219 親友は・・・とても頼りになる人なの
千鶴はにこりと笑って言った。
「じゃあ決まりね。下平さん、お願いしますね。私も一度戻って支度してくるから」
「戻るって、千鶴は車で戻ってくるのかよ」
「あんた、馬鹿? 私も車を置いてくるに決まっているでしょ。何台も車を停めていたら、明日の朝おじさんが市場に行くのに邪魔になるじゃない。私も麻美についてきてもらうわよ」
千鶴は和彦と自分が泊ることを、うまく父に話して許可をもぎ取っていた。そして「車が何台も停まっているのは邪魔でしょう。和彦の車は置きに行って下平さんと戻ってきてもらって、私も車を置いてくるから麻美を一緒に連れて行ってもいいですか」と聞き、この許可もとってしまった。
和彦は嫌そうにしていたけど、おじさんに告げ口されると困るからか、最後にはしぶしぶ従って、自宅に戻って行った。ついでに飲むためのお酒やつまみを買って来いと千鶴に言われていた。
私と千鶴は、千鶴のマンションに行った。千鶴は用意していたバッグを持つとすぐに部屋を出た。
「車の鍵を貸して。私が運転するから」
「大丈夫よ」
「大丈夫に見えないから言っているのよ」
私は千鶴に鍵を渡して助手席に座った。この車はうちでは私しか運転しないから、助手席に座るのは変な感じがした。車が動き出すと私は言った。
「ごめんね、千鶴」
「別にいいわよ。というか、もう少し早く言いなさいよね。出来れば前日だなんて勘弁してほしいわ。休みなんて急には取れないんだから。ん? 急にだから半休を取れたのか」
ぼやきかけた千鶴は、何故か一人ツッコミを入れていた。
「うん。本当にごめん」
「それで、何があったのか言いなさい。麻美の家に着くまでそんなに時間がないんだからね」
「わかってる」
私は一度息を吐き出してから、話しだしたのよ。時間がないから、ところどころ端折っているけど、言いたいことは伝わったと思う。そうしたら千鶴はいきなりコンビニの駐車場に入り、車を停めた。
「待ってて」
と言って、コンビニの中に入り、すぐに出てきた。買ってきたホットレモンティーを私に渡し、自分も同じものを一口飲んでから、「はあ~」と盛大に息を吐き出した。それから、私のことを見てから言った。
「麻美、本当にそういうことは早く言いなさいよ。なんでどうしようも無くなるまで言わないかな」
「ちょっと迷っていたのよ」
「それで、今日のことはどうなったわけ。そんな状態で和彦と話が出来たの?」
「一応は。でも、浩二さんを使ってのだまし討ちで、どうでもよくなった」
「そっかー。・・・ちょっと。待って。ねえ、そもそも和彦と何があったのよ。そこんところを聞いてないわよ」
「・・・言いたくない」
「麻美―」
千鶴は私の様子にため息を吐き出した。そして、何かを決意したように言った。
「じゃあさ、この件は私に任せてもらっていい?」
「いいけど・・・何をするの」
「何って、思い知らせてあげるのよ。とにかく、今夜は下平さんも麻美に指一本だって触れさせないからね」
何やら決意を固めた千鶴に「お手柔らかに」と言うことしかできない私でした。
家に戻り千鶴を助手に夕食作り。今は売るほどほうれん草があるから、嫌がらせのようにほうれん草料理を並べることにした。茹でたほうれん草で胡麻和えと海苔巻きを作った。海苔巻きは、海苔の上に茹でたほうれん草を置き、シソショウガを芯に巻いたもの。シソショウガのしょっぱさがいいアクセントになっているの。紅ショウガでもいいけど、やはりシソの風味がきいたシソショウガの方が好きだ。
他にもジャガイモとハムとほうれん草と卵でスパニッシュオムレツ風にしたり、豆腐とほうれん草のお吸い物を作った。一応メインは豚肉のしょうが焼き炒めを作ったけどね。
そうしたら少し遅れて戻ってきた浩二さんと和彦は、何故か牛ステーキ肉を買ってきていた。
えっ? つまみを買って来いといったけど、ステーキがつまみですか? まあ、いいけど。
と、ステーキを焼こうかどうしようかと迷っていると、仕事を終わらせて両親が台所に姿を見せた。ステーキ肉を焼いている間に父に誘われて浩二さんと和彦は飲み始めてしまった。焼きあがったステーキを包丁で先に切っておく。それをテーブルに運んで私も椅子に座った。
テーブルには6脚しか椅子がない。なので、もう1脚別の部屋から持ってきて、私は座ったのよね。
父は浩二さんと和彦と楽しそうにお酒を飲んでいた。けど、明日も朝早くに市場に行くため、早々にお風呂に入りに行ってしまった。母はいつものように食事が終わると祖母と共に部屋に戻ってしまっている。
私と千鶴が片付けているのを、所在無げに浩二さんと和彦は椅子に座って見ていた。食器を洗い終わったのと、父がお風呂から出てきたのは一緒だった。父は浩二さんたちに挨拶をすると部屋に行ってしまった。
「じゃあ、どっちか先にお風呂に入ってきてください」
千鶴が浩二さんたちに言った。
「それなら香滝さんが先に入ってきてよ」
「いいえ。この後のことがあるんだから、さっさと入ってきてください。なんでしたら、お二人で一緒に入ってきます? ねえ」
千鶴の殺気を込めた物言いに、二人は言い返せずにコクコクと頷いたのでした。




