208 悪友との話し合い?
千鶴たちには日曜に会って招待状を手渡した。水曜日に会った高校の友人たちも「なんで早く教えてくれなかったのー!」と言われて、やはり浩二さんのことを根掘り葉掘りと聞かれたけど、みんな出席の返事を目の前で書いて、渡してくれました。
そうしてその週の金曜日。来週に私の誕生日が来るので、和彦が克義おじさんの使いでうちに顔を見せたのよね。かすかに聞こえるやり取りを聞きながら、私はいまかいまかと待っているの。
そうこうしているうちに階段を上がってくる音が聞こえてきた。私は息を殺して扉が開くのを待った。
軽いノックの後に和彦の声が聞こえてきた。
「麻美、入ってもいいか?」
返事がないからか、少しして扉がそっと開いた。
「麻美~、もしかして寝てるのか」
部屋の中に入って敷いてある布団に視線を向ける和彦。少し近寄り、ホッとしたような声が聞こえてきた。
「寝ているんじゃ仕方がないか。いつものやつだぞ。ここに置いておくぞ」
そうして紙袋を枕元に置いた。
「麻美?」
不審そうな声をだした和彦。
「いまだ!」
「えっ、うわっ。おい、何をするんだー」
ドタンと、倒れた音が響いたけど、家の外にいる家族には聞こえていないだろう。いや、聞こえても別にいいんだけどさ。
私は渾身の力で和彦にかぶせた毛布を抑えつけた。じたばたともがいている和彦に私は言った。
「こうでもしないと逃げるでしょ」
「ふざけんな! 麻美! いい加減にしろよ」
「いい加減にしろは、和彦に言いたいんだけど」
「だまし討ちにもほどがあんだろ! どけー!」
「どかせるものなら、どかしてみれば」
「言ったなー。こんのー」
その声と共に私は毛布ごとひっくり返されてしまった。
「いったー」
私は後頭部を打って顔をしかめて、毛布から手を離した。その手を頭に当てる前に、和彦に取り押さえられてしまう。
「なにしやがんだ、お前はよう!」
私の両手を押さえ付けて目を怒らせて見つめてくる和彦のことを、私もギッと睨んだ。
「和彦が逃げたからでしょう」
「誰が逃げたって?」
「逃げたでしょうが。クリスマスのプレゼント。私と会わないようにしたわよね」
そう言ったら気まずそうに私から視線を外す和彦。手首を押さえる力が弱まったから、右手を外してその手で和彦の胸を押した。和彦はそのまま尻もちをつくように私の上からどいた。
私は体を起こして座り直した。和彦はそっぽを向いて何も言わないでいる。でも、部屋から出て行く様子はないから、私と話をする気はあるみたいだ。
「なんか言うことはないの」
「なんかってなんだよ」
ガキみたいな返事に私の眦の角度が上がった気がする。
「ほう~、本気でそう思ってんだ。そうか、そうか」
腕組みをしながら背筋を伸ばした。若干和彦よりも目線が高くなる。そんな私にチラリと視線を寄越した和彦は不満そうに言った。
「なんだよ」
「なんだよじゃないでしょ。私はあんたに謝ってもらってないんだけど」
この言葉に和彦の肩がビクリと揺れた。
「俺は、浩二さんに殴られたけど」
「そりゃあそうでしょう。婚約者に手を出されそうになって、怒らない人がいると思うの!」
和彦はまだ不貞腐れた様にそっぽを向いていた。そしてポソリと言った。
「あの時は……抵抗しなかったくせに」
「ああー? まさか本気で言ってないでしょうね」
思った以上に低い声が私の口から出た。私のことをチラリとみた和彦は、ザザッと布団から降りて姿勢を正すと正座をした。神妙な表情にまでなっている。
「だけどあの後に俺、吊るしあげられたんだけど」
それなのにまだこんなことを言う和彦。
「それは違うことでよね。変な小細工をしなきゃ、尻叩きの目に逢わなかったはずよ。自業自得でしょ」
冷たい視線を投げかけたら、視線を下に向けたあと、しばらくしてまたボソリと和彦が言った。
「麻美ならわかってくれていると思っていたんだけど・・・」
「わかっていたって、気分は良くないわよ! というかさ、甘えないでくれる」
この言葉が意外だったのか、驚いたような目を私に向けてきた。
「なによ。おかしなことは言ってないでしょう」
「あ・・・麻美は・・・麻美なら・・・」
「私が何? 言いたいことがあるのならはっきり言ったらどうなのよ」
私の名前を繰り返すだけで、他のことを言おうとしない和彦に、きつい口調で言った。
「・・・だってさ、麻美は俺のことを好きなんだろう?」
「好き? 私が? 和彦のことを? いつそんなことを言ったのよ」
伺うように言われた言葉に、反射のように言葉が出てきた。いつもなら、言われた言葉を自分の中で反芻して、落ち着いてから答えるのに。
「言われてないけど、その雰囲気でわかるというか・・・」
「はあ~? 雰囲気? 冗談辞めてよ。なんで私が和彦のことを好きにならなきゃなんないのよ」
私の言葉になぜかショックを受けたような顔をする和彦。
「えっ? 俺のことを好きじゃなかったのか」
「もちろんよ。親戚じゃなきゃ頻繁に会いたいとは思わないわよ!」
ガ~ン という効果音がつきそうな、本当にショックを受けましたと表情で、青ざめていく和彦でした。




