203 親戚は増えるもの?
「えーと由美ちゃん、麻美ちゃん。わかるように教えてくれないかな」
晴子姉さんが代表するように言った。由美子姉さんは私に先に話せというように、笑みをたたえた目で見てきた。私は頷くと口を開いた。
「由美子姉さんがお嫁に行ったのは私の母の実家があるところなんです。由美子姉さんの粕谷家とは直接の親戚ではありませんでした。でも、由美子姉さんがお嫁に行ったことで親戚となったんですよ」
「つまり・・・どういうこと?」
晴子姉さんはわからないという風に、首を振っていいました。
「だからね、麻美ちゃんのお母さんの美知枝さんの実家が、同じ村にあるのよ。姪である私が粕谷家にお嫁に行ったことで、美知枝さんの実家の斧田家と外縁関係になったというわけなのよ」
それでも、わからないようなので、私はいらない紙の裏に簡単に系図を書いた。それでも晴子姉さんはわからないようだ。
「じゃあね、晴子姉さん、うちの二軒隣の家と晴子姉さんのうちと親戚なのは知っている?」
「もちろんよ。祖母から聞いたわ。父の弟である叔父が婿に入った家が、そこの家からやはり婿に入った人の娘と結婚したんでしょ」
「そうです。なので、うちの沢木家と二軒隣の家とは直接血のつながりはないのですが、周っての親戚になります」
「あっ!」
具体的な例を出したことで、晴子姉さんはやっとわかってくれたみたい。そして他の従姉妹たちは今の話を系図に書いていた。
「うわ~。これが周っての親戚なんだ。本当に増えていくんだね」
「みんなは心配しなくていいわよ。こういうのは、実家とか本家って言われる家の宿命みたいものなんだから。私だって、粕谷の家があんなに親戚が多いと知っていたら、やめていたかもしれないわよ」
由美子姉さんがため息をつきながら言った。そうなんだよね。由美子姉さんがお嫁に行ったうちはあそこら辺の粕谷家の一番目の分家にあたるのよ。おかげで姉さんの結婚式には呼んだ親戚の数がハンパなかったんだよね。分家にも格があるとかで、こちらを呼んだら同じ格のあちらも呼ばないと。それならやはりそちらもとなり、村の親戚だけで60人はいたと思う。そしてそんな中に母の兄である伯父まで呼ばれていのよ。その気づかいに母がすごく恐縮して、お礼の電話を入れたんだよなー。
「そういえば麻美ちゃん、あの時はごめんね。結婚式に来てもらっちゃって」
「あー、いえいえ。私はおばあちゃんの付添いでしたから。でもお姉ちゃんの花嫁姿をみれて嬉しかったな」
にこりと笑って言ったら、由美子姉さんは私から目をそらして、どこか遠くを眺めるような目をした。
「それがさ、違うのよ。私も結婚式後に聞かされたのだけど、麻美ちゃんを呼んだのって、一種のお見合い前の品定めを兼ねていたみたいなのよ」
「はい?」
えーと、あのあとにお見合いの話が来たとは、聞かされなかったと思うのだけど? それにあの時は私はまだ高校3年生だったもの。その私にお見合い? ないない・・・よね?
「由美子姉さん、何よそれ。まさか同じ村出身の美知枝叔母さんの娘であり、農家の娘だから同じ農家の嫁にって話じゃないでしょうね」
佳子姉さんが目を吊り上げて由美子姉さんに詰め寄った。
「待って、佳子。確かにそうだったんだけど、その意図に気がついたうちの義父が、本家を含め出席した親戚に、沢木家へのお見合いの打診を禁止したからね。ついでに麻美ちゃんの伯父さんの斧田家にも打診の禁止を言い渡したから。」
「それならいいけど。本当に失礼しちゃうんだから」
由美子姉さんの言葉を聞いて佳子姉さんは安心したようだ。でも、微妙に怒っている気がするのだけど? もしかして佳子姉さんもお見合いの打診があったの? それもかなり失礼な物言いをされたとみた。
あれ? まって? その後の正月に伯父さんの家に行って、伯父が私に恋人はいないのかと、聞いてきたんだよね。それで、気がついたら伯父と母が言い合いをして、怒った母が帰るといいだして・・・。早々に伯父さん家をあとにしたのだけど。
まさか、伯父さん、村の中の誰かに私のことを仲介するように頼まれていたの?
うわ~、ぜんぜん気がつかなかったよ。
そんなことを考えていたら、突然星子ちゃんの声が聞こえてきた。
「ところでね、麻美ちゃんは旦那さんとどこで知り合ったの?」
星子ちゃんの質問に顔に熱が集まってくる。だ、旦那さん? 違うよ~。いや、違わない? いやいや、まだ早いって。その言い方は。
「星ちゃん、まだ旦那さんじゃないわよ。婚約者よ、婚約者」
「あっ、そうでした。それで、どうやって知り合ったんですか? 私、出会いもないんですよ。何かヒントをください」
星ちゃんは手を合わせて拝むような恰好をしてきた。私は瞬きを繰り返した。いや、出会いも何も、母が勝手にいい人の紹介をお願いしたんであって、自分で探したわけじゃないんだよね。
「知人の紹介だったのよ」
と、無難に答えたのね。そうしたら星子ちゃんはお姉ちゃんたちのほうを見たの。
「そうか~、紹介なんだ~。じゃあ由美子さんは」
「私も友人の紹介だったの」
「笑子さんは?」
「私は会社でね」
「えっ、社内恋愛だったの。じゃあ」
『ちょっと、まだ終わらないの? いい加減に下に降りてきなさいよ』
階下から叔母の声が聞こえてきた。みんなは首を竦めると慌てて部屋をでて、階段を下りて行ったのでした。




