34 気乗りのしない初デート その7
私は首を傾げながら瞬きを繰り返した。
「えーと、どうしてと云われても、数字が頭に浮かんできたからで・・・。それと視ているのが生命線だからそうかな~と、思っただけです」
黙ってしまった下平さんにどうしたものかと思う。
「その、もう視るのをやめますか? やめても構わないですけど」
「いや・・・続きが気になるからみて欲しいけど・・・。本当に線を見ただけでそこまでわかるものなのか?」
「先に言ったじゃないですか。数字が浮かんでくるって。あと言葉もなんか考える前に出てくるんですよね」
自分の状態を思いながら言葉にしていく。
「えーと、当たっていたとか?」
「当たっていたなんてもんじゃない。胃が弱いのも、アルコールに強くないのも本当だよ。それに19歳の時に39.8度の高熱を出したのも本当にあったけど・・・。なんでわかるんだよ」
そう言って下平さんは首を横に振った。そして私が口を開く前に続けて言った。
「止めて悪かった。続きを頼む」
「えーと・・・はい。それで・・・20歳から今の27歳までは大きな病気はしてないですね。軽い風邪くらいですね、病気になったとしても。怪我も線に出るほどの大怪我はないです。それでこの先・・・分岐点があります」
「分岐点?」
「はい。これからの生活次第で変わるのですけど。・・・いま、視えているのは38歳の時に胃癌が発見された場合、再発の可能性が高く、43歳までしか生きられません。ですが、38歳の時に胃癌が発見されなければ、68歳まで生きるでしょう」
「なんでそんなに差が出るの」
「それはこちらの運命線が関係しています。下平さんの生命線はここまでと短いです。こちらのとおりになりますと、43歳で寿命を迎えます。ですが、こちらの運命線に乗り換えることが出来れば寿命は延びます」
「寿命ってそんなに簡単に伸びるものなのかな」
下平さんが首を傾げた。私の言葉を信じていないのではなくて、実際にそんなことが起こるとは思えないのだろう。
「先ほどいいましたよね。運命線は生命線の補助線だと。下平さんの運勢は後年のほうが強くなります。だけど、生命線の寿命だけで見ると、運命線の強運に預かることなく亡くなることになってしまいます。ですが、生命線から運命線に乗り換えることが出来れば、強運も手に入れることが出来ます」
「乗り換えるって、どうやって」
「う~ん、そうですね、女性だと乗り換えの説明は楽なんですけど」
「女性だと楽だというのは?」
「女性の場合、子供の出産で運勢が変わることが多々あるんですよ。安産だったとしても子供を産むというのは命がけですから。新しい生命を生み出すことで、リセットされるというか」
考えながら言葉を紡いでいった。
「その理屈だと男性も死ぬような目に遭わないと駄目ってことなんじゃないか」
「いえ、そんなことはないはずです。たしか男性でも子供が生まれたことで運勢が変わったことがありましたし」
「そうなの?」
「はい。それだけ、子供が生まれる時のパワーはすごいですから」
ここで、私はコーヒーを一口飲んだ。冷めてぬるくなっていたけど、のどを湿らせるには丁度いい。
「えー、では運命線のほうをいきますね。下平さんの運勢は26歳から強くなってきています。今は気力体力が充実していますね。・・・ただ、転換期というか・・・その、28歳の年に環境が何から何まで変わります」
「環境が何から何までって、どんな風に?」
「そうですね。仕事や住むところ、あとは独身じゃなくなるとか?」
思いつくことをあげていったら、下平さんが言った。
「仕事は去年の秋に部署を移ったばかりだけど」
その言葉に、私の口は何故か言葉が止まらずに、言葉が滑り出ていった。
「それなら私と結婚して名字が変われば、職場での感じも変わりますよね」
私の言葉に目を瞠る下平さんが見えた。
(あっ、やばい)
私は慌てて手を振りながら言った。
「あの、今のは例えばですから。環境が変わるということの例え話ですから」
「・・・例え話・・・ね」
「はい、たとえ話です。それに手相って変わるものですから!」
力を入れてそう言ったら、また下平さんは目を瞠っていた。
「手相って変わるの?」
「はい、変わります。それに私に見えているこの線は、下平さんが見ているのとは違って視えていますから」
「違うってどんな風に」
「えーと、霊感の影というか・・・。そうですね、分かりやすくいいますと、線が二重に見えているというのが近いですね」
「二重の線」
「はい。だから、先程の下平さんの生命線と運命線の間に繋がった線が見えます」
「でも、さっきの言い方だと寿命は、まだどちらとも言えないみたいだよね」
「そうです。えーとですね、まず38歳まで10年以上ありますよね。その間の過ごし方で変わります。あと、霊感の線のほうはその方の状態次第で見え方が変わるんです」
「状態次第というのは?」
「えーと、深刻な相談だと線自体も暗い感じに見えたりする場合があって、それが何か問題解決の糸口が見えたという時は、パアァ~と明るく変わったりしましたよ」
思い出しながら言ったら、何か考え込む下平さんの姿が目に入ったのでした。




