら、下平さんに苦笑をされた。


「もう少しつき合って」


と言われて連れていかれたのは、うちから車で10分ほどの海辺の公園。駐車場があるから、ここに来たようだ。


車を降りて公園の中を歩いて海のそばまで歩いていった。そこで私のほうを向くと下平さんは言った。


「麻美、結婚しよう」


私はたっぷり30秒(多分それくらい)黙った後、口を開いた。


「はっ?」


(いま聞こえたのは幻聴か? きっとそうに違いない)


そう思ったのに、下平さんは真面目な顔でまた言った。


「返事は?」


私は大きく息を吸うと言った。


「・・・おかしいでしょ。なんでいきなりプロポーズ?」

「つき合ってはもう言ったし、つき合うって返事はもらったから」

「待ってよ。私、つき合うなんて言ってないから。それにこの前まで彼がいたし」

「でも、もう別れたのだろう」

「確かに別れたけど。だからってなんで・・・。私は下平さんにお断りしましたよね」

「いや。あれは別れるからつき合いますってことだったろう」


(おかしい気がする。なんか下平さんと私の記憶に齟齬がある気がする)


「・・・言ってない。そんなこと一言も言ってない」

「ボロボロ泣いて告白してくれたのに?」

「そんな意味じゃなかったもの」

「じゃあ、どんな意味だよ」


私が言葉に詰まったら、下平さんに手を掴まれた・・・。


「あんなに熱烈に口説かれたのは初めてだったのに?」

「いや、おかしいでしょ。私は口説いたつもりはないし、そんなことしてないから」


(おかしい。私はそんなことを言ってはいないはずだ)


なのに、何故か冷汗が出てきた。


「それに私の事タイプじゃないっていったのに」

「それはお互い様だろ。麻美も言ったよな」

「言ったわよ。だからおかしいじゃない。それでなんでプロポーズになるわけ」


私はだんだんとむかっ腹が立ってきた。つき合うのを断ったはずなのに、再度のつき合おうという告白ではなくて、すっとばしてのプロポーズに。だから下平さんのことを睨みつけた。なのに、下平さんは私に睨まれていないかの様に、表情を変えることはなかった。


「それはあれだ。麻美が言った『あなたといると楽なの。自分を取り繕わなくていいから』って言葉に、なるほどって思ったんだよ。一緒に暮らすなら素の自分を見せられる相手がいいだろう」

「まあ、確かに。・・・じゃなくて、私はそんな言い方してないけど」

「ニュアンスはこんなものだろう」

「・・・本当にそんなんでいいわけ? 好きでもない人と暮らせるの」


そう言ったら、一歩下平さんが近づいた。


「好きだけど」

「はっ?」

「好みのタイプじゃないけど好ましい性格はしているだろ」

「えっ、どこが?」


私がムッと睨むように見つめたら、下平さんはもう一歩近づいた。私は逃げるように一歩下がった。


「真面目で融通が利かないところとか」

「だからどこがよ。私は二股掛けていたのよ」


(なんで口説かれなければならないのよ!)


と思いながら、やけくその様に私は叫んだ。


「それは麻美が自分からしようとしたんじゃなくて、母親が勝手にやったんだろ。黙っていればわからなかったのに、そのことまで丁寧に話してくれたりしてさ」

「だけど・・・それじゃあ騙すみたいで嫌だったのよ。それよりも、私、言ったわよね。こんな女に関わってないで、もっと可愛い人を探せばいいって。あなたなら見つかるわよ」

「そういうけど、意外と出会いは落ちてないんだよな」

「男同士でつるんでばかりいるからじゃないの」

「否定はしないけど、本当に出会いはないんだ」


今度は腕をぐいっと引っ張られた。近づく顔と顔。


「ちょっと、やめて。私じゃない他の人を探してってば」

「酷いこというな。プロポーズした相手に」

「だからそれは気の迷いなんだってば。同情よ、同情」

「本当に真面目で強情だな。これじゃあ実力行使に出た方が手っ取り早いか」

「誰が強情・・・」


なおも言い続けようとしたら、抱きすくめられて反論を物理的に塞がれたのでした。


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