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217 ブチ切れました!

私はキッと和彦を睨みつけた。


「それはあんたに言われたくないやい。というか、あんたが余計なことをしなけりゃ、こんなことになってないでしょ!」

「お~、怖っ! だから謝っただろ。さっき許すって麻美が言っただろう」

「ちょっと待て! そんなこと言ってないわよ。というかあんたはまだ私に謝ってないでしょ」

「えっ。謝っただろ」

「いんや! 謝られてない! やっぱりもういい! もう知らない! 謝ることもできないやつに付き合ってられるか!」

「ま、待て。謝る。この通り! 俺が悪かったから」


私が本気で怒っていることを感じ取ったのか、和彦は両手を合わせて頭を下げてきた。私はそっぽを向いていたけど、横目でその様子をチラッと見た。一応本気で悪いと思っているようだ。でも、今まで甘い顔をし過ぎていた自覚が出来ただけにも、簡単には許したくない。


そんな私の気持ちを察したのか、和彦はこたつから出て横に座ると私に改めて頭をさげてきた。


「本当に悪かった。反省してます。許してください」


その様子を見て浩二さんが私に言ってきた。


「麻美、許してやろうよ。土下座までしているんだからさ」

「……」


私は冷めた視線を二人に向けた。これも和彦の計算の内かと思うと、気持ちが冷めてしまったのだ。いや、冷めたのとは違うのかもしれない。でも、あれだけ怒っていたのに、今は空しさを感じているのだから。


「麻美」


浩二さんが促すように名前を呼ぶ。それに答えずに黙っていたら、和彦が少し顔をあげて私のことを見てきた。


「麻美って意外と狭量なのな。もう少し心を広く持たないと、浩二さんに嫌われるぞ」


プチッ


漫画なんかでよく聞く、堪忍袋の緒が切れた音が聞こえた気がした。私は半眼で和彦のことを睨むと、おもむろに後ろに並べていた手のひらサイズのぬいぐるみを2個つかんだ。


「なんで、そんなことをあんたに言われなきゃなんないのよ! このドアホウ!」


その言葉と共に手につかんだぬいぐるみを投げつけた。チビニャンと手乗りわんこシリーズの5体を次々と投げていく。それからリス(15センチくらい)2体、クマ(24センチくらい)、クッション(ミニクッションで20センチ×20センチ)3個などを手当たり次第につかんでは投げていった。


「こら、やめろよ。暴力反対!」

「何が暴力よ。もともとはあんたが悪いんでしょうが。それを棚に上げて私が悪いみたいに言ってるんじゃないわよ!」


ゴマフアザラシ(60センチ)のぬいぐるみと、シベリアンハスキー(80センチ)のぬいぐるみを投げつけて、最後に固い素材入りのお座りパグ(高さ70センチくらい)のぬいぐるみを思いっきり投げつけた。


「いてっ」


うまい具合に頭に当たったみたいで、和彦は頭の左側を押さえた。私は浩二さんの方を向いた。浩二さんはあっけにとられたように見ていたけど、私と目が合うと笑みを浮かべて軽く手を広げた。


私は立ち上がって浩二さんのそばに行くと、その胸を思いっきり押した。予想外の行動だったのか、浩二さんはそのまま倒れて頭を畳にぶつけて呻いた。


「浩二さんのバカ! 和彦と結託するような浩二さんなんか知らない!」


そう捨て台詞を残して、私は部屋を出て行った。


作業小屋の方に顔を出したら、父がのんきに話しかけてきた。


「話し合いは終わったのか? 浩二君と和彦は仲良くなったようだな。このあと夕飯を食べて行くのか」

「さあ、知らない」


私が立ったままなのを見て、母が文句を言ってきた。


「麻美、知らないはないでしょう。それに二人を置いてきたりして。こっちはいいから、向こうに戻りなさい」


私は頬を膨らませてそっぽをむくと、まるけ終わったほうれん草を移動させるためにザルに手をかけた。


「麻美、こっちはいいと母さんも言っているだろう。向こうに行きなさい」

「別に私がいなくても、二人で仲良くしてんでしょ。いいでしょ、放っておけば」


私の棘のある言い方に、父が叱りつけるように言ってきた。


「なんだ、その言い方は。客を放っておいているのは麻美だろう」

「客? どこが客よ。私は約束なんかしてないもの」

「克義くんに和彦を寄越すように言っておいて、その態度はなんだ」

「別に来るようにとは、言ってないでしょう。いつも克義おじさんが和彦に使いを頼むから、使いに出したら連絡をくれってお願いしただけよ」

「お前は屁理屈をいうな。和彦に話があるから、家の中にいると言ったのはお前だろう」

「そうよ。そうでもしないと、あのバカは話を聞かないと思ったからよ」

「じゃあ彼が帰るまでちゃんと相手をしてこんか」

「そんなの知るか。もう知らないもの」


フイッと横を向いたら、バタバタと足音が聞こえて、浩二さんと和彦が顔を見せた。その顔を見た父さんが驚いたような声をだした。


「どうしたんだ、浩二君、和彦」


まあ、そう言いたくなるのもわかる気がするわね。和彦は毛布を被せられたり、ぬいぐるみ攻撃で髪がかなり乱れているもの。浩二さんもシャツにしわが寄って、やはり少し髪が乱れていた。


「あっ、いえ。別に何も」


浩二さんが和彦のことを見てから、頭に手をやって髪を撫でつけた。それを見ていた和彦も、ハッとした顔になって髪に手を当て、ささっと手櫛で髪を整えた。


「麻美、お前は何をしたんだ。二人に謝りなさい」


父が怒鳴りつけてきたのでした。


まるけ終わったの「まるけ」というのは、多分農家言葉か方言です。

普通には「ほうれん草をまるける」と使います。

なので「まるける」は「束ねる」という意味になります。


わかりにくい言葉を使ってしまい申しわけありませんでした。



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