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30 気乗りのしない初デート その3

少し大げさに騒ぎぎみに食事を食べ終わった。かわいい女の子なら少し残して「もう食べれな~い」と、かわいいアピールするのだろう。だけど、私はそんなことはしない。というか、そんなことをするのはお店の人に失礼だと思っている。だから綺麗に食べきった。ご飯粒の一粒だって残っていない。


お店を後にしようと立ち上がった私は足を踏み出そうとしてバランスを崩した。そのまま三和土に落ちると思ったのに、肩をつかまれて体を支えられた。


「大丈夫か、沢木さん」


耳元で下平さんの声がした。少し低めの声。その声を聞いたら背筋をぞくぞくするものが駆け上がった。


(あ~、この声好き。もう一度聞きたい・・・)


一瞬ボウッとなりかかり、そんなことを思っている場合じゃないと思いなおす。そろそろと腰を下ろし膝をつく。


「ありがとう、下平さん。正座をずっとしていたから痺れてしまって」

「途中で崩せば良かったのに」

「それをするのは嫌でしたので。というよりも正座を崩した方が食事をしにくいです」


つま先立ちみたいにして座って、そろそろいいかと足先に力を入れてみる。まだ少し痺れているけど、さっきみたいに感覚がない状態ではないようだ。


「もう、大丈夫です」


まだ肩をつかんでいる下平さんにそういった。


「もう少し痺れが取れてから動こうか」

「大丈夫ですよ」

「でも、手にまだ力が入っているよ」


(ん? 手に力が入っている?)


下村さんは後ろから腰に手を回していて、前側の腕は私の肩に置かれていて、私の手はその腕を掴んでいて・・・!


「え~!」


叫んで慌てて手を離した。周りから今まで以上に見られてしまった。私は顔に熱が集まってきたのを感じた。


(うわ~。何しているのよ、私)


「もう、大丈夫かな。それじゃあ行こうか」


下平さんは私を立たせると先に靴を履いてレジのところに行ってしまった。私も慌てて追いかけた。目の前にはお金を払い終わり、財布をしまう下平さん。財布を出すタイミングを逃してしまい、背中に手を当てられて店の外に出た。


車に乗った所で私は言った。


「半分出します」

「素直に奢られる気はないのかな」

「ないです」

「男の矜持ってわかる」

「だからお店では言いませんでした」

「男を立てることが出来るのなら、このまま奢られようよ」

「それが嫌だって先に言いましたよね」


(つき合っているわけでもないのに、奢ってもらうなんて出来るわけないじゃない)


下平さんは少し上を向いて考えた後こう言った。


「それならこの店は俺が出すから、次の店は沢木さんが払うでどうかな」


(えっ、もうこれで帰るんじゃないの)


そんな気持ちが顔に出ていたようで、下平さんは面白そうに笑った。


「沢木さん、今日俺達が会った理由って何?」

「理由。・・・あの・・・この前、話してないから・・・その・・・知らないから・・・」


しどろもどろに答えたら、下平さんの笑みが深くなった。


「そうだろう。いくら気乗りしないからって、それはないよな。楽しんでくれたようだから、まだいいけど」


私は申し訳なさに下平さんから視線を外して俯いた。


(そうだった。こちらからお願いしてもう一度会うことになったのに、嫌われる行動をしようだなんて、失礼にもほどがあるわ)


「あの、ごめんなさい。下平さんに失礼なことばかりしてしまいまして」

「別にいいよ。それに俺も同じだったし」

「えっ? 同じ」

「そう。最初に会ったのも、先輩である中野さんに頼まれて断れなかっただけだしね」


顔をあげた私に下平さんは、さっきとは違う笑みを浮かべていた。


「とりあえず移動しようか。いつまでも店の駐車場に停めていたんじゃ邪魔だろうし」

「あっ、はい」


下平さんが車を走らせて、私は助手席で小さくなって座っていた。


「ところで、なんで中野さんにお見合いを頼むことになったの」

「えーと、母が誰か良い人を紹介してくれませんかと周りに話していたんです。それで、本当に紹介してくれたのが中野さんで」

「・・・あの人は~」


私の答えに下平さんは顔をしかめていた。


「あの、無理に頼まれたのでしたら、断っていただいて構いませんから」

「それなんだけどさ、それやめない」

「はい?」

「お見合いのこと」

「ええっ?」

「この間も全然お見合いらしくなかったから、お見合いと思うのをやめないか」


(えーと、えーと、どう考えれば・・・いいのよ!)


下平さんの言葉にパニック気味に考える。考えるのだけど、考えがまとまらない。


「お見合いじゃないのなら、なんだと云うんですか」

「友人の紹介ということで、どうかな」

「友人の紹介?」

「そう。中野さんは高校の先輩でもあるんだよ。だから友人からのと云うより先輩の紹介になるけどね」

「高校の先輩だったんですか」

「高校では一緒にならなかったけどな」


ニヤリという感じに笑う下平さんに、私はなんと返したものかと困ってしまった。


「ということで、まずは、沢木さんて、歳いくつ?」

「えっ、歳ですか? 24歳です。・・・下平さんは」

「俺は27歳だよ。3歳違いか。もしかして、沢木さんて早生まれ?」

「ええっ! なんでわかったんですか。そうです。1月生まれです」

「何となくかな。ところで、これから山道あがるからね」


言われて気がついたら、日本平の清水側のところに来ていたようです。


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