209 親戚なめんなー!
和彦の表情が意外過ぎて思わず確認の言葉が私の口から出てきた。
「えっ? まさかさ、本当に私に好意を持たれていると思っていたわけ?」
「だって、そう思うだろ。大学の時だって呼んだらきたし」
「誰が和彦に会いに来たって言った? 私はとも君がいるっていうから行っていたのよ。思いだしてみなさいよ。それ以外であんたのところを、訪ねたことってあったかしら?」
しばらく記憶を探っていたようだけど、私が言ったとおりだったと、尚更顔を曇らせる和彦。
「そんな・・・付き合いの長い俺じゃなくて、女のともに負けたなんて・・・」
その言葉に私は本気で呆れた。年末に兄と話して家族が勘違いしていたことを知ったけど、こいつまで勘違いしていたのかと胡乱な視線を向ける。そういえば一年前くらいに、母が私の見合い相手を探していた時に、克義おじさんがこいつを推薦しようとしていたことを思いだした。ということは克義おじさんも勘違いをしてくれていたということよね。
ついでに、勘違いされるような行動をしていたのだろうかと、自分の行動を思い返してみた。
・・・あー、確かに勘違いされても仕方がないかー。
でも、反省は後ですることにして、まずはこいつとの決着をつけてしまわないとね。
「というかさ、和彦はどこに好かれる要素があると思うわけ」
「顔」
真顔で答えやがりました。顔。顔ねえ。
「悪いんだけど、世間一般的にはイケメンかもしれないけど、私にはどうでもいいことだわね」
またガーンという効果音がつきそうなくらい、驚いた顔をする和彦。
「世間一般って・・・麻美の目は節穴か」
「失礼しちゃうわね。あんたの顔が整っていることは認めるわよ。でも、私にはイケメンには見えないわよ。どうせならラインハルト様くらいの人なら、イケメンと認めてもいいけど」
「待て。比較対象がおかしいだろ。なんで二次元のやつと比べられなきゃならないんだ」
「別に比べてないわよ。というよりラインハルト様と比べるなんて、ラインハルト様に悪すぎるわ」
「だから、その考えがおかしいって。普通は生身のイケメンのほうがいいだろう!」
「だ~か~ら~、私の二次元コンプレックスを舐めるな! 私にとってのイケメンは現実にはいないのよ! 現実の男なんて髭や胸毛は生えているし、汗臭いし、変なとこ自信家で強引だし、スマートさに欠けるし。いいとこなんてあまりないじゃない。特に自称イケメンは人に迷惑をかけても、気にしない奴ばっかだし。現実の男に夢なんか見れるか―!」
つい、大声で叫んでしまった。しばらく上がった息を整えるために、肩で息をした。
「お前って、拗らせてる奴だったんだな」
感心したような呆れたような和彦の言葉に、ギッと視線を向けた。
「誰のせいだと思っているのよ」
「俺のせいかよ」
「そうよ。あんた以外いないでしょうが! 大体ねえ、どれだけ迷惑をかけられたと思っているのよ。自分で対処できるくせに、人のことを女除けに使ってくれたわよね。あんたに近づこうとした女たちに、どんだけ嫌味を言われたと思うのよ」
「そんなことがあったのなら言えよ」
「それをあんたが言うの。わかっていてやっていたんでしょ。実際私に嫌味を言った女たちは次の時にはいなくなっていたもの。私への対応をバロメーターにしてないでよね」
そう答えたら「気づいていたのかよ」と小声で呟いていた。それにまた、殺意を込めて睨みつけた。途端に「うへっ」と首を竦めやがった。
あ~、もう。本当に腹が立つ! 今まで見逃してやっていたことを、本気で攻めてへこましてやろうと、私は心に決めた。
「もう一度言うけど、大体ねえ、あんたのどこに私に好かれる要素があるのよ。顔以外であると思うなら言ってみなさいよ」
「えーと、じゃあ、学力?」
「そんなものに私が価値を置いていると思うの?」
「・・・思わない。じゃあ、趣味の本の話が出来る」
「別にそれも出来なくても構わないわよ。どちらかというと、本は一人で楽しみたいもの」
しばらく俯いて考えていたけど、他には何も浮かばないのか、今度は探るような目で私に聞いてきた。
「麻美は俺のことが嫌いだったのか」
「別に」
「嘘つけ。嫌いだから今頃そんなことを言いだしたんだろう」
「嘘じゃないわよ。どちらかというとどうでもいいって思っているだけね」
「どうでもいい・・・」
目を大きく見開いて私のことを見つめている。その顔が歪んで今にも泣きだしそうな顔になった。
「嘘だ! 麻美は今までに俺にされたことを怒っていて、いつか仕返しをしてやろうと思っていたんだろう。今がいい機会だからと、心に溜めていたものを吐き出しているんだろう。嫌いなら嫌いってはっきり言えばいいだろう!」
「あー、もう、ごちゃごちゃとうるさい! というか、私の話をちゃんと聞きなさいよ。大体ね、嫌ってたらこんな風に会話しているわけないでしょ。とっとと父さんに話して出入り禁止にしてもらっているわよ!」
その勢いのまま和彦の胸倉をつかんだ。
「こちとらね、仮にも十代続いた家を継ごうというのよ。好き嫌いで親戚付き合いなんてできないのよ。いいか、親戚なめんなー!」




