220 親友は最強!(訊問するわよ!)その1
先に和彦がお風呂に入ることになったようだ。その間に床の間の部屋に布団を敷いておく。隣の座敷に座卓を移動してファンヒーターをつけた。座卓の上にお酒や乾き物のつまみを並べて置く。
戻ってきてから浩二さんはずっと私に話しかけたそうにしていたけど、千鶴にガードされて話しかけることは出来ずにいた。
和彦と入れ違いに浩二さんもお風呂に入りにいった。和彦も何か言いたげにこちらを見ていたけど、千鶴の醸し出す雰囲気が怖いのか、離れたところに座ってチラチラとこちらのことを伺っていた。
浩二さんが部屋に戻ってきたところで、千鶴が言った。
「それじゃあ麻美、あなたもお風呂に入ってきなさいよ。出てきたらそのまま寝ちゃっていいからね」
「わかった。ありがとう、千鶴。おやすみなさい」
私は後のことを若干心配しながらも千鶴に任せて、部屋を出て行ったのでした。
◇
「さてと、麻美も行ったことだし、洗いざらい吐いてもらおうかしら」
「おい! なんでそうなんだよ」
「私は言ったわよね。詳しいことは後で聞くって」
「だからって、なんで千鶴に言われなきゃならないんだよ」
「私以外に言える奴がいるの?」
「それなら麻美も呼べよ。麻美から聞けばいいだろ」
「本当にあんたはバカなのね。なんで私がここにいると思ってんのよ。麻美がSOSを寄越したからよ」
(たぶん)和彦は息を飲んだ。少し間が空いてから声の調子を変えて千鶴に訊いていた。
「麻美がSOS・・・そんなに深刻なことか?」
「そうよ。本当にあの子も土壇場にならなきゃ言ってこないんだから。わかったのなら、あの飲み会の日にあんたが麻美にしたことを言いなさい」
(たぶん)視線を浩二さんにチラッと向けたあと、黙り込む和彦。
「あの香滝さん、麻美がSOSを出したというけど、・・・今日、麻美が俺のことを避けていたことと関係があるのかい」
(たぶん)浩二さんがおずおずと千鶴に聞いている。
「あら、気がついていたのね。それならもう少し察してほしかったわね。そうそう、先に断っておくけど、私も麻美から話を聞いたのは少し前よ。私のマンションから沢木家にくる間に教えてもらったのよ。かなり端折っていたようだけど、大体のことは把握していると思うわ。でもね、肝心の和彦と何があったのかを、話してくれなかったのよね。となると、もう一人の当事者に聞くしかないでしょう。ほら、そういうことだから、きりきりとしゃべんなさい」
(たぶん)和彦は口を引き結んで黙っていたけど、渋々という感じに千鶴に尋ねた。
「なあ、あの時のことを話さなかったら、伯父さんに言いつけるのか」
「だからさ、そんな事態じゃないんだってば。もっと深刻なの。あんたが話したら、私もちゃんと話すわよ。いい、隠し事はなしよ。この期に及んで隠すようなら、これから後、私たちの集まりは無しになるんだからね」
(たぶん)千鶴の真剣な顔に、和彦はいい返すのはやめて息を「はあ~」と吐き出してから話しだした。
「麻美ってさ、本人は否定するけど箱入りのお嬢さんだろ。半分は自分でそうしているところもあるんだろうけど、男とつき合ったことがないから、距離感が微妙な時があるよな。それでも俺たちみたいに知っているやつでないと、軽い壁を作って踏み込ませないようにして、自衛しているつもりでいただろう」
(たぶん)千鶴のほうを伺うように見る和彦。千鶴は言葉を言わずに頷いたのだろう。
「あの日は、修二に襲われかけたことでかなりショックを受けていたから、これは千鶴に任せるんじゃなくて、浩二さんに任せたほうがいいと判断したんだ」
「そこはいい判断だと思うわ」
「だろ。なのにあいつ、浩二さんに連絡したって言ったら、ふらふらと出ていこうとしたんだぜ。なんか浩二さんに申し訳なくて合わす顔がないようなことをいうからさ。引き止めるために・・・その・・・」
「ちょっと、はっきり言いなさいよ。それとも言えないようなことを麻美にしたの」
言い淀む和彦に千鶴がきつめの声で言った。
「いや、だからさ、その・・・キスを・・・」
「キス? 嫌がる麻美に無理やりしたの?」
「違うって。修二の暴力に怯えていたから、軽く触れるだけのキスだって」
(たぶん)疑わしそうに和彦のことを見つめる千鶴。形のいい眉が顰められた。(のだろう)
「ほんとに? 怪しいわね。他には? もっとなんかしたんじゃないの?」
「ちょっと待て。少しは俺のことを信じろよ。俺からしたら麻美は妹とおんなじなんだよ。妹に手なんか出すかよ」
「いや、どんなことを言っても、実際には妹じゃないし。それにおかしいわよ。それだけで麻美が怯えるわけないでしょう」
(たぶん)ショックを受けたような顔をする和彦。
「麻美が怯えているって? 俺に?」
「そうよ。だから、他に何をしたのか言いなさいよ」
「・・・あの時はキスしても反応がなくて・・・手を離したらまた部屋を出ていくと、言いだしかねなくて・・・。それにまた浩二さんに対する罪悪感を持つだろうと思ったから、それなら麻美は悪くないって状況を作り出そうとしただけだ。もう一度キスをして床に横たえた。・・・まだ浩二さんは来ないし、麻美は魂が抜けたみたいにされるがままだし、どうしようかと思ったんだよ」




