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44 悪友な幼馴染みの・・・

和彦は私の動きを封じるように体重を掛けてくるから、痛いし重い。


「ねえ、冗談はやめて退いてくれない」

「ノコノコついてきた麻美が悪いんだろ」

「連れてきたのは誰よ」

「騙される方が悪い」


感情を見せない瞳で見下ろしてくる和彦の目を、私はじっと見つめた。何を思ってこんなことをしてくるのかと、考えていたのだ。


「抵抗しないのか、麻美」


私が抵抗らしい抵抗をしないからか、和彦は眉間にしわをよせた。


「抵抗したらやめてくれるの」

「さあ、どうだろうな」


和彦の手が動いてブラウスのボタンを外しだした。右肩を出してそこに顔を近づけてきたから、押さえられていない左手で彼の口を押さえた。


「いい加減、シャレにならないから止めて」

「本気だと言ったら」

「私の事を好きではないのに」

「好きじゃなくたってできるだろう」

「それはそうね」

「・・・何をあっさりと同意してんだよ。今からヤラレるっていうのに」

「いやだって、あんたは欲情してないじゃない」


私の言葉に和彦は表情を消したまま、私の左手も掴まえて顔の横に縫い留めるように押さえつけてきた。そのまま右肩に顔をつけられて、痛痒いあの感じを与えられた。私は下唇を噛んで声を出さないようにしていた。顔をあげた和彦は満足そうに呟いた。


「白い肌に赤い痕って、やっぱ綺麗だな」


私を押さえる拘束を緩めて、ニヤリと笑う和彦の側頭部に私は右手の拳を叩きつけた。


「あんたは何をしたいのよ」

「痛う~。・・・何って、キスマークを付けたことがなかったから付けてみただけだけど」

「それなら他の女につければいいでしょ。あんたなら不自由してないんだから」

「そんな誤解を生むようなことを俺がすると思うか」


私の上から退いた和彦が手を伸ばしてきたけど、その手をパシンと払って体を起こした。ブラウスのボタンを留めながら和彦のことを見やる。ニヤリ笑いは引っ込めたけど、また表情を消しているから何を考えているのかわからない。


「私だったらいいんだ」

「お前は誤解も勘違いもしないからな」

「もう、いい加減にしてよ。なんであんたは人の神経を逆なでするようなことばっかりするのよ」

「お前がわかってないのが悪い」


ふざけてこんなことをしたのではないとわかっているけど、意図が見えなくてイライラする。


「本当に! 私のことなんか放っておいてよ」


叫ぶように言ったら、和彦も苛立ちを含んだ視線を向けてきた。


「放っておけるわけないだろ。お前のそんな姿は見たくないんだよ、俺は。お前は自分の姿を分かっているのか。恋に疲れて、不安に押しつぶされそうになって、見ちゃあいられないんだよ。そんな不毛な恋なんかやめて、幸せになれる恋をしろよ」


(・・・なんで、あんたがそれを言うの?)


「本当はお前のことだからわかっているんだろう。そいつとの恋は叶わないって。もうダメだって気がついているんだろ。だったらやめて、新しい恋に「あんたが!」


和彦が真摯に言い募るのを遮るように私は声をあげた。


「だから、何であんたがそれを言うの? 不毛な恋をしているのはあんただって同じじゃない。なんであんたは良くて私は駄目なんて言うのよ。私だってね、もっと楽しい恋をしたかったわよ。みんなから祝福されるような・・・。だけど仕方がないじゃない。好きになったのは彼だったんだもの。彼のことが好きなんだもの」


言いながら涙が目から溢れてボタボタとスカートに落ちていった。それを拭おうとせずに、和彦のことを私は見つめていた。


「本当は私だってわかっているわよ。彼とはダメなのだろうってね。お互いに好きでもその先に進むには、彼と私じゃ考えていることが違い過ぎるって。・・・私だって彼に言おうとしたのよ。でも、彼はそういう話に持っていこうとすると、困惑した顔をするのよ。まだ、彼には早いのだろうと思って、やめてしまったけど。・・・でも・・・下平さんと会わなければ良かった。二人はね、同い年なの。比べるつもりはなかったけど、どうしても比べてしまって。・・・彼は下平さんと比べると子供っぽいのだと思ってしまって。・・・今日は自分に自己嫌悪していたのに。なのに・・・なのに・・・」


これ以上は和彦に対する八つ当たりの言葉しか出てこないだろう。下唇を噛んで和彦のことを睨みつけていたら、和彦は微かにほっとした表情をした。


(ああ、そうか。和彦は私を泣かせたかったのか)


和彦が動いて私に手を伸ばしてきたのが見えたから、抱きしめられる前に、両手を和彦の胸に当てて、突っ張るようにした。


「慰めようとしてんなよ。ここで抱きしめてきたら、一生口を利かないから」


そう言ったら和彦の溜め息が聞こえてきた。


「お前は。本当に素直じゃないな」


和彦が離れたから私は立てた膝に顔を埋めた。


「うるさい。和彦のバカ」

「麻美のほうがバカだろ」

「何よヘタレ」

「俺はヘタレじゃない」

「女にだらしない癖に」

「だらしないって、向こうからくるから、つまんだだけなんだけど」

「さいってー」

「ああ、そうだな。俺は最低なんだろうな」

「頭いい癖に詰めが甘いし」

「そんなことはないと思うけど」

「はめられてパパになった奴がそれを言うか」

「そこは、まあ、俺が甘かったんだよな」

「本当に馬鹿」

「ああ、馬鹿だったよな。でも、麻美のおかげで助かったけど」


頭に和彦の手が乗って、グシャリという感じに撫でて離れていった。


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