235 私の誕生日 その7
浩二さんがそこまで考えていたとは思わなかった。いつだって大人で、強引なところもあるけど、私のことを気遣ってくれていたもの。
「えーと、そこには賛成かな。出会いは落ちてないに。でも、浩二さんのほうが出会いはありそうよね」
浩二さんは苦笑を浮かべた。
「本当にないんだって。職場の飲みは男ばかりで飲むのが多いからさ。それで・・・嫉妬した俺は浅井に相談をしたんだ」
前に聞いたあれよね。私の本音を引き出すためにいろいろ仕掛けてくれたこと。
「イケメンの同級生がいると言ったら、俺が騙されているかもと、言いだしてな」
ん?
「香滝さんが名言を言っていただろう。それの浅井版みたいなやつだよ」
「ええっと、『男はつるむ』に対する女性に関することなの?」
「そうだよ」
と、言いながら、なかなかその言葉を言おうとしない浩二さん。
「なんと言ったの? 浅井さんは」
問いかけても、気まずそうに眼を逸らしている。
「浩二さん」
再度促すように名前を呼んだら、「怒らないでくれよ」と言ってから、話してくれた。
「その、『女は女優だから』って」
「・・・はっ?」
「だから、女って生き物は嫌なことでも演技で誤魔化すからと、浅井は言ったんだよ」
「はあ?」
演技って何?
「麻美が元彼と別れることにしたのは、俺とのことで比較したんじゃなくて、和彦君のことを本当は想っていたんじゃないかって言いだしたんだ。元彼と付き合ったのだって、和彦君を振り向かせたかったためだとか、麻美の親が和彦君のことをよく思っていなくて、泣く泣くあきらめたとかって」
「はあ~? えっと、えっ? 浩二さんはそんな前から、そう思っていたの」
和彦とのことを、誤解をずっとしていたと聞いたけど、そんな前からだと思わなかった。というか、その元凶は浅井さんかい!
「和彦君と初めて会った時、麻美は結婚を白紙に戻すために、和彦君に偽の恋人になってくれって頼んでいただろう。あの時は俺に麻美を渡して帰って行ったけど、あの時の和彦君の目は笑ってなかったんだよ。自分は盗らないと言っておきながら、隙を見せたらかっさらう気がまんまんだと思ったんだ。これは本当に誤解だったんだけどな」
と、ため息を吐く浩二さん。
「本当に今なら分かるけど、疑心暗鬼に陥ってたんだよな。自信も余裕もなくてさ。だから浅井の言葉に乗ってしまったんだ」
チロッと私を見てから、また視線を合わせないようにして、続きを話し出した。
「俺の友達が祝ってくれるからって、浅井の家に行っただろう。あの時、浅井から麻美を酔わせて、本音を聞き出そうって言われたんだ。酔った時なら、本音をぶちまけるだろうって。だけどまさか、麻美が酔うと眠くなるとは思わなくてさ。でもこれも誤解だったんだよな。金曜に香滝さんに言われるまで、生活習慣によるものだと思っていなかったよ。何度も泊まっていたのに、親父さんにも気を使わせていたんだな」
「それは違うわよ。たまたま朝に市場へいかない日に泊まっていただけよ」
これは本当だった。なのに浩二さんは苦笑いをまた浮かべたの。
「麻美には言ってなかったけど、麻美がいないところで和彦君と4回会っているんだよ」
「えっ?」
「一番最初は7月だったな。呼び出されたんだけど、俺を呼び出したのは最初は香滝さんだったんだ」
「千鶴が? なんで・・・じゃないか。私が浩二さんをみんなとの飲みに誘わなかったからよね」
「そうだよ。呼び出された俺は指定された店に行ったら、香滝さんと和彦君が待っていたんだ。それで、香滝さんに懇々と言われたよ。この時は、和彦君は口を挟まずに黙っていたけどな。それで、麻美たちの飲み会に行くことを了承したんだ。二度目に会ったのは、稲刈りの後だったな。最初に会った時に名刺を交換していたから、それで連絡をしたんだ。その時は浅井がどうしても和彦君と話したいと言いだしたからだったんだよ」
私は口を開けたけど、相づちでさえ出てこなかった。
と、言うか、何をしているのよ。私が言っていないのに飲み会に浩二さんが現れたから、会ったのだろうとは思っていたけどさ。
いや、それよりも、和彦と浅井さんが話し合いですとー!
「それで、最初は店で会ったんだけどなんか意気投合したみたいで、その後和彦君の部屋に行って一晩飲み明かしたんだ」
「・・・はあ?」
「俺はそんなに酒に強くないから、二人が飲むのを隣で見ていたけど、ボトル3本空けて平気でいたからな~。やっぱ、浅井とは酒に付き合えないなと思ったな」
のんきに言う浩二さんだけど、ボトル3本って何? なんかお酒の種類は聞かない方が身のためみたいな気がする。
少し頭痛を感じながら、私は浩二さんに行った。
「えーと、それじゃあ浅井さんと和彦は和解をしたの?」
「そこはどうなんだろうな」
「えっ?」
「俺も朝までは起きていたつもりだったけど、いつの間にか寝てたんだよ。そんなに飲んだつもりはなかったけど、あいつらの飲んだ酒の量が半端じゃなかったから、気化したアルコールで酔ったのかもな」
いや、それって、どうなのよ!




