221 親友は最強!(事情聴取中!)その2
(たぶん)一度言葉を切った和彦は息を吐きだした。
「顔は白いし・・・その、この少し前に麻美が滑って転びそうになって・・・庇ったけど、実はどこかぶつけていたんじゃないかと心配になったのに、顔を近づけたら『やだ』って横を向いたんだ。・・・なんかさ、心配したのにその反応だろ。ちょっと、嫌がらせじゃないけど・・・体をさ、服の上からこう・・・触ったんだ。ちょっと、待ってくれよ、浩二さん。睨まないで。それ以上は何もしてないからー!」
和彦が弁明をしている。
「大きな声を出さないのよ、和彦。おじさんたちに迷惑だわ。でも、最低ね。茫然自失していた麻美の体を抵抗しないからって触るなんて」
「だから、違うって。浩二さんだってあの時の麻美の格好を見たでしょう。コートも脱いでなかったんだぞ。感触を堪能できなかったって」
(たぶん)千鶴は冷たい視線を和彦へと向けた。
「あんたの感想はいらないから。まあいいわ。本当のことを言ったみたいだものね」
「みたいじゃなくて本当のことだって」
「はいはい、わかったつうの。それじゃあ下平さん。下平さんは麻美の様子がおかしいって気がついていました?」
続けて千鶴は浩二さんに話を振った。
「いや。夕方の麻美の様子でなんかおかしいなと思ったくらいだ」
「それじゃあ、あの飲み会以降に麻美を抱いた時、麻美に抵抗されたり嫌がられたりしませんでした?」
息を飲む浩二さん。
「おい。何を聞いているんだよ。そんなことを聞くなよ」
「あのね、私だってただの好奇心で聞いているわけじゃないのよ。これは重要なことなの。で、どうです、下平さん。思い当たることってあります?」
「え~と、嫌がられてはいなかったと思うけど。・・・ただ、先週に珍しく麻美のほうから甘えてきたかな」
「それはどんな感じでした?」
「招待状のあて名書きが終わったあと、こたつでくつろいでいたら、麻美が横に座ったんだよ。左腕に抱きついてきて、震えているから寒いのかと思って、二人でこたつに潜りこんだんだ」
はあ~と、盛大な千鶴のため息が聞こえてきた。
「それでいたした、と」
「香滝さん、人聞きが悪いことを言わないでくれ。こたつに潜ってもしばらくは麻美の震えがおさまらなかったから、抱きしめていただけだよ。それに麻美が猫の子みたいにスリスリとしてくるから、なんかかわいくてな。撫でているうちに気がついたら二人して眠ってしまったし」
(たぶん)千鶴は額に手を当てて、また、はあ~と息を吐き出した。その様子に不安になったのか、浩二さんが千鶴に聞いた。
「もしかして俺は何か間違えたのか」
「あー、違います。それは正解です。ただ、思っていたよりも深刻なんだと思っただけです。・・・それで、下平さん。とりあえずそいつを動けないように拘束してしてくれないかしら」
「はあ? えっ? ちょっと、浩二さん。なんで千鶴のいうことを聞いているのさ」
「まあまあ、和彦君。たぶん麻美のためだからおとなしくしておこうな」
「いや、それって。・・・いって~。デコピンすんなよー!」
「大きな声を出さないでよ、バカ彦。本当なら技を掛けたいくらいだけど、おじさんを起こすわけにいかないじゃない。これで我慢してあげるんだから感謝しなさいね」
「感謝? するわけないだろー!」
「だから、声を落としなさいよ。それから下平さんにも一回させてくださいね」
「わかった」
「何、素直にデコピンさせてんのさ、浩二さん」
「いや、どうやら俺も麻美になんかしているみたいだからね。これくらいで許してくれるのなら、どうってことないよ」
「さすが、わかってる」
コップにお酒(?)を注ぐ音が聞こえ、それから一気に飲み干しているらしい音がした。
「それじゃあ約束通りに話しますけど、場合によったら最悪の事態も覚悟してくださいね」
「何を脅してんだよ」
千鶴の言葉に和彦が悪態をついたけど言葉はしりすぼみに小さくなった。きっと千鶴の表情を見たからだろう。
「でも、もう一つ確認していいですか。二日の日に両家の親戚に、それぞれ挨拶しに行ったんですよね。麻美の様子ってどうでした」
「様子って・・・普通に挨拶して、その後、着物をきつく締めすぎたのか、顔色を悪くしていたけど」
「それだけですか。本当に気がついてませんでした?」
「おい、千鶴。その言い方って、麻美がわざと体調を悪くするようにしていたみたいじゃないか」
しばし沈黙。
「えっ、マジ」
「それはどういうことなんだ、香滝さん」
(たぶん)千鶴に詰めよる浩二さん。和彦も茫然としていたのだろう。それに千鶴がぼやくように話しだした。
「はあ~。麻美も言い訳を用意するくらいなら、下平さんに相談するべきだったのよね。まあ、本人も疑いだけで話したくなかったんだろうけどさ。・・・はっきり言わせていただくと、あの飲み会の修二のせいで、麻美は男性不信になってます。それに和彦のせいも加わって、不信というより恐怖の対象になったわね。そこに今日のことで下平さんのことも信用できなくなっちゃったのよ。本当に余計なことをやらかしてくれたわね、あなたたちは!」




