31 気乗りのしない初デート その4
日本平の山頂に着いて車から降りた私は、ホッと息を吐き出した。まさか旧道といわれている方を登るとは思わなかった。狭い道なのに意外と通る車が多くて、崖側を走行しているから、落ちるのではないかと思ったから。
下平さんに手招きされてそばに行くとそこからは駿河湾が見えた。午前に通った道も見えて、まだ少し渋滞をしているようだった。
「ここから東照宮に行けるけど行ってみる」
「えっと、もしかして久能山? あっ、じゃあここがロープウェイの乗り口・・・」
途端に初詣のことが思い出された。
「行きません!」
つい強い調子で言ってしまった。言ってから、ハッとなる。
「それじゃあ、違うところに行こうか」
下平さんは笑って車に乗りこんだ。そこから少し移動して別の駐車場に止めた。降りて展望台のほうに行った。こちらは山が邪魔をしてさっき見た東照宮のほうは見えない。代わりに先ほどまでいた清水の街が見えた。ついでに富士山も。
もう一度車に乗りそばのホテルへ。そこの駐車場に止めてホテルの庭に出た。
「うわ~」
視界が開けて、さっきの展望台より清水の街がよく見える。港や三保半島までよく分かる。
「来たことがないの」
「ないですよ。高校を卒業してから東京にいましたし、戻って来てからもホテルに用はないし、連れてきてくれる人もいなかったから」
視線を景色に向けたまま、そう答えた。芝生の上を少し歩いて、このまま端まで行ったら、戻ってくるのが大変だと気がついて立ち止まる。くるりと後ろを向いたら、目の前に下平さんがいて焦った。
「もういいの」
面白そうな顔で言ってきたので、「もういいです」と答えてホテル内に戻った。お手洗いに寄ってホテルを後にした。
「ここでお茶でも良かったのに」
車を運転しながらそう言われたけど、どうせなら行きたいところが私にはあった。ので、それを口にする。
「確かにホテルでお茶もいいですけど、私は行きたいところがあるんです」
私の言葉に下平さんは笑っていた。
「ところで下平さんはどんなタイプの女性が好きなんですか」
「どんなねえ。そうだなあ~、仙道敦子って知ってる?」
「女優さんですよね」
「あんな感じの少し釣り目でえらが張った感じの顔が好きだな。沢木さんは」
「う~ん、しいて言えば少年隊の東かな」
「アイドル好きなんだ」
「えーと、違うと思う」
「違うの?」
「だって、東って時代劇の恰好したら似合いそうなんだもの」
「江戸時代は好きじゃないって言ってなかったか」
「うちは水戸黄門や大岡越前、銭形平次を見ていたから」
「江戸時代じゃなくて時代劇が好きなんだ」
こんな会話をしていたら、目的地にあっという間に目的地に着いた。
着いたところは、喫茶店。まだお茶の時間には少し早いから、駐車場に車を停めることが出来た。この店はもう一店舗あるけど、どちらもお茶の時間になると混みあって中々入れない。どうしても入りたかったら、早めに来るしかないの。
席に案内されてメニューを見ながら思いっ切り悩んだ。前に来た時に、私はイチゴパフェを頼んだの。プリンアラモードを頼んだ友人が美味しそうに食べていた。ただ、このプリンアラモードは凶悪だ。大き目のプリンにたっぷりの生クリームと、これでもかというくらいにフルーツが乗っていた。一人で食べきる自信はない。友人も食べきれなくて悔しそうに残していたもの。
「どれにするか決めたの」
笑顔で言ってきた下平さんをヒタッと見据えた。
「下平さんは甘いものは苦手ですか」
「嫌いではないけど」
語尾に疑問符がつきそうな言い方だった。なので私はニッコリと笑いながら言った。
「お願いがあります。これを頼みたいけど、1人じゃ食べきれないから一緒に食べてください」
下平さんは一瞬口を大きく開けて閉じ、まじまじと私の事を見つめてきた。
「一緒に?」
「はい。一緒に!」
私は尚更ニッコリと笑った。
「もちろん、ただでとは言いません。私のとっておきを出しますから」
「とっておき?」
意味がわからないという顔をする下平さんに、私はいたずらっぽい笑みを浮かべた。
「と、いう訳で頼んでいいですか」
「・・・どうぞ」
店員を呼んでプリンアラモードを注文した。
「飲み物はどうなさいますか」
「コーヒーを」
「ホットでよろしいでしょうか」
「はい」
「私は紅茶で」
「紅茶はレモンティー、ミルクティー、ストレートがございますが」
「ストレートでお願いします」
店員が離れたところで、私は下平さんに笑顔を向けた。
「下平さんは占いをしてもらったことがありますか」
「今まで一度もないけど」
「じゃあ、手相占いもないですね」
私が手相占いと言ったら下平さんは胡散臭そうな顔をした。なので、私は笑みを深めて言った。
「私がするのは手相占いですが、余興程度ですから安心してください」
「あっ、そうか。余興ね」
途端に安心した顔をする下平さん。私はそんな彼に頷いた。
「そうです。余興です。ですが、私の占いは普通と違います。しいていうなら霊感手相占いですね。私には少し霊感がありまして、それを占いに使っています。というよりも、気がついたら使っていたという方が正しいのですけど。線を見ていると数字が浮かんでくるんです。まあ、口で説明するより実際に見てもらった方が早いと思うので、よければ手を出してください」
下平さんは動かなかった。私はなんで手を出してくれないのだろうと思って彼の顔をみたら、呆気にとられたような顔をしていたの。




