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29 気乗りのしない初デート その2

『海のはくぶつかん』には科学博物館というように、海洋生物だけでなく海に関する様々な展示物がある。2階に上がって目についたものはピグミーシロナガスクジラの全身骨格標本があったこと。全長は18メートル超えの大きさに目を瞠った。他にもタラバガニの剥製やシャコガイの貝殻などもあった。


なんといっても驚いたのは海の生き物の動きを再現したメカニマル(メカ+アニマル)達。時々何かの番組で取り上げられていたから知っていたけど、これだけのものが作られていたとは驚きだった。


魚がひれを使って泳ぐ姿や、カニが歩く様子にハサミの大きさが違うカニのハサミを動かすものなど、私達が操作できるものもあった。時期的に人が少ないからか子供連れの家族の姿があまりなくて、私達も操作することが出来た。


『海のはくぶつかん』を堪能した私達は隣の『恐竜のはくぶつかん』に足を向けた。


この建物は中に入るとまずはエスカレーターで3階まで行く。気分は4億年前にタイムスリップ(そうエスカレーターの壁に書いてあったの)。化石を見ながら順路通りに歩いて行く。


恐竜の時代の3階から中生代の2階へ。生きている化石としても有名な、シーラカンス、カブトガニ、オウムガイの化石を見て、氷期の時代へ。マンモスの骨格標本に、サーベルタイガーやケサイの化石、オオツノジカの骨格標本と、ステラカイギュウの完全骨格が展示されていた。


1階に降りると一気に現代になった。


駐車場に向かう間に下平さんが話し掛けてきた。そういえば『恐竜のはくぶつかん』内では、話し掛けられなかったなと思った。


「化石にも興味津々だったね。ただの石だと思わないの」

「ただの石じゃないですよ。はるか昔に生きていた生き物の証じゃないですか」

「歴史とかも好きだったりして」

「勿論です。私達の祖先のことですもの。興味を持たないわけがない」


何故か驚いたように私の事を見てくる下平さん。そうしたらまた口角が上がった。表情にも面白いと書いてある。


(おかしいな。そんな面白いこと言った覚えはないのだけど)


「歴史っていつの時代が好きなのかな」

「う~ん、飛鳥、奈良辺りから室町辺りかな」

「戦国時代や江戸時代には興味ないの」

「戦国時代はごちゃごちゃしているから分からないです。江戸時代は文化には興味あるけど、それ以外はあんまり」

「戦国時代は面白いのに」

「下平さんは戦国時代が好きなんですか」

「好きというかドラマがあるだろう」

「そこは、分からないので」

「じゃあ、なんで飛鳥時代が好きなんだ」


その質問に私はニンマリと笑った。


「もちろん漫画の影響です。山岸涼子先生の「日出所の天子いずるのてんちゃん」とか、長岡良子先生の「古代幻想ロマンシリーズ」とか。ああっと、小説だけど藤川桂介先生の「宇宙皇子」もその頃よね。平安時代は源氏物語を漫画にしてくれた大和和紀先生の「あさきゆめみし」に小説の氷室冴子先生の「ざ・ちぇんじ」と「なんて素敵にジャパネクスシリーズ」よね。鎌倉時代は湯口聖子先生の「夢語りシリーズ」室町時代は木原敏江先生の「夢幻花伝」だったかな?」


そう答えたら呆れた視線を向けられた。


「よく出てくるな」

「だってこれで、日本史を覚えたから」


私の答えに何かを思案する下平さん。


「まさか、世界史もあるとか」

「ご名答。アメリカの独立戦争とフランス革命の年号は「ベルサイユのばら」で覚えました」


Vサイン付きでニヤリと笑ったら、下平さんは口を押えて笑い出した。車に乗った時には笑い過ぎたのか涙目になっていた。


(この人って笑い上戸かしら)


「ところで、お昼に何か食べたいものはある」


訊かれたけど、特に食べたいものはなかった。


「特にはないです」

「それなら魚のおいしい店に行くか」

「魚ってお刺身ですか」

「もちろん。新鮮な魚がお勧めの店だから」

「それならそこで」


三保の水族館から20分。お食事処という感じの店に着いた。座敷に案内されて、メニューを見て少し悩む。お刺身も美味しそうだけど、この店に入った時にカウンター席の人に、ちょうど置かれた海鮮丼も美味しそうだった。


「何にする」

「お刺身定食にするか海鮮丼で悩んでいます」


そうしたら、下平さんは店員さんに海鮮丼のご飯は酢飯か白米か訊いてくれた。どちらも白米とのこと。それならば、


「海鮮丼にします」

「わかった」


店員さんに注文する時に私はご飯を軽めにしてくださいとお願いした。先ほど見た時、かなりな量があったから。残すことは出来ればしたくない。


しばらくしてきた海鮮丼はキラキラと輝いて見えた。イクラだけじゃなくてトビコまで乗っていた。


「いただきます」


と手を合わせて食べ始める。


「マグロ~、えっ、中トロも乗ってた。甘エビが甘~い」


と、わざと声に出して言っていく。周りからの視線が集中するけど、私は気にしない。地元じゃないし、こんなことを声に出していう女とはつき合いたいと思わないだろう。


下平さんには悪いけど全力で嫌われようと思います。


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