33 気乗りのしない初デート その6
生クリームの多さに泣かされたけど、プリンアラモードを完食して満足した私達は、もう一杯ずつ飲み物を頼んだ。
下平さんはもう一杯コーヒーを、私も今度はコーヒーを頼んだ。
「それでは、続きをしましょうか」
私の言葉に下平さんの顔に苦笑が浮かんだ。
「まだ見るつもりなのかな」
「まだ何も視ていませんから」
私の言葉に下平さんは真顔になった。両手の平を上に向けた状態で、テーブルの上においてくれた。
「では、いきます。先ほどの説明の続きですが、何故私が両手をみてから利き手をみるのかは、わかっていただけましたよね」
「まあ」
「では次のことですが、下平さんのこの一直線のますかけ線は、感情線と頭脳線が合わさったものになります。ほとんどの方の線は感情戦と頭脳線は別々になっているのです。あと、この横に伸びる頭脳線から別れて手首に向かう線、これが生命線です。手相占いは基本、この三線で占います」
私は下平さんの手のひらを触りながら説明していった。
「じゃあこの線は必要ないのかい」
下平さんは生命線の隣の線を指さした。
「その線は運命線です。運命線は生命線の補助線になります。なのでなくても占えます。というより、基本の三線しかない人もいますし、他に運命線の補助線の太陽線がある人もいますよ」
私は自分の両手の平を下平さんに見せた。
「これはまた、くっきりした線だね」
「はい。何故か私の線ははっきりした線です」
下平さんは私の手の平をしげしげと見つめている。私は右手で左の手の平を指さした。
「この線が太陽線になります。私の手相も変わっているのが分かりますか。私の左手は生命線と運命線が二重生命線になっています」
「二重生命線。なんかすごそうだね」
「でも、私は自分の手相は視れないです」
「は?」
といって固まったように動きを止めた下平さん。
「自分のには霊感ははたらかないんですよ。これは私に近しい人にも云えるんです」
「近しい人って?」
「親や兄弟です。家族の手相を視ようとした時には全くといっていいくらいに、霊感ははたらかなかったです。多分私の運命に関わっているから視ることが出来なかったと思うんですよね」
下平さんの表情がどうしたものかというものに変わっていた。このまま変な奴認定されるだろうと内心ほくそ笑みながら言葉を続ける。
「あと、付き合いの長い友人達の占いも当たりにくくなります」
「つき合いの長い友人?」
「そうです。特に恋愛に関してなんですけどね。私の気持ちも入るからか、数字が出てこないです」
「沢木さんの気持ち?」
「この間一緒に来た千鶴。彼女のなんか視れない最たるものです。やっぱり親友には幸せになってもらいたいじゃないですか。だから、辛い思いをすることがわかっているのなら、視たくないというか・・・」
私は軽く目を伏せた後、顔をあげて下平さんをみた。
「それでは前説はこれくらいにして視ていきますね」
私は下平さんの右手に意識を集中させた。
「まずは性格から。・・・下平さんは・・・基本の性格は真面目。この、感情線と頭脳線が一本につながった線は頑固とか融通が利かないとか思われがちですが、そんなことはありません。下平さんはどちらかというと、きっちりとやり遂げないと気が済まないほうですよね。真面目といいましたけど、ユーモアが分からないタイプの生真面目というわけではないですし。どちらかというと面白い事が好きですよね」
私は感情線から読みとったことを言い、下平さんのことを見た。彼は私の事をじっと見つめていた。
「えーと、次は頭脳線のほうを。頭脳線は知能線ともよばれます。頭脳線では仕事運などをみます。下平さんは記憶力はいいのですが、興味があることにしか使ってませんね。仕事は身体を使うより頭を使う仕事のほうが合っていますので、今の仕事は下平さんに合っています。ただ、上司には恵まれますけど、後輩には恵まれせん」
「それは碌な奴が下に来ないということかな」
「あー、そういう意味ではないんですけど。えーと、後輩は仕事を覚えてしばらくすると、移動でいなくなってしまうというか・・・」
「ああ、それなら分かる。仕事を覚えた後輩が移動したからな。そうか、後輩運が悪いのか」
「運、というか、下平さんが後輩を育てるのが上手いのだと思いますけど。それを見ているから上司に信用されているんですね」
下平さんはまたじっと私の事を見つめてきた。
(私は何か変なことを言ったかな?)
「あの~、次は生命線にいきますね。生命線では健康運についていいます。・・・子供の頃は、少しやんちゃで生傷が絶えなかったではないですか」
「・・・なんでわかるんだ」
「なんでって、線に出てますから。それから、胃が弱いですよね。飲み過ぎには注意してくださいね。あまりアルコールに強いほうではないみたいですし」
生命線を人差し指の付け根のほうから手首へ向かって眼を向ける。引っ掛かった箇所の数字が浮かんでくる。
「18・・・いや、19。とにかく20歳前にかなりの高熱を出しませんでしたか。40度まではいかなかったようですけど・・・多分39.8度まで上がったのじゃないかと」
「どうして、わかったんだ」
少しかすれた声で下平さんはそう言ったのでした。




