4 夜のドライブ -彼からの告白-
ボウリング大会から翌週の木曜日、京香さんからまた遊びの誘いがあった。翌日の金曜日の夜に出てこれないかとのこと。
両親に話したら、母は了承してくれたけど父は渋い顔をした。でも、結局出かけることを許してくれた。
金曜日の19時30分、待ち合わせ場所にいたら車が停まった。運転していたのは原田さんで助手席には山本さんが乗っていた。後部座席には京香さんと三友紀ちゃん。
後部座席に乗り込むと、ドライブに行くと言われたの。でもその前に食事をすることになった。みんなは仕事帰りで食事をまだしていないと言った。私は家族の食事を作った時に軽く食べていたから、飲み物とサンドイッチにした。それでも多くて残そうとしたら、原田さんと山本さんが食べてくれた。
お店を出て車に乗る時に京香さんが助手席に乗りたいと言い出した。体格のいい京香さんと一緒に後部座席に3人は少し狭かったの。
結局京香さんと山本さんが席を変わり、なぜか私、山本さん、三友紀ちゃんの順に座ることになった。細身の山本さんと並び、後部座席には余裕ができたけど、私はドア側に体を押し付けるようにして座っていたのよ。
ドライブ先は岬の公園だった。ここは岬から見る対岸の夜景が綺麗だと聞いたことがあった。車を降りて暗い中を岬に向かって歩いて行った。用意がいいことに懐中電灯をみんなは持っていた。私は持っていないので京香さんと一緒に歩いた。
噂どおりに対岸の夜景は綺麗だった。対岸は港で夜でも灯りが煌々とついていたからだ。しばらく夜景を堪能したあと、車に戻ることになった。
帰りは京香さんと原田さんと三友紀ちゃんが話していて、自然と私は山本さんと歩くことになった。山本さんが照らしてくれる灯りを頼りに歩いているから、私達の歩みは遅くなった。3人は私達のことなどお構いなしに歩いて行くので、少しずつ距離が開いて行った。
かなり3人と距離が開いてしまい焦って速足になった私の手を、突然山本さんがつかんできた。山本さんに引っ張られて私は3人とは別のほうに連れていかれた。
「あの、3人を追わなくていいんですか。も、もし、置いていかれたら」
街灯がある遊歩道まできたところで、私は山本さんに言った。
「大丈夫。俺が2人にして欲しいと頼んだんだ」
言われた言葉に心臓がドクンと跳ねた。山本さんは私の方を向くと真剣な顔で言った。
「沢木さん、初めて会った時から君のことが気になっていました。ボウリング大会の後の居酒屋で気配りができる君がもっと気になったけど、俺は口下手で気の利いたことが言えなくて・・・。本当は連絡先を聞いたり会う約束を自分でしたかったけど、出来なかったんだ。見かねた京香さんや俊樹が力を貸してくれなければ、沢木さんに会えなかった。こんな情けない俺だけど、沢木さんのことが好きです。俺とつき合ってくれませんか」
言われた私は両手を握り締めて瞬きを繰り返していた。心臓が煩いくらいにドキドキと鳴っている。私の返事がないことに、山本さんは困ったような声を出した。
「俺とつき合うのは駄目かな」
再度言われて、私はいつの間にか俯いていた顔をあげて、山本さんの顔を見つめた。真剣な眼差しにまた俯きそうになって、顎に力を入れて顔をあげた。
「その・・・思い違いじゃないですか」
「なんでそう思うの」
私の言葉に不思議そうな声が返ってきた。声を出そうとして口の中が渇いていることに気がついた。ごくりと唾を飲み込んでから、私は言った。
「だって・・・私は今までモテたことがないです。だから気の迷いではないかと」
「気の迷いじゃないです! ・・・って、今までつき合った人っていないの」
山本さんが驚いたように訊いてきた。
「はい。だから山本さんの気の迷いだと思います。大体山本さんみたいに素敵な人がモテないわけありませんもの。山本さんのことを思っている人は他にいるはずです」
私はそう言って山本さんのことを見つめた。山本さんは何故かあ然とした顔をしていた。私と目が合ったことで、山本さんは真顔に戻った。
「ねえ、俺の話を聞いていたの? 俺は沢木さんのことが好きでつき合いたいと思っているんだよ」
「はい、聞いていました。だから、それは気の迷いですってば。こんな十人並みな女じゃ釣り合いませんもの」
私の返答に、額に手を当てる山本さん。あれ? 私って何か悩ませるようなことを言ったかしら。
「じゃあ、質問を変えるよ。沢木さんは俺の事を、どう思っているの」
「私ですか? 山本さんは素敵な人だと思っています」
「それじゃあ、好きか嫌いかと言ったらどっち」
私は答えようとしてフリーズした。こんなの答えられるわけないじゃない。
そうしたらまた山本さんに手をつかまれた。私の顔を覗き込むように見ていた山本さんが嬉しそうに笑った。
「京香さんの言うとおりだ。沢木さんも俺の事が好きだって」
「そ・・・んなこと、な・・・」
山本さんから視線を逸らしてなおも否定しようとしたら、手を強く握られた。
「そんな真っ赤な顔で言われても説得力ないよ」
俯いた私をそっと抱きしめると耳元で囁くように、もう一度山本さんが言った。
「沢木さんのことが好きです。俺とつき合ってください」
「・・・はい」
小さな声で答えたら私は強く抱きしめられた。
手を繋いで車に戻った私達を3人は我が事のように喜んでくれたのでした。