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39 三度目の喧嘩で・・・

訊き返した私に山本さんは怪訝な顔をした。


「聞いていなかったの、麻美」

「あっ・・・うん、ごめん。少しボウッとしてた」


私は素直に謝った。彼の眉間にしわが寄った。


「やっぱり具合が悪かったんじゃないか。無理して出掛けることはなかったのに」

「違うって言ったよね。具合が悪いんじゃなくて睡眠不足なだけなんだってば」


彼の言い方に私は少しイライラしながら強い口調で言った。


「麻美、睡眠不足で具合が悪くなることもあるだろう。やっぱり来週は遠出しない方がいいか」


宥めるように彼は言ったけど、私は『来週』という言葉に思考が止まった気がした。


「来週・・・」

「そうだな、麻美はプラネタリウムに行ったことはある」


(来週の土曜は下平さんと会う。じゃあ、出掛けるのを日曜日にしてもらえば・・・。でも、家を手伝っているのに、二日続けて出掛けるのは避けたいし・・・)


「麻美? 麻美、聞いてる」

「あっ、ごめんなさい」


考えていて聞いていなかった私は、彼の声に反射的に謝った。彼の声に心配そうな響きが加わった。


「やっぱり麻美、具合が悪いんじゃないの。もしかして熱が出たのかな。・・・これじゃあ来週は出掛けない方がいいか」

「そうね、そうしてもらえると」


助かると続けようとして、やばいと思った。言わないでいるつもりのことを気づかれたかもしれない。


案の定、彼の顔が強張った気がした。


「麻美、本当は来週何か予定があったの」

「あの・・・ごめんなさい」

「別に謝って欲しいわけじゃないけど。でも、今日の麻美はおかしいよ」

「おかしいって、何が」

「ちょっとしたことにムキになったりするし、心ここに在らずって感じになったり、イライラしだしたり。体調が悪いにしても、おかしいだろう」


私は頬がひくつくのがわかって、笑顔を作れなかった。


(じゃあ、何? 私が感情的になるのはおかしいの?)


頭の中に浮かんだ言葉にこれじゃあ喧嘩になると思い、軽く深呼吸をして気持ちを落ち着けようとした。


「それとも、何か隠し事をしているからなのかな」


彼の少し意地の悪い言い方に息が止まりそうになった。それになんで気付いて欲しいことには気がつかないで、気がつかないで欲しいことには気がつくのだろうと、思ってしまった。


「そういえば見合い相手とどうなったか聞いてないんだけど。まさか、来週そいつと会うの」


私は答えられずに黙ってしまった。彼もしばらく黙ってから、徐に口を開いた。


「そうやって黙ってしまうんだ、麻美は。言い訳も無しなんだ」


彼の言い方にカチンときた私は、気がつくと口から言葉が滑り出ていた。


「なんで、そんな言い方をするの。確かにお見合いがどうなったかは黙っていたけど、それだって聞いたらあなたが不快になると思ったから言わなかったんじゃない」

「不快になるってことは、結局断ってないんだ。そうか、麻美はそいつと俺を天秤にかけて、良いほうとつき合う気なんだな」

「誰もそんなこと言ってないでしょう。私は断る気満々だったけど、母が断ってくれなくて、もう一度会うことになっただけよ。次でちゃんと断ってくるわよ」

「どうだか。本当は俺よりそいつのほうがいいんじゃないの」

「だから、違うってば! どうして信じてくれないのよ」

「だから、麻美のどこを信じればいいんだよ!」


彼の言葉にこのまままた平行線の会話になると思って、私は大きく息を吸って気持ちを落ち着けようとした。なのに。


「麻美って、もっと違うと思ったよ」


呟くように言われた言葉に眉尻が上がった気がした。


「何よ、それ」

「もっとおとなしいかと思っていたのに」

「それって、私が感情的になるのはおかしいってこと」

「そうは言ってないだろう。ただ、思っていたのと違うと思っただけだ」

「じゃあ何? 私はおとなしく山本さんの後をついて歩いていけばいいわけ。自分の感情は押し殺して?」


言いながら私の事を分かってなかったのかと、悔しくて涙が浮かんできた。


「そんなことは言っていないだろう。思っていたのと違うと言っただけじゃないか。麻美は落ち着いた感じがするから、そんな風に子供っぽく感情を顕わにするとは思わなかったんだ」

「そんな勝手なイメージを持たないでよ。私は!」


(私は・・・何?)


突然浮かんできた言葉に口を噤んだ。なのに、次の彼の言葉に私は唇を噛みしめることになった。


「結局麻美はいいように見られたいだけなんだ。今までは本性を隠して、俺とつき合っていたんだね」

「そんな言い方しなくても」


堪えきれずに涙があふれてきた。ハンカチを取り出して目を押さえた。


この後は二人とも無言でいつもの場所までついた。私はシートベルトを外して降りようとしたら、彼の声が聞こえてきた。


「さっきはごめん。言い過ぎた。だけど、お見合いのことが片付くまで会わないほうがいいだろう。俺からは連絡しないから」

「・・・わかった」


私が車から降りたら、彼はすぐに車を走らせた。


私は彼の車が見えなくなるまでぼんやりと見ていた。そして、くるりと向きを変えて家とは反対の方向、海へと向かって歩き出そうとしたの。


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