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40 悪友な幼馴染み

うちから海までは3分ほどで着く。そのまま家に戻る気になれなかった私は、久し振りに前浜から海を見て気分を落ち着けようと思った。


向きを替えて歩きだそうとしたら、そばでクラクションが鳴った。振り返ると和彦の車だった。助手席の窓を開けて声を掛けてきた。


「どこに行くんだ、麻美」

「ちょっと海まで」

「・・・今日ってデートじゃなかったのか」

「別にどうでもいいじゃん」


背を向けて歩きだしたら、車を降りてきた和彦に「麻美!」という声と共に手をつかまれた。


「何があった」


顔を覗き込むように言われて、ムッと睨みつけた。


「喧嘩しただけだから、ほっとけよ」

「お前は。・・・とにかく車に乗れよ。話くらいは聞いてやるから」

「だから、別にいいって言ったじゃん」

「家に帰りたくないのは分かったから。海風にあたったら体調を悪くするぞ」

「・・・そんなこと」

「おじさん達に心配かけたくなければ、一緒に来い」


私の手を離して背中に手を当てて、車のほうに連れていかれた。車のそばに来ると和彦は私から離れてさっさと運転席に乗り込んだ。私は後部座席のドアを開けて乗りこむと、そのまま座席に横になった。仰向けになって右腕で目元を覆った。


「死んでんな~。着いたら起こすから、寝てていいぞ」

「どこに行くの」

「俺の部屋」

「・・・ああ、そういえば一人暮らし始めたんだっけ」

「そう。だから、気兼ねなく泣き喚けるぞ」

「だ~れが、泣き喚くか」



着いたマンションを見て私は口をあんぐりと開けた。最新の高層マンション。そして、和彦の部屋に入ってまたあ然とした。


「あんたさ~、もう少しどうにかする気ないの」

「どうにかって、綺麗なもんだろ」

「綺麗ってさ、こんな生活感のないモデルルームそのままの部屋って初めて見たかも。いや、モデルルームのほうがマシかもね。あっちは見せるために植物とかがあるもの」

「ひでーな。それよりコーヒーでいいか。それ以外なら、ペットボトルのお茶になるけど」

「それなら、コーヒーで。ねえ、見てまわっていい?」

「ああ~? 面白いものは何にもないぞ」

「じゃあ、見せてもらうから」


私は玄関に戻るとそこから近い扉を開けた。普通の部屋。扉を閉めて移動。その隣の部屋はベッドがあったから、寝室なのだろう。けど、ここも余計なものが置かれていない。生活していることを感じさせるのは、隅に置かれたバッグくらいか。その部屋を出て反対側。トイレと洗面所、ついでに浴室。


そこを出てキッチンに。


「ここも使ってない感が満載なんだけど。食事はどうしているのよ」

「今はコンビニっていう良いものがあるだろう」


キッチンでコーヒーを入れている和彦に声をかけたら、そんな返事が返ってきた。


「コンビニねえ。でも、意外。炊飯器があるじゃない。それでご飯を炊いて、簡単なものを作ればいいのに」

「これか。お袋が置いていった。ついでに来るたびに何か作って置いていくんだ」

「だからフライパンと鍋があるわけね」


キッチンの棚を遠慮なくパタパタと開け閉めして、中を見ていった。


「本当はいらないんだけどな」

「なーに贅沢なことを言っているのよ。ここに住んでどれくらいになるの」

「ん? 3月に入ってからだからひと月くらいか」


私はキッチンを出るとリビングに行った。ローテーブルにソファーがあった。あと、一応テレビもあったことに何故かホッとした。


「ほい。ミルクと砂糖は」

「そんなものあるの」

「・・・まあ、砂糖くらいは」

「インスタントでなければいらない。ありがとう」


受け取ってソファーではなくその下のカーペットに直に座った。和彦も同じように下に座り胡坐をかいた。


「それで、泣くほど激しい喧嘩をしたのか」

「・・・ほっとく気はないの」

「え~、こんな面白そうなこと、聞かずにいられるかよ」


そうだった。こいつはこういう奴だった。和彦は面白がっていることを隠そうとしない、ニヤニヤ笑いを張り付けた顔で私の事を見ている。


「そんな顔をされると話したくないんだけど」

「そんなこと言うなよ。というよりさ、最初から話せよ」

「何で最初から。和彦も知っているでしょう」

「中途半端なんだよ、この前聞いた内容は。それにあの時は千鶴がいたから、すべて話してないだろ」


しばらく迷って黙っていたら、和彦の表情が真面目なものに変わった。


「麻美は自分の状態がわかっているのか。ほっとけないレベルなんだけど」

「・・・わかったわよ。それで、どこから話せばいいの」

「出会いから。竹下京香ってやつから紹介されたんだろ」

「あんたねえ、京香さんの事をやつ呼ばわりなの」

「俺はそいつのこと知らねえもん」

「そいつ・・・。ほんと、あんたって私の前だと口が悪くなるわよね」

「麻美もだろ。その状態を恭介達にも見せてやれよ。あいつらの態度も一発で変わるから。ほら、話せよ」

「まったくもう」


お互いに悪態をつき、この空気感にホッとして、私は山本さんとの交際について和彦に話した。といっても、詳細に話す気はないから、京香さんの開いたパーティーで会って、その後一度遊んで、その次に会った時に告白をされたと話したら、もっと詳しくと言われてしまった。なので、私はもう少し詳細につき合いのことを話したのでした。


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