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210 不毛な会話・・・だねえ

和彦は私の剣幕に目と口を開いてポカンと見上げてきた。その様子に「フン!」と鼻息を吐いて和彦の胸倉から手を離した。


「親戚?」


茫然としたように呟いた和彦に、私は幾分声を和らげて言った。


「そうよ、親戚なのよ。それともう一度言うわよ。私は和彦のことを恋愛的には好きではないし、二度と会いたくないくらいに嫌ってもいないの。さっきは否定したけど、本のことを話すことが出来る貴重な相手だと思っているわよ。本談義ってなかなか出来ないじゃない。千鶴も本を読むけど、和彦が読むような本は絶対読まないから」


私から視線を外した和彦は、表情に困ったような顔をしている。揺れる視線のまま小さな声で言った。


「本当に? 嫌いじゃないって?」

「そうよ」

「恋愛的に好きじゃないって?」

「そうよ!」


また和彦の顔が歪んだ。よく見ると目が潤んでいるような気がするけど、気のせいよね。


「・・・と思って・・・」

「はい? 聞こえないんだけど」


何かを呟いたようだけど、聞こえない。


「麻美は・・・好きでいてくれると思ったのに」


へにゃんとした顔で言われて、どこかでその表情を見たと思った。あれは高校生の頃かな? そういえばこいつって、打たれ弱いところがあったなと、思いだした。こいつのことを兄が見限ったあの時も、確かこんな表情をしていた気がする。今思うとあの時も本当は苦しくて助けを求めていたのかもしれない。だけど兄の逆鱗に触れてうちに顔を出すことが出来なくなって・・・。


見捨てられたと思ったのだろう。そのあとも誰にも相談できなかったんじゃないかな。事が事だったし。それを沙綾さんが救ってくれたのだろう。何を言われたのかはわからないけど、気持ちが軽くなったのだと思う。それで沙綾さんに傾倒していった・・・と。


あー、何か見えたかな。うちの兄にも、すごく傾倒していたものね。尊敬をしていたのだと思う。話をしている時すごく嬉しそうだったもの。


・・・思いだすんじゃなかったな。あの時に感じていた淡い思い。こいつの笑顔にドキリとしたこともあったのよね。恋かどうかはっきりしないうちに幻滅させられたけどさ。それがなかったら今はどうなっていたのかな。


まあ、考えるまでもないか。あの時に嫌悪感を感じたのは確かだし、時を戻せるわけないものね。昇格しなかった恋心なんて、考える価値もない。


「麻美?」


私が言葉を返さなかったからか、恐る恐る和彦が声をかけてきた。私は盛大にため息をついてから言った。


「本当にあんたってバカよね。先に恋愛フラグを壊したのはあんたでしょ」

「恋愛フラグ? あったのか? それじゃあやはり麻美は俺のことを」

「はいはい、ストップ! 今更なことを言っても仕方がないけど、一応教えておいてあげるわ。確かにねえ、高校の時に少しはいいなと思っていた時期があるわよ」

「本当に」


・・・なぜに嬉しそうな声を出す? おい! 今更なことを口走らないだろうな・・・。

よし! やはり盛大にへこませてやることにしよう。現実はそんなに甘くないんだから。


「喜ぶな、バカ。今更な話だといっているでしょう。大体ねえ、恋心を壊されて、嫌悪感を(いだ)かされた相手となんて、親戚でなければ付き合わないでしょ」


再度ショックを受けたという顔をする和彦。なんかこの顔も見飽きてきた気がする。なので、サクサク話を進めてしまおう。


「あー、本当にめんどくさいわね、あんたは。自分がしたことを棚に上げすぎでしょ」

「・・・だって、何も言わないから」

「何も言わないからって、不快に思っていないわけないでしょう。というか、何度この会話させたら気が済むわけ?」


しばらく黙った和彦がまた小さな声で訊いてきた。


「もう麻美のところに顔を出すのをやめた方がいいか」

「だ~か~ら~、さっきも言ったけど、親戚なのをなめないでよ! 切れるもんならもっと早くに切っているわよ」


和彦はまた考えているという顔をした。眉間にしわが寄っていく。


「親戚って・・・そんなに大事か?」


わからないということが声に滲んでいた。実際、わからないのでしょうね。


「大事よ。特に克義おじさんにはいい顔したいもの」

「伯父さんに・・・なぜだ?」

「当たり前でしょう。私にとってはかわいがってくれたから懐いていただけだった大叔母さんが、おじさんにとっては生みの親だったのよ。実の母親のことを生きているとは知らなったとはいえ、一人で逝かせたてしまったと後悔したの。調べてみて一人で暮らしていたけど、妹一家と交流があって、その孫娘に懐かれてさ。それが心の拠りどころとなったと察せられるじゃない。そんなことを知ったって、今更どんな顔をしてうちに顔を出せたというの? それが甥のあんたと私が同級生で、比較的仲がいいなんて知ってさ。あんたを介してうちと交流が持てるようになって、自分が知らなかった母親の話が聞けたりしてね。そのことをどれだけ感謝していると思っているのよ」


また黙り込んでしまった和彦。それからゆっくりと目が見開かれた。


「俺にか?」


信じられないというように、呟きが漏れたのでした。


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