43 悪友な幼馴染みの助言?
和彦の指摘は聞けば聞くほど自分の迂闊さを気づかされた。来週下平さんと会うのをやめたいくらいには、私は狼狽えてしまった。
「どうしよう~。来週会わないように出来ないかな」
「それは無理だろうから諦めろ」
「諦めろって、何? 自分でこんなことしておいて、断るってどうなのよ」
「それだけどな、下平さんは断りの言葉を言わさしてくれないかもしれないぞ」
「何それ」
「だってさ、もう麻美のこと囲い込みに入っているだろ」
「はあ~?」
囲い込みって何? めっちゃ怖いんだけど。
「いや、囲い込みとは違うか。真っ当な方法でつき合いに持っていこうとしてんだな」
一人納得してうんうんと頷く和彦。私は顔を引きつらせて言った。
「教えて。どこでそんなことがわかったのか」
「麻美、本当に気がついていないのか。帰りに家まで送ってもらったんだろう。これってさ、家の位置の確認と家を知りたいっていうのがあったんだろうけど、それだけじゃなくて挨拶までして行くっていうのは、下平さんの本気と見たんだけど」
「で、でも・・・連絡先を聞かれなかったし」
「それはお前が断ってくれなんて話をしたからだろうが。そんなことを言う相手に連絡先なんか聞けるか」
「だけど、それなら中野さん経由で連絡がきても・・・」
「それをしたら意味がないだろ。下平さんは麻美からの連絡が欲しかったんだから。だから連絡が来た時、スマートに連絡先を聞きだして、その後の連絡で麻美に会う約束をさせたじゃないか」
下平さんとの会話を思い出していたら、和彦は爆弾を投下してくれた。私の心情的にはそんな気分にさせられたのよ。
「たぶんさ、別れる前に何か麻美に印象が残るようなことしてないか」
まるであの場にいて見ていたようなことを言われて、私は動揺した。
「見ていたようなことを言わないで!」
「おっ! 当たりか~。で、何されたんだよ」
「な、何もされてないわよ」
「嘘をつくなよ。動揺しているのでバレバレだぞ。そうだな、抱きしめられたか、頬にキスとか、握手の振りして手の甲にキス・・・って、マジ?」
例を挙げていた和彦は、私の様子に目を瞬いた。私は自分でも、頬が赤くなったのはわかったもの。
「えっ、本当に手の甲にキスなんかしたわけ? うわ~、そんなキザなことする人って本当にいたんだ」
動揺して返事をしそびれたら、和彦は呆れたような感心したような声を出した。
「いや、違うから。手の甲にはされてないから」
「へえ~、じゃあどこに」
「・・・指先だった」
ニヤ~と笑って追求してきた和彦に(悪魔か~!)と、思いながらも迂闊な返事をしたのは自分だったと気落ちしながら答えた。
「ほうほう。どんな状況で?」
(話せと? あの状況を話せと? なかったことにしようと、話さなかったのに)
「意見が聞きたいってそこじゃないのか」
(そうだけど、もうわかったから!)
とは、言えないから、家に送ってもらって下平さんが帰るところの話をした。さっきは車が道に出るのを誘導しただけと話したから、その後のことを話したら、和彦は口に拳をあてて吹き出さないようにしていた。
「気分が悪いから、笑いたければちゃんと笑ってよ」
私の言葉に本当に遠慮なく「わははは~」と笑ったので、ジト目で睨みつけてやった。ひとしきり笑って満足したのか、和彦は真面目な顔に戻って言った。
「やっぱり麻美、下平さんとつき合え。いや、いっそ結婚までしちゃえよ」
「だから、どうしてそうなるのよ」
「そこまで落としておいて責任取ろうな」
「意味わかんない。私は落とす気なかったし、下平さんが落ちたっていうのなら、向こうの責任でしょ」
「下平さんとなら絶対幸せになれるって。俺が保証してやる」
「なんで、和彦が保証するのよ。というより、何で山本さんとじゃ駄目なの」
彼の名前を出したら、和彦の目が細まって鋭くなった。
「私は山本さんのことが好きなのよ」
「麻美のことを大事にしない奴に、麻美のそばにいて欲しくないからだけど」
「私は大事にされていないわけじゃないわよ」
「どこがだよ。麻美に心労をかけてるだろ。普通のつき合いだったらそこまで痩せないだろう」
「それは・・・彼のせいではなくて」
「そいつのせいだろ。それだけじゃなくて麻美を自分のものだって、見せつけるようなことをしただろ。あれだってそいつの心の狭さが表れたようなものだ」
「和彦はさ、前に山本さんの気持ちがわかるって言ってたじゃない。あの時は私を応援するようなこと言ってくれたのに」
「俺が本心で言ったと思っているのか。そんなわけあるか。あの時は千鶴がいたからああ言ったけど、さっさと別れろと思っていたさ」
吐き捨てるように言う和彦。なんか本気で忌々しそう。
「ねえ、もしかして、和彦は怒っているの?」
そう言ったら視線を私に戻したけど、目つきが鋭すぎて怖いくらいだ。
「怒っているねえ。確かに気分はよくねえな」
「和彦が怒ることないよね」
「俺が怒るのがおかしいと、麻美は思うんだ」
和彦の手が伸びてきて、私は右腕を強く掴まれた。
「ちょっと、痛いってば。離してよ」
「麻美はさ、迂闊すぎるんだよ。男が女といて考えることなんて、一つに決まっているだろ。それに、男の一人暮らしだって分かっているのに、ついて来たりしてさ、警戒心なさすぎだろ」
そう言った和彦に、私は床に押し倒されたのでした。




