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57 すっとばしのプロポーズ その1

私は目の前に座っている男のことを睨みつけていた。何でこんなことになった~!


今日は4月の4週目の土曜日。今、いる場所はかなり有名な遊園地だった。目の前にいる男は下平さん。本当にね、何でこんなことになったのよ。


いや、分かっている。昨日家に来た下平さんに、ここに出掛ける約束を父がしてしまったのよ。


先週の土曜日。家に帰った時間が遅かった(午後から出掛けたのに家に帰ったのは10時少し前だった)のに、両親からは何も言われなかった。ただ「お風呂に入って早く休みなさい」と、だけ。


次の日に遅くなったことの理由わけを話そうと思ったのに、私が口を開く前に「下平君から連絡をもらった」と言われたの。一緒にいた時にそんなそぶりを見せなかったから「いつ、連絡をもらったの」と訊いたら「7時過ぎに」という答え。どうも、コンビニで私がお手洗いに行っている間に電話をしたようだ。


私は両親に改めて山本さんとの別れ話について話した。簡単に話したのだけど、私の気持ちを黙って聞いてくれて、別れることを受け入れてくれたと言ったら「案外いいやつだったのかもな」と、父が呟いたことが悲しかった。


それから、約束だったから下平さんに電話をして別れた報告をしたら、何故か来てくれたことと、気晴らしなのかドライブに連れ出されたこと。あと・・・泣かさせてもらったことも話した。本当は黙っていようかと思ったのだけど、あそこまで遅くなった理由(眠ってしまったこと)を話すには、そのことにも触れないわけにはいかないと思ったから。


父と母はそのことを黙って聞いて、何も言わなかったの。


そう、この時に疑うべきだった。父が何を画策したのかを。



金曜の夜、7時過ぎ。仕事帰りだという下平さんがうちに来た。玄関に出た私は、そのことにすごく驚いた。


「こんばんは、麻美さん」

「こんばんは。どうしたんですか」

「麻美さん、明日出かけませんか」

「はい?」

「ああ、OKですか。それなら、動ける格好にしてくださいね」

「えっ? いえ、私はOKとは」

「どうしたんだ、麻美。おお、下平君」


下平さんと話していたら、父も玄関に来た。


「こんばんは、沢木さん。明日麻美さんと出かけたいのですがよろしいでしょうか」

「構わんが、どこに行くんだね」

「遊園地に行こうと思うのですけど、朝が早くてもいいでしょうか」

「麻美なら、起きれるから大丈夫だろう」

「それでは6時に迎えに来ます。では、これで失礼します」

「ああ、よろしく頼むよ。麻美、車は父さんが見るから、お前は家の中にいなさい」


と、父と下平さんで話しを進めてしまい、私に断らせてくれなかったのよ。


この後、さっさと風呂に入れだの、動きやすい服装はと、父と母がうるさかった。祖母まで出掛けるのならお小遣いをと、お金を用意しようとしてくれたのでした。



朝の6時。約束通りに迎えに来た下平さんに連れられて、私は隣の県の遊園地まで来た。


初っ端からのジェットコースターに始まって、ジェットコースター3連発って何?

その後も激しめのアトラクションばかりを選択されて、お昼を食べるためにフードコートの席に座った時には、私はクタクタになっていた。


私を席に置いて、焼きそばや飲み物を買って戻ってきた下平さんのことを、キッと睨みつけた。


「いったい、どういうつもりなのよ」

「何って、久し振りに遊園地で遊びたくなっただけだけど」

「それなら姪や甥を連れてきてあげればいいでしょう」

「まだ、3歳と1歳前だぞ。連れて来れるわけないだろう」

「じゃあ、友達とくればよかったじゃない」

「野郎ときたって楽しくないだろう」

「私じゃなくてもよかったじゃない」

「麻美と来たかったから」


私はあまりの言葉に口を噤んだ。そして目を細めるとムッとした声を出した。


「なんで、呼び捨て!」

「もうそろそろいい頃だろう」

「いや、良くないでしょう。下平さんと私はつき合っているわけじゃないんだから」


そう言ったらチロリという感じに私の事を見つめてきた下平さん。でも、気にした様子もなく買ってきたものをパクついている。自分の分の焼きそばを食べ終えた下平さんが言った。


「友達なら親しくなれば名前の呼び捨てくらいするよな」

「それはそうかもしれないけど」

「それより、まだ乗っていないものがたくさんあるな。早く食べて次に行こう」

「ええ~! まさか全部制覇するつもりなんじゃないでしょうね」

「ほら、喋ってないで早く食べて」


この後も遊園地内を引っ張り回されて、私は最後の観覧車に乗った時にはぐったりとしていた。


「ま、まさか、本当に制覇するとは」

「いや、全部は乗っていないぞ」

「どこがよ。それどころかまさかもう一度ジェットコースターに乗るとは思わなかったし」

「そこはお代わりいくだろう」

「どんだけ好きなのよ~」


おかげで観覧車の苦手な部分を忘れて乗ることができた。


「それより、ほら」


下平さんが指さした先には富士山が大きく見えた。


「おお~。大きいね」

「そうだな」


暫し見入ってから口を開いた。


「「やっぱり富士山は静岡側よね(だな)」」


台詞が被って、お互いの顔を見つめあった。そして、同時に吹き出した。


「どれだけ静岡が好きなんだよ」

「下平さんこそ」


観覧車が下に着くまで二人して笑ったのでした。


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