211 我が家の親戚のこと
「和彦ってば、わかってなかったの? 勿論おじさんはうちに感謝してくれているわよ。親戚付き合いをするようになってから、過剰なプレゼントをしてくれるくらいだもの。でも、それ以上にあんたに感謝をしていたのよ。だから、あんたをうちに使いに出すことで、お礼をしている気持ちでいたのでしょうね」
そうなんだよね。私もさっき気がついたけど、克義おじさんがこいつをうちに寄越していた理由。きっと素直じゃない甥の恋愛の後押しをしているつもりだったと思うのよ。だけど私達の仲に進展がないだけじゃなくて、私に彼氏が出来た。私達の間には縁がなかったのかと思っていたら、お見合い相手を探していると聞いた。それならと、和彦を推薦しようとしたのだろう。
だけどこれはおじさんが考えたと思われること。実際はどうかわからない。
でも一つわかっていることはある。それはうちの父のこと。父からしたら和彦がうちに顔を出していたのは面白くなかったと思う。
高校の時に和彦は何度かうちに来たことがあった。兄に会いに来ていただけだけど、そんなことは家の外で仕事をしている父にはわからなかったことだろう。私と付き合っていると誤解をしていたのかもしれない。私だけでなく兄とも仲が良かったから、好意的に見ていたのだと思う。
それが、気がついたらうちに顔を出さなくなった。私と別れたのだろうと思っていたのに、私が就職してから向こうで会うことがあると聞いた。たぶん私の愚痴めいた言葉を聞いていたから、また誤解をさせてしまったのだと思う。
沙綾さんも誤解した、食事を作りに行っていたということ。これは、本当に料理に関しては壊滅的な人達ばかりだったから、たまたま誰かの家でやる時に誘われていって、黙っていられなくて手出しをしたせいで、何度か呼ばれることになったのよ。毎回行けたわけじゃないし、基本はとも君がいることと和彦の部屋でやるのでなくては行かなかった。
あとは、親戚とわかった時の食事会の時のことよね。和彦の父親に小馬鹿にされて、その場では流していたけど、家に帰ってから文句を言っていたもの。「さすが彼の父親だ」と。
・・・あれ? もしかしなくても、和彦の父親に嫌味を言われる前に、和彦自身が嫌われていた・・・とか?
うわー。わかっていなかったのって、私じゃん。誤解が誤解を生みまくっていたなんて。どおりで和彦が使いで来て帰った後に、気遣わしげな視線を私に寄越していたわけだわ。
思わず頭を抱えて「うわー、うわー」と小声で呻いてしまった。
「麻美? 大丈夫か?」
私の突然の行動に、恐る恐るという感じに和彦が声をかけてきた。今までの話の流れからしたら、私が頭を抱える要素はなかったもの。突然の奇行に戸惑っていることだろう。
私は背筋を伸ばして、コホンと咳ばらいをした。そして「話は変わるけど」と口を開いた。
ええ。改めて気がついたことは棚上げですが、何か?
「和彦は親戚ってどこまでわかっているの」
「親戚? 親の?」
面食らったような顔をする和彦。こんな質問が来るとは思っていなかったのだろう。だけど私にとってはこれが本題だ。きっちり話をつけておかないとね。
「親だけじゃなくて祖父母の親戚も。わかる範囲でいいから」
「そうだな~、親父のほうは親戚がいないと聞いているかな」
「親戚がいない? もう亡くなっているという意味?」
「そうだと思う。俺も小学生だったから詳しくは覚えていないけど、祖父母と父の弟が相次いで亡くなったそうなんだ」
「祖父母の兄弟は? おじさんのいとことかは?」
「祖父母の実家は富山で、集団就職で東京に出たそうだ。親父も何度か富山に行ったことがあるらしいけど、祖父母が亡くなった後は行ってないな。もちろん俺も行ったことはないし」
「じゃあ、おばさんの方は」
「母親は兄の克義伯父さんと弟の恒雄叔父さんがいる。あとはよくわからない」
和彦の返答に私は満足してにこりと笑った。
「まあ、普通はそうでしょうね。それじゃあね、私が把握している沢木家の親戚のことを言うわよ」
「あ、ああ」
和彦はコクリと頷いたけど、少し疑問が頭をもたげているみたい。それでも、さっきから私が親戚、親戚と言っているから、話を聞いてみようと思っているようだ。
「まずは父の兄弟ね。父は姉が2人、妹が2人、弟が2人の7人兄弟なの。それぞれ子供が2人ずついるから私のいとこは12人になるのよ。祖父は私が生まれた年に亡くなっているけど4人兄弟の次男だったのね。長男と何歳離れていたのか知らないけど、長男とその子供は墓碑にも書かれていたから、亡くなったから後を継いだようなのよ。祖父の弟は広野に家を構えたけど、こちらももう亡くなっているはずね。祖父の妹は石部にお嫁に行ったのよ。そちらも農家の家で石部関係の親戚は、私もまだ把握しきれてないのよね」
「はあ?」
「祖母は宮竹からお嫁にきたのよ。8人兄弟の末っ子だったと聞いたわ。男が2人女が6人だったのですって。私が聞いているのは、一番上の姉が西島にお嫁に来て、その縁で祖母が沢木家にお嫁にきたことと、用宗と大谷と藤枝と吉田に祖母関係の親戚がいることくらいかな。ああ、亡くなったけど克義おじさんの母親である大浜のおばさんもだから、兄弟は把握していることになるのかしら。んん? 大谷は宮竹の関係だけど、違ったような気がするわ。後で確認しておくことにしよう。えーと、その次は曾祖母ね。曾祖母は岡からお嫁にきたのよ。岡の家は同じ農家だし隣村ということもあって、いまでも親しく行き来があるのよ。その前にお嫁にきたのは、上からで、そのまた前が橋本から婿に入っているの」




