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218 親友参上!

私は父のことをチラリと見てから、ボソリと言った。


「父さんは知らないんだから、黙っててよ」

「お前は! 和彦はまだ仕事に戻るんだぞ。大体お前も髪を乱して、何をしていたんだ」

「何って、逃げないように抑えつけただけよ」

「逃げないようにって! お前は」

「お義父さん! 待ってください!」


父がなおも怒鳴ろうとしたところで、浩二さんが割って入ってきた。


「麻美を怒らないでください。二人はちゃんと話し合いをしていましたから。それに悪いのは俺たちです。俺たちの行動が麻美を怒らせたのです」

「だがな、浩二君。そんな髪を乱すようなことをするのは、どう見てもやり過ぎだろう。おとなしく座って話をしているのかと思っていたのにな」


まだ私のことを睨んでくる父のことを私も睨み返した。父は私の反抗的な態度に尚更ムッとしたようだ。


「お義父さん。とにかく俺たちが悪かったんです。なあ、和彦君」

「そうです。俺が全面的に悪いんです。だから麻美を怒らないでやってください」


作業小屋の入り口にいる二人のことを、私は睨んだ。なんで二人に庇われなきゃならないのよ! という思いが胸の中を渦巻いている。


「もう少し、麻美を借りていいですか。話をしたいので」

「ああ、そうだな。これじゃあ落ち着かなくて仕事にならんからな」

「行こう、麻美」


浩二さんが父に許可を取り私のそばに来て腕を掴んだ。私はその手を勢いよく振り払った。


「麻美?」

「何をしているんだ、麻美は!」


父が私の態度に怒鳴ってきた。その声を無視して、茫然としている浩二さんも無視して、小屋の外に向かった。和彦は一歩引いて、私を通してくれた。仕方なく家の中に戻ろうとしたら、車が一台入ってきた。車が止まるとすぐに運転席から人が降りてきた。


「麻美~・・・って、どうしたのよ」


千鶴が慌てた様に私に駆け寄ってきた。私はその千鶴に抱きついた。堪えきれずに涙が落ちる。私を抱きしめる千鶴の声が尖った。


「何があったのか、説明してくれないかしら。下平さん、和彦」

「何って・・・その、話をしていただけなんだけど・・・」

「えーと、どうやら麻美を怒らせたみたいなんだけど・・・」


和彦と浩二さんが千鶴の静かな怒気にあてられたかのように、しどろもどろに答えている。


「まあ、いいわ。それは後にしましょう。麻美、家に入りましょう」


千鶴に連れられて家の中に入った。台所に行くと、勝手知ったるの千鶴が紅茶を入れてくれた。浩二さんと和彦にはインスタントのコーヒーを入れていた。


「で、何があったわけ? 麻美の両親に聞かせられない話なんでしょ。ほら、話しなさい」


千鶴が和彦に言った。和彦は真一文字に口を引き結んだ。千鶴に話す気はないようだ。


「別に話したくなければいいけどね。そちらの社長にある事ない事報告させてもらうけどいいの」

「脅迫する気かよ」

「麻美を泣かせたのは事実でしょ。それに麻美が下平さんではなくて、私に引っ付いているのが何よりの証拠よ。いかにも何かがありましたって物語っているじゃない。下平さんも何をして麻美を怒らせたのよ」


和彦から浩二さんに標的を変えて、千鶴が質問をした。浩二さんはバツが悪そうな顔になって言った。


「その、半日休みが取れたんだけど、それを黙っていてお義父さんの協力で、麻美の隣の部屋に隠れていて話を盗み聞きしてしまったんだ。それがバレてしまって・・・」

「ふう~ん、最低ね」


浩二さんの言葉を、千鶴はバッサリと切り捨てた。浩二さんはダメージを受けたのか、何も返せずに顔色を悪くしていた。


「で、和彦は?」


千鶴が冷たい視線を和彦に向けた。今ここで言わなければ、本当におじさんにいろいろ話しそうな雰囲気を醸し出している。和彦は顔を歪ませると叫ぶように言った。


「・・・ああ、くっそー。言うよ。もう! あのな、伯父の使いでクリスマスに来た時に、麻美と顔を合わせないようにしたんだよ。今日もそうだけど、これからも伯父の使いで沢木家にくるから、逃げている場合じゃないのはわかっているんだけど、気まずくてさ。それで伯父のことから『親戚なめんなー!』って、説教された」

「ふう~ん、それで?」

「それでって、それだけだぞ」


和彦の言葉に千鶴の眉が上がった。


「そんなわけないでしょ。麻美が泣いているのよ。それだけで泣くか」

「チッ。そうだよ。浩二さんに盗み聞きを提案したのは、俺だよ。麻美が許してくれなかった時の保険にさせてもらいました! これでいいか!」


和彦が投げやりに言ったけど、千鶴はまだ疑わしそうに和彦のことを見つめていた。私のことを見た後に息を吐き出して千鶴は言った。


「どうやら、それがすべてってわけじゃなさそうね。もう少し詳しい話を聞きたいわ。そうねえ、麻美、今日私達が泊ってもいいかしら」


突然の言葉に私は瞬きを繰り返した。


「えっと、いいと思うけど」

「じゃあ、決まり。下平さん、ここに来るのに車はどうしました」

「近所の沢木家の親戚だという家に置かせてもらっているけど」

「それじゃあ、このあと和彦のところに一緒に行って、車を置いてこさせてくれないかしら。ついでに和彦は着替えを用意してきなさいよ」

「おい、待て。俺はまだ仕事があるって」

「・・・それだけど、克義おじさんに協力を頼んだ時に、話が長引く場合もあるからと伝えたら『少し遅めに沢木家に行かせるから、話が終わったら直帰でいい』と伝えてって」


私が言ったら和彦は顔に手を当てて天井を振り仰いだ。


「伯父さんめ~」


と、呻いていたのでした。


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