224 親友は最強!(話は終わって・・・)その5
部屋を出ていこうとする千鶴を和彦が呼び止めた。
「だから、待ってくれよ、千鶴。俺のことはいいけどさ、浩二さんのことを放っていくなよ。麻美は本当に浩二さんのことを嫌ってしまったのかよ」
「ふう~。あんたは本当に何を聞いていたのよ。麻美は下平さんのことを嫌ってなんかいないわよ。ただ、あんたの言葉に乗せられてバカやったことに失望したんだってば」
「だけど結婚をやめる気になったんだろ。こんな大事になるなんて思わなかったんだ」
「だから、私が言ったことをよく思い出しなさいよ。麻美はまだ言ってないわよ。ただ最悪の場合は結婚を取りやめもありうるのだと言ったのよ」
「ひでー、なんという脅しだよ」
「もともとはあんたの責任なんだから、そんなことを言わないでよね」
「俺かよ。だけどそこまでのことをしたか?」
「だからね、修二があんなことをしたのは、和彦のためだったのよ。そこに大いなる誤解があったみたいだけどね」
「それがよくわかんないだよ。俺は修二にそこまで気にかけられるようなことはしてないぞ」
「やっぱり忘れているのね」
心底呆れたような千鶴の声が聞こえてきた。
「小学校の時に修二は助けられたって言っていたのよ。和彦は忘れているようだけど、クラスのガキ大将みたいなやつに修二は目をつけられていて、それからうまい具合に引きはがしてくれたって言ったの。そうでなかったらズルズルと言いなりになって、不良崩れになっていたんだろうって言ってたわ」
「あっ、ああ。龍二のことか」
「なんだ覚えていたの」
「今の今まで忘れていたよ。修二は龍二と家が近かったんだよな。それでなんとなく一緒にいたはずだ。修二は気が弱いわけじゃないけど、龍二には逆らえない雰囲気があったから。それにあの時は同じ班で先生に頼まれたから、修二に声をかけただけだったんだ」
「・・・つまり先生から頼まれたことを実行しただけで、修二のことを思って助けたわけじゃないのね」
「普通そうだろ。俺だって不良に目をつけられたくないぞ。そういえば龍二は俺には何もしてこなかったな」
はあ~と千鶴がため息を吐き出した。
「こんなやつに感謝して、修二は割に合わないことをしたっていうの。そのせいで麻美は辛い思いをしたっていうわけ?」
「俺のせいかよ」
「そうよ。あんたのせいよ! この諸悪の根源が~!」
「千鶴、声が大きいって。というか修二の思い込みが原因だろ。俺は悪くないだろ。迷惑をかけられたのは俺だ」
「誤解させるような行動をしておいて、よくいうわよ。やっぱあんたは最低よ。なのになんであんたが麻美のそばにいるのよ。ずるいわよ。私がどんだけ麻美のそばにいられるように努力したのか知らないくせに」
千鶴の声のトーンが落ちた。
「千鶴?」
「なんであんたはちゃっかり東京で会っていたのよ。私もこんなことなら東京の大学を志望しておけばよかったわ。麻美は就職したとしても地元を離れないと思っていたもの。だからね、大学が決まったことを麻美に」
◇
「なんで止めるのよ、千鶴」
「いや、これ以上は関係ない話になるからね。それよりもいい加減寝ないと、明日の朝起きられないわよ」
ボイスレコーダーを片付ける千鶴に私は文句を言った。でも千鶴のいうことも、もっともなんだけどさ。
千鶴に促されて部屋を出た後、私はお風呂に入り、それから自分の部屋に戻った。けど、眠れるわけがなかった。私が部屋に戻ったのは22時を過ぎていた。布団の中で眠ろうと目をつぶっていたけど、全然眠くならなかった。
千鶴が戻ってきたのは22時30分を過ぎた。そして私が起きていることに苦笑を漏らして、浩二さんと和彦との会話を録音したものを聞かせてくれたのよ。
さて、どうしよう。感謝はしているけど、ちょっと話を盛り過ぎている気がするんだけど。
「ねえ、やり過ぎじゃない?」
「そんなことないでしょう。あれくらい言わなきゃ、麻美を傷つけたって気がつかないわよ」
「でもさ、和彦のことは怯えたんじゃなくて、嫌悪感が強くなっただけなのよ」
「でも、寄るな、触るな、話すな! なんでしょ」
「そこまでではないってば。出来ればそばに近寄らないでほしいだけで」
「同じことじゃない」
「・・・まあ、和彦のことはいいわよ。それより浩二さんに何を聞いているのよ。あ、あんなことを~」
「うふふっ。顔が真っ赤よ~、麻美~。でも、男ってバカよねえ。わだかまりが出来た相手に、簡単に身を任せるわけないのにねえ」
「やり過ぎだってば」
「そんなことないわよ。それよりもどうするの。下平さんとの結婚は無しにするの?」
「だから、なんでそうなるのよ。私は結婚をやめるとは言ってないでしょう」
「でも信用できないんでしょう」
「信用できないんじゃなくて、私よりも和彦側に立ったと思ったからショックを受けただけだもん」
私は布団の中で向きを変えて、うつぶせになった。千鶴が手を伸ばしてきて、軽く頭を撫でた。
「ほら、ショックを受けていたんじゃない。でもよかったわ。麻美が結婚をやめると言い出さなくて」
「簡単にやめるなんてできないでしょう」
「まあ、そうね。ところでさ、なんで和彦とのことを話してくれなかったのよ」
「言えると思うの?」
「麻美、私は和彦のことを軽蔑しても、麻美のことを軽蔑するわけないでしょ。麻美は余計なところに気をまわし過ぎだって」




