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50 下平さんとの2度目のデート? その4

ホテルを後にして、日本平を降りた頃には少し早めの夕食の時間くらいになった。

私から意識して話しかけるようにしたからか、下平さんはホッとしたようだ。あんなことをしてホテルに着くまで私が放心状態だったから、かなり気まずく思っていたみたい。


下平さんが連れて行ってくれたのは、にんじん亭という名前のお店。洋食屋さんだそう。

煮込みハンバーグがお勧めと言われて、私はそれを頼んだ。デミグラスソースが甘めで美味しかった。


お店を出る時に会計は下平さんがした。喫茶店でも出してもらったので、私も払うと言ったのに頑として受け取ってくれなかった。


それから、「少しドライブしましょう」と言って車を走らせた。


日本平の山頂に向かうのとは別の道から高台に行った。そこの少しひらけたところに下平さんは車を停めた。市街地が望めて夜景が綺麗だ。


「麻美さん、足は大丈夫ですか」

「はい。えーと・・・お世話かけました」


穏やかに話しているけど、そういえば今日の下平さんは最初に会った時みたいに、丁寧な話し方をしていると、今更ながらに気がついた。


「そんなことはないです。それよりも今日は楽しんで頂けましたか」

「・・・はい」


声の中に緊張感が漂った気がした。これから何を言われるのかがわかり、私は身構えた。


「その、もしよければ、このままおつき合いをしませんか」


下平さんが私の事を見つめながらそう言った。私は目を逸らしたくなる自分を叱咤して、下平さんのことを見つめた。


「お気持ちはうれしいのですけど、おつき合いすることは出来ません」


声が震えていた。申し訳なくて、私は泣きたくなってきた。


私の言葉に下平さんは目に見えるくらいに肩を落とした。彼はふう~と息を吐き出してから言った。


「やはりその気にはなりませんでしたか。まあ、麻美さんの好みのタイプとは違いますし」


自嘲気味に言うのを聞いて、気がつくと言葉が口をついて出ていた。


「違います。違うんです。私が、下平さんを騙していたから」

「騙す。・・・何を」


私が騙すという言葉を使ったからか、下平さんの語気が強くなった。


「ごめんなさい。私、本当はつき合っている人がいるんです」


私の言葉に下平さんは呆気にとられた顔をした。見つめるその顔が歪んでかすんで見えなくなってきた。


「本当にごめんなさい。騙すつもりはなかったんです」


涙があふれて頬を伝っていった。


「どうしてと訊いてもいいか」


下平さんの落ち着いた声が聞こえてきた。


「両親にその人とのつき合いを反対されているんです。それで母が、私に黙って勝手にお見合い相手を募っていたんです。それに中野さんが応えてくれて・・・。母が勝手にした事だけど、こちらがお願いしたのに、断るわけにいかないと下平さんと会いました。その後は前回に話した通りです」


私はハンカチを取り出して涙を拭いた。


「・・・でも、楽しかったの。・・・この前も・・・今回も。・・・下平さんが私に合わせようとしてくれるのがうれしかった。・・・下平さんと先に出会っていたらいいのにと思うくらいに、楽しかったです」


もう一度目にハンカチを当てて涙を拭いた。


「どういうことかな」


穏やかな合の手に、私は泣き笑いの顔を向けた。


「だって、もう彼とは駄目だって思うから」

「どうして」

「彼は・・・わかってくれないんです。私のこと。多分知るのが怖いのだと思うけど・・・。でも、先のことを考えたら避けては通れないことなのに。・・・それに、どうしても彼の前では、素の自分を出せなくて。・・・これっておかしいですよね。・・・8カ月つき合って自分の本当の姿が見せられないのって。・・・好きなのに、会うと未だに緊張するんですよ。だから・・・彼と別れて帰ると疲れてしまって。・・・多分、表情だって暗くなっていたと思うの。・・・そんなんじゃ、父さんだって心配して彼との交際を反対したくなったわけだし・・・。こんな負のループの中にいたんじゃ、気持ちは落ち着かなかったから・・・」


もう一度涙をハンカチで拭いた。話していることが支離滅裂な気がするけど、私は言葉が止まらなくなっていた。


「彼とのこれからは想像が出来ないんですよ。・・・もし、父が折れて彼とうまくいったとしても、結局は破局するのだと思います。私は家を離れることが出来ないから。・・・彼がうちに来てくれたとしても、父と話しが合うと思えないもの。・・・なんで、神様は一人の人を好きになるようにしてくれなかったんだろう。そうすれば、他の人に目がいかなくて幸せになれたのに」


もう、ハンカチもグシャグシャに濡れていた。


「そうだな。それだったらどれだけいいんだろうな」

「本当にそうですよね。・・・下平さんと先に会えていれば、こんな思いをしなくて良かったのに」

「そう思ってくれるのか」


下平さんの相づちに何も考えずに返事を返す。


「それはそうですよ。自分を作らなくていいから楽だったし。・・・それに下平さんは良い人だから」

「まあ、良い人で終わるパターンだよな」

「そんなことないですよ。下平さんなら絶対良い人と出会えますから。・・・私が保証します」

「振られた相手に言われてもな」

「・・・いえ、状況が違えば、私・・・」


言いかけた言葉に気がついて、私は口を噤んだ。もう、用をなさないハンカチを使うのをやめて、今度はティッシュを取り出した。グズグズの鼻をかんだ。だから、私の言葉に下平さんが考えながら、何かを呟いていたことに気がつかなかったの。


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