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25 お見合い・・・もどき?

2月の最後の週の金曜日。駅のところで千鶴と待ち合わせをした。今日は母が頼んだお見合いの日。でも、お見合いと言っても堅苦しいことはせずに、会って、居酒屋で飲んだり食べたりしながら話しをしようということだった。仲介に立ってくれた中野さんが言うには、独身男性を2人連れて行くから、私も誰か友人を誘っておいてということだった。


千鶴と会ったら開口一番「麻美、大丈夫」と聞かれた。あんまり大丈夫ではないけど、笑顔を浮かべて「大丈夫」と答えておいた。


駅南の居酒屋の前での待ち合わせ。中野さんと一緒に20代後半くらいの男の人が2人待っていた。


「すみません。お待たせしました」

「ああ、沢木さん。全然待っていませんよ。約束の時間までまだ時間がありますから」


私が声を掛けたら、中野さんがそうにこやかに笑って言った。けど、すぐに爆弾を投下してくれたのよ。


「ところで申し訳ないのですが、私は他に行かなければならないところがあるんですよ。あとは皆さんにお任せしますね」

「はい?」

「下平、前田。失礼がないようにするんだぞ」

「いやだなぁ~、わかってますよ、中野さん」

「じゃあ、沢木さん。失礼します」


そう言うと、中野さんは足早に去っていったのでした。あ然と見送る私と千鶴に男の人が声をかけてきた。


「とりあえず中に入りましょうか。ここは寒いですし」

「そうですね。入りましょう」


店の中に入り中野さんの名前を伝えたら、席に案内された。


「まずは注文してからにしましょうか」


男の人の提案に頷いてメニューを見た。皆はビールを頼むみたいなので、私も同じ物を頼んだ。料理を適当に頼み、落ち着いたところで男の人達と向かい合った。


「今日は忙しいところを来ていただいて、すみませんでした。私は沢木麻美と言います」

「麻美の親友で付き添いの香滝千鶴です」


私が先に自己紹介をしたら、男の人達は軽く目を見開いた。先ほどから主導していた男性が先に口を開いた。


下平浩二しもひらこうじです。よろしく」

前田昭まえだあきらです。私もどちらかというと付き添いかな」

「昭さん」


下平さんが前田さんのわき腹を突いていた。


(そうか。下平さんがお見合い相手なのね)


私は遠慮なく下平さんのことを観察させてもらうことにした。下平さんは多分身長は170センチくらい。中肉中背ってこれくらいの人をいうのかしら。髪をオールバックにして整髪料で固めているみたいね。目は一重で瞼が腫れぼったくみえる。下唇が厚めで、少し面長よね。まあ、とってもかっこよくはないけど、見られない容姿ではないと。

・・・好みじゃないけど。


そんな失礼なことを考えている間に千鶴が二人に郵便局のことを訊いていた。課がいくつかあると聞いて、郵便局も普通の会社と変わらないのねと、話していた。


「沢木さんはどんな仕事をしているのですか」


・・・中野さんに聞いていないのかしら?


「今は家事手伝いをしています」

「そういえば農家でしたか。その手伝いも」

「ええ」


それだけで興味を失くしたのか、その後の会話は当たり障りのないものになった。


そうか、この人も中野さんに頼まれて仕方なくきたんだ。なんだ。そんなに心配することもなかったじゃん。


私はそう当たりをつけたら、気が楽になった。


「じゃあ、佐野元春を歌うんですか~。尾崎豊とかはどうですか」

「尾崎豊は歌わないですね。香滝さんは何を歌いますか」

「最近はテレサテンの曲を歌うのよ。曲名がね、つなげると面白くて。ね、麻美」

「そういえばやったね~。最初が『愛人』で『あなたと共に生きてゆく』にして『時の流れに身をまかせ』だっけ」

「そう。あと『別れの予感』『スキャンダル』『つぐない』と続くのよ」


私と千鶴の言葉に下平さんは笑って言った。


「それは凄いですね。今度ぜひカラオケにご一緒しましょうか」

「いいですね。私も下平さんの『ガラスのジェネレーション』や『SOMEDAY』を聞いてみたいです」


こんな軽いやり取りも出るくらいには楽しめた。


2時間が立ち、私達は店を後にすることになった。飲食代を払おうとしたら、中野さんからお金を預かっていたとかで、足りない分を彼らが払ってそこで別れた。


駅に戻りながら何となく拍子抜けした状態でいたら、千鶴が言った。


「なんか、つかみどころがない人ね」

「そうかな」

「だって、あの流れなら、絶対カラオケに誘われると思ったのに」


千鶴は不満そうにそう言った。


「千鶴は誘われるのを期待したの?」

「ううん。ただ単に歌いたくなっただけ」

「じゃあ、二人で行く」


私がそう言ったら、千鶴は私の顔を見て首を横に振った。


「やめておこうか。それよりさ、今日泊めてよ」

「いいけど、急すぎない」

「たまには一晩語り明かしましょ」


千鶴は私の腕を取るとタクシー乗り場に向かった。


「まだ、バスあるよ」

「いいじゃん。食事代が浮いたから、贅沢しようよ」

「う~ん、そうだね」


千鶴の提案に私は乗ったのでした。タクシー乗り場で並んでいる時に、来た方向を見ていた千鶴が小声で呟いた。


「まさかね。麻美の体調が悪そうなのに気がついて、誘わなかった。なんてこと、あるのかしら」


ちょうど私達の順番になってタクシーに乗り込もうとした私は、千鶴が何を言った言葉がよく聞こえなかった。なので、気になって聞いてみた。


「なんか言った。千鶴」

「ううん。なんでもない」


千鶴も乗り込んできて、タクシーは家に向けて走り出したのだった。


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