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53 親友の慰め?

千鶴は私の目を覗き込むように見ている。


「麻美がそんなことが出来る子だったら、心配なんかしないわよ。あんたは繊細な心を持っているの。少し臆病なところもあるけど、いつも真剣に相手に接しているでしょう。それに、黙っていればわからないのに相手に話すのって、それだけ相手に誠実でいようとしたからでしょ。そこをはき違えないの。わかった」


千鶴の言葉に私は頷いた。千鶴は私の頬から手を離して、布団に潜り込み直した。


「でもさ~、麻美は本当にいいの」

「何が」

「下平さんのこと。話を聞くと、なんかこのまま麻美のことを受け止めてくれそうなんだけど」

「それは・・・駄目だよ。下平さんに悪いもの」

「そう? つき合いたいって言ってくれたんでしょ」

「でもそれは、私につき合っている人がいるとは思っていなかったからの言葉だし。それを知ってつき合いたいとは思わないんじゃないの」

「いやいや。他の男と取り合うくらい、いい女なら有りでしょう」

「前提が違うでしょ。私はいい女じゃないし、取り合われてもいないし」

「そうかな~」

「そうよ。それに本のキャラクターを現実の人に見立てる女なんて嫌でしょう」

「・・・あんた、何をしてきたの」


両親には話せなかった下平さんの告白を断った時の詳しい会話を千鶴に話した。千鶴は途中口を開けて何か言いたげにしたけど、私が話し終わるまで口を挟むことはしなかった。


「麻美・・・あんた、自分が何を言ったか判ってる?」

「何って、そんな変なことを言った覚えはないけど・・・」


千鶴が何を言いたいかわからないから、首を傾げて千鶴のことを見た。


「・・・まあ、いいわ。下平さん次第よね。そこまで言われてどう答えるか、お手並み拝見といこうかしら。麻美をその気にさせることが出来たら、私も認めてあげることにするわ」


千鶴が独り言にしては大きな声で言った。


「何が言いたいの、千鶴」

「ああ、いいのよ、麻美。決着がついたら教えてあげるから」

「先に教えてくれる気はないの」

「教えるようなことじゃないから。気がつくかどうかって話なのよ」


う~ん。本当に何を言いたいのかわからない。


「それよりさ、麻美はこの期に及んでまーだ下平さんに嫌われようとしたりしたのよ。本のことを引き合いに出したりしなくても、十分だったと思うけど」

「・・・千鶴にはバレたか。そうよ、本は関係なかったわよ。本当に山本さんに一目ぼれしたのよ。でもね、なんで彼のことをこんなにも好きになったんだろう」

「麻美、恋なんてそんなものよ。自分でも思いがけないところを好きになるの。でも、私はすこし安心したかな。麻美がわかってくれて。本当にここのところの麻美は見ていられなかったから」

「それは・・・ごめん」

「あとは、山本さんが麻美と別れることを納得してくれるかどうかよね」

「そう、なんだけど。・・・でも、大丈夫だと思う」

「でも、心配。・・・私もついて行こうか」

「やだなー、大丈夫だよ。下平さんみたいなこと言わないでよ」


千鶴が心配して言ってくれているのはわかるけど、そこまで心配しなくてもと、思う。だけど、私の言葉に千鶴はまた、体を起こした。


「何、それ。どういう事」

「どういう事って、下平さんに別れる時に『話す日が決まったら教えて欲しい』と言われたのよ。『ここまで聞いておいて、知らないで済ますのは後味が悪いんだ』ですって」


千鶴は口を開けて驚いた顔をした後、何故かニンマリと笑った。


「そうか~。良い人ね、下平さんは」


そして、一人「うん、うん」と頷いていたのでした。



下平さんから教えて欲しいと言われたけど、これ以上は彼の手を煩わせるつもりはなかった私は、連絡をしなかった。そうしたら水曜日の夜、下平さんから電話が来た。


最初母が出て、私を呼んだ。受話器を渡すときに「下平さんよ」と囁いた。


「麻美です」

「こんばんは、麻美さん」

「こんばんは」

「連絡をいただけなかったので、電話をしてしまいました。それで、会う日は決まりましたか」

「えーと、・・・はい」

「いつですか?」

「・・・あの、下平さんには関係ない話ですよね」

「俺は言いましたよね。知らないで済ますのは後味が悪いと」

「それは・・・確かに言われましてけど、でも下平さんが気にするようなことじゃないですから」

「いや、気になります。俺のせいで別れることになるのでしょう」

「だから、違うと言いましたよね。もともと駄目かなと思っていたんですよ。それが私の中で確定したのがあの時だっただけです。だから気にしないでください」


しばらく返事はなかった。勝手に切るわけにもいかなくて、どうしようかと思った。


「それでも、見届ける義務があると思うのですよ」


あくまでも真面目な返答に、私の口元に苦笑が浮かんだ。


「土曜日です」

「土曜日なのですね。わかりました」


これで、終わりかと思って、別れの挨拶をされるのを、私は待った。


「それでは、話し合いが終わったら連絡をください」

「・・・は?」

「結果まで知らなければ安心できませんから」

「えっ、でも」

「連絡がいただけないと言うのでしたら、立ち会わせていただくことにしてもいいのですけど」

「いや、それこそ違いますよね。・・・じゃあ、わかりました」

「連絡をいただけると」

「はい」

「では、土曜日にお待ちしています」


そう言って電話は切れたのでした。


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