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27 ホワイトデーも大喧嘩

3月の2週目。山本さんと会うのはひと月ぶりになる。お見合いもどきの後すぐには会えなくて、結局今日になってしまった。気まずい思いはするけど、でも、久し振りに会えることに私は浮かれていた。


会う約束をしてから1週間。私はよく眠れるようになっていた。本当に現金なものだと思う。あれほど眠れなかったというのに。


両親も私がまた彼と会うことに特に反対はしなかった。


いつもの待ち合わせ場所で立っていたら、また見知った車が停まった。助手席の窓が開いて和彦が顔をのぞかせた。


「麻美、今日もデートか」


和彦の爽やかな笑顔に私の顔は引きつっていった。私の表情に和彦も笑顔を引っ込めた。そして助手席に置いてある物を指さして言った。


「今日はこれを届けに来ただけだから。バレンタインのお返し。伯父さんにも頼まれたし」

「別に良かったのに」


ポソリと言ったら和彦は苦笑いを浮かべた。


「まあ、そういうな。伯父さんの感謝の気持ちなんだからさ」


助手席にはバレンタインのお返しにしては多すぎる箱が置かれていた。おじさんと親戚つき合いをするようになってから、事あるごとにおじさんは私達一家にプレゼントをするようになった。母親を看取った私達への感謝の気持ちだと言っていた。


父が過剰な贈り物は受け取らないと言ったから、理由がある贈り物しかしなくなったけど、こうやってサプライズ的に贈ってくれるの。特に私にはおまけが多すぎるくらいだ。箱の感じからしても、一つは服が入っているのだろう。この間の誕生日にもワンピースを貰ったばかりだけど、おじさん達には男の子しかいないというから、女の子の服を選ぶのが楽しいとおばさんに言われてなし崩し的に受け取っている。


「わかってるよ。少し申し訳ないと思っているだけだから」

「それじゃあ、届けておくからな」


そういうと和彦は家へと向かって行ったのでした。


それを見送って、私はハッと周りを見回した。まだ彼は来ていないようで、彼の車はまだ見えなかった。



少しして彼の車が停まり、私は助手席に乗り込んだ。


「久しぶり、麻美」

「お久しぶりです」


彼が微笑んでくれて、私はホッとすると共に嬉しくなった。いつものドライブだと思ったら、行先が少し違うみたいだ。


「どこに行くの」

「ついてからのお楽しみだよ」


機嫌よくそういう彼に私も「じぁあ、楽しみにしている」と答えたの。


着いたところは動植物園だった。私達は植物園の方に行った。ここは大きな温室があることで有名だった。まだ外はあまり花が咲いていないけど、温室の中はいろいろな花が咲いていた。


園内のレストランで食事をしてから、車に戻った。車に乗ったら、「バレンタインのお返しだよ」と袋を渡された。袋の中には包装された箱と手乗りサイズの可愛い猫のぬいぐるみ。


「山本さんって、私がぬいぐるみ好きだと思っていません?」

「違うの?」

「嫌いじゃないけど・・・」

「けど?」

「あまり増えると置き場所に困るから」

「こんなに小さいのに」


彼がハハハッと声に出して笑ってくれて、うれしくなった。


車を発進させてしばらくしてなんでもないことのように、彼が言った。


「ところでこの前のお見合いってどうなったの」


ドクンと心臓が鳴った。


「お見合いって感じではなかったのよ。紹介者の人も用事があって引き合わせたら帰ってしまったし。会ったのも居酒屋でそこのお店を出たら別れたわ」

「居酒屋だけだったんだ」


彼は呟くようにそう言った。


「じゃあ、もう会うことはないんだね」


すぐに嘘でもいいから「もう会うことはない」と言えばよかったと思った。彼は私が答えないことで察したようで、声のトーンを落として言った。


「また、会うんだ」

「・・・」

「断らなかったんだね」

「・・・」

「そんなにその男が良かったんだ」

「違う。私は断ってと言ったのよ。だけど、一度くらいじゃ相手のことがわからないと言われて、気がついたらまた会うことになっていたの」

「麻美は親の言いなりなんだ」


この言い方にカチンときた私は、彼に食ってかかった。


「そんなことないわよ。言いなりになんかなってない」

「じゃあ、会わなければいいだろう。当日行かないとかすれば」

「すっぽかすなんて、したらいけないことでしょ」

「断れないとかいいながら、実は麻美のほうもまんざらでもなかったりして」

「だからそんなことないってば。全然好みのタイプじゃなかったもの」

「口ではどうとでもいえるよね」

「何で信じてくれないのよ」

「どこを信じればいいんだよ。一度だけと言ったのは麻美だろ」

「だから、私もそのつもりだったのよ。それを親がさせてくれなかったんだってば」


言い返しながら、私は泣きたい気持ちになっていた。でも、今回のことは私が悪いとわかっている。口約束とはいえ約束を守れなかったのは私が悪いのだから。


「もういいよ。気分が悪いからもう帰ろう」


そう言っていつもの場所まで送ってくれて、降りる私に何も言わずに彼は去っていったのよ。


私はそれを見送らずに家へ向かって歩き出したのでした。


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