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234 私の誕生日 その6

前に浩二さんから聞いたことより、より生々しい話だ。先にいろいろ知られていたとは思わなかった。というか、本当に私のどこがよかったのだろう?


チロッと浩二さんのことを見てみる。聞いてもいいのかな?


「何かな?」


浩二さんは話すのをやめて聞いてくれた。なので、「え~と」と口ごもってから、えいやっ! という気分で聞いてみた。


「そのね、浩二さんは私の第一印象が悪くなかったんでしょ。それが何なのかと思って」


私の言葉に「ああ、それか」と、浩二さんは破顔した。


「麻美は最初の時から料理を残さないようにしていただろう。お皿に一つ残ったものをみんなに聞いてから、分けて片付けるようにしていたのが、いいと思ったんだ」

「えっ? それ?」


確かに最初の居酒屋で会った時に、お皿に一つだけ残ったものがあるのが邪魔で、みんなに聞いて押し付けたり、他の人が食べなければ私がもらったりしたけど。でも、あれが?


「そうだよ。女性は『こんなに食べれな~い』と言って、簡単に残すだろ。本当に食べられないのなら仕方がないと思うけど、その後平気で甘いものを食べたりするよな。それってあんまりいい気持ちはしないんだよ。作ってくれた人に悪いと思わないのかと、思っていたんだ。それを麻美は、最初から少なくしてくれるように頼んでちゃんと完食していたし、二回目の時の煮込みハンバーグも、先に多い分を俺にくれただろう」

「えーと、私も残すのは嫌だったからで・・・。でも、浩二さんに押し付けてしまって、悪かったかなと思っていたんだけど」


あの時は今と違ってかなり少食になっていた。だから残したくなかった私は三分の一を先に切り、浩二さんに食べてもらったのよ。今更だけど、無理に押し付けてしまった気がする。


「あそこのハンバーグはサイズが選べないだろう。女性にやさしいサイズだったから、俺には少し物足りなかったんだ。麻美からもらえて、ちょうどいい量になったよ」


そう言われてみれば、そんな気がした。私の表情を見て浩二さんが聞いてきた。


「じゃあ、いいかな。続きに行くけど」


私はこくりと頷いた。


「結局俺の心配は杞憂に終わって、麻美から連絡が来ただろう。あの時は実はギリギリだったんだ。沢木家からアパートに戻り、一息つく間もなく麻美からの電話だったからな。高速を使って戻って麻美に会って。……あの時、麻美は自覚してなかっただろうけど、俺の顔を見てホッとしていたんだぞ」


え~と、それは私のところに来るのに、事故を起こさないかと心配だったからなんだけど……。


「少しは気を許してくれているんだなと思った。というか『俺と先に会えていれば』と言われた時には、もう自惚れていたかな。価値観が違う好きな男より、価値観が近い俺のほうを選んでくれるんだって」

「価値観?」

「そう、価値観。生活観と言った方がいいかもな。生活していくうえで、何を大切にしていくかというもののことだよ」

「あっ、それなら分かる。浩二さんとは近いものを感じたもの」


そう答えたら嬉しそうに笑ってくれた。


「まあ、これは勘違いでこのあと、麻美に『うん』と言わせるのには苦労したけどな」

「いやだって、早すぎるんだもの。彼と駄目になったから、すぐ次なんて考えられないのに、どんどん結婚に向かって話を進めていったじゃない」

「それはあれだ。親父さんの後押しもあったけど、麻美にいつまでも暗い顔をしていてほしくなかったからさ。それに結婚という目標があった方が、麻美は元彼のことを早く忘れられるとも、思ったし」

「うっ」


私はうめき声のようなものを出して、動きを止めた。確かにそうだったと思う。山本さんとの別れに浸る暇もなく、浩二さんとの結婚へと動き出したことに焦って、それをどうにかなかったことにできないかと考えていたもの。


「やっと前向きに考えてくれたかと思ったら、今度は別の男の影がちらついて来ただろう。それもかなりのイケメン。麻美の言葉の端々に嫌っている感じは見て取れたけど、それでも仲良くしている姿を見ると、嫉妬するのを押さえられなかった」

「嫉妬って・・・」


浩二さんの言葉に驚いた。私は一貫して和彦のことは嫌いだと言い続けていたと思うのだけど。


そんな私が考えていることが分かったのか、浩二さんが笑った。


「夏に会った麻美の中学からの男友達って、みんな格好いいだろ。俺は容姿の面じゃ勝てないって思っていたからな。というか、かなりのマイナスだろうと思っているよ」

「そんなことないよ。浩二さんは普通じゃない」

「麻美はそう言ってくれるけど、世の女性からみたら、和彦君と俺だったら、和彦君を選ぶと思うんだ。だからさ、自信なんかなくて、どうやって麻美を繋ぎ止めようかと考えてばかりいたよ」


あまりな告白に、私は目と口を大きく開けて浩二さんのことを見つめたのよ。


「いや、待って。それおかしいから」

「おかしくないよ。最初に麻美に断られた時に、俺ならいい人がすぐに見つかると言ったけど、そんなに簡単に出会いは落ちてないんだ。俺は麻美に出会わなかったら、今も彼女はいなかったと思う」


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