5 初デート
初めてのデートはそれから1週間後の土曜日。9月も下旬のことでした。
迎えに来てくれた山本さんとドライブに行ったの。
迎えに来てもらって車に乗る時に、私がすぐに乗り込まなかったら、山本さんは車を降りてきてくれた。
「どうしたの」と聞かれて「前に乗っていいのかわからなくて」と答えたら、一瞬キョトンとしたあと笑われてしまった。
山本さんは結局笑いが収まらないながらも、助手席のドアを開けてくれて「どうぞ」と言ってくれた。私が助手席に乗り込むとドアを閉めてくれた。
山本さんは運転席に座りながら「シートベルトはわかる」と訊いてきたの。流石に私も車を運転するから「わかります」と、少し拗ねたように言ったらまた笑われたのね。そんなに笑われることをした覚えはないのに。
車を発進してすぐに「助手席に座ることってなかったの」と聞かれたから「父の車以外では助手席に座ることは滅多になかったから」と答えたら「ふう~ん」と言った山本さん。何故か機嫌がよくなった気がしたの。
高速を使っての移動で目的地に近いインターの手前のSAで、休憩を取った。飲み物を買って車に戻り蓋を開けずに握りしめていたら、そっと手を握られた。山本さんのことを見ると、困ったように微笑んでいた。
「そんなに緊張しないでよ」
「でも・・・」
じっと山本さんのことを見つめたら、笑みを消した彼の手が頬に伸びてきた。そっと撫でるとすぐに離れた。彼はもう一度微笑むと言った。
「沢木さんに緊張されると、俺にもうつってきちゃうよ。デートと言ってもただのお出かけだからね」
私はなんとか笑みを浮かべて頷いた。
「じゃあ、ちゃんとシートベルトを閉めてね」
彼の言葉に頷いてシートベルトを閉めたの。
「・・・」
山本さんが何か呟いたようだけど、緊張をしている私の耳には意味を成す言葉として認識されなかった。
そう、私はすごく緊張をしていたの。だって初めてのデートだったから。意識し過ぎだとは思うのだけど、どうしても緊張が解けなかったのよ。
こんな時ドラマや漫画ではどうしていたかなと、思い出そうとしてもサッパリ出てこない。もう、どうしていいか分からなさ過ぎて、涙目になっている自覚があった。
山本さんも緊張を解そうとしてくれたけど、私の顔を見ては言葉を失くして黙ってしまっていた。
(どうしよう。呆れられたかな。もしかして何にも知らなさすぎて、つまらないと思われたのかな。もうつき合えないって言われちゃうのかな)
そんなことを考えながら私はジッと座っていたのでした。
デートの行先は県内でも有名な観光地である、白糸の滝に行った。私は県内の観光地に行ったことは、ほとんどなかった。滝のそばの駐車場に車を停めて降りた時には、私はホッと息を吐き出した。
車からでた開放感からか、それとも緊張したことの反動なのか、私はいつもよりはしゃいでいたのだと思う。注意力も散漫で滝に向かう遊歩道で、他の人に何度かぶつかりそうになった。その度に「ごめんなさい」と謝っていた。
そうしたら山本さんに肩を抱かれるようにして、引き寄せられた。
「なんか危なっかしいから一緒に行こう」
「・・・はい」
右手を握られて、引かれるようについていく。私が遅れることに気がついた山本さんは、少しゆっくり歩きながら私が並ぶのを待ってくれた。
「沢木さんって人混みが苦手なの」
「・・・得意じゃないです」
すこし考えるようにした山本さんは、私の右手を自分の右手で持つと、左腕につかまるように私の手を置いた。山本さんの腕につかまったことで体が密着して、心臓が煩いくらいに鳴っている。
「このほうが安定するよね」
と、微笑まれて私は真っ赤になったと思う。つられたように山本さんも顔を赤くしていたの。
「じゃあ、行こうか」
私は山本さんと並んで歩き出した。
滝まではかなり間近まで行くことが出来た。白糸の滝というように白い筋になって流れていた。
「うわ~。初めてです。こんな近くで滝を見るのは」
「気に入った」
「はい」
私が満面の笑顔で答えたら、山本さんは嬉しそうに笑ってくれた。山本さんの落ち着いた様子に、急に自分の行動が子供っぽく思えて恥ずかしくなったの。
駐車場に戻る時も山本さんの腕に手を掛けさせてもらって歩いて行った。
このあと近くの観光牧場に行った。ウシ、ウマ、ヤギ、ヒツジ、ポニー、ウサギ、モルモットなどがいた。ウシの乳乳り体験や引き馬体験、ウサギやモルモットと触れあうことが出来た。他にもバター作りやチーズ作り、ソーセージ作りにクッキー作りなどが体験できるところもあった。
私達はバター作りを体験した。瓶に入った生クリームを振って、出来上がったものはクラッカーにつけて食べたの。
帰る前に入り口でソフトクリームを購入した。味が濃くて美味しかった。
帰りは家のそばまで送ってもらった。
「今日はありがとうございました」
「また、連絡するね」
といって、別れたのでした。