2 出会いは合コンパーティーで 後編
男性を見て、私は自分の頬に熱が集まるのがわかり、顔を下に向けた。
「何よ、俊樹。なんか用なの」
「京香さんが可愛い女の子の所に行くから、紹介してもらおうかと思ってきたのさ」
笑っていた男の人が、軽く返事をしてきた。
「あんたには勿体ないから紹介なんてしないわよ」
京香さんはその人から私を隠すように一歩前に出た。私は顔をあげて京香さんの肩越しに男の人のことを見つめた。男の人は私と目が合うとニコリと笑ってきた。
スポーツマンっぽい雰囲気な人なのに、どことなく遊び慣れているように感じる人だ。
「そんなこと言わずにさ、京香さん。大体今日は出会いの場なんでしょう。なのにその子を隠すことないでしょう」
「あんたには勿体ないって言ったでしょ」
「ひどいなぁ~」
その人が苦笑を浮かべたら、三友紀ちゃんが一歩前に出た。
「あの~、私は市川三友紀といいます。トシキさんは何トシキさんなんですか」
「俺? 原田俊樹だよ。そっちの可愛い子は? なんて名前なの?」
原田さんは三友紀ちゃんから少し体をひいて、私の事を見つめてきた。
「えっ? あの・・・」
「俊樹、あんたに麻ちゃんは勿体ないと言っているでしょう」
私が困っていると、京香さんがもう一歩前に出た。
「麻ちゃんって言うんだね。かわいい名前だね」
「だから、俊樹が麻ちゃんて呼ぶなー!」
「えー、それじゃあ名前を教えてよ」
「だから、名前を聞くなー」
京香さんと原田さんの掛け合いのような言い合いに、目が点になったけど段々とおかしくなって笑えてきた。
「フフッ」
私の笑い声が聞こえたのか、京香さんがギッと私の事を睨んできた。
「麻美~、何を笑っているのよ。あんたに悪い虫がつかないようにって、私が頑張っているのに」
「ひどいな~、京香さんは~。出会いの場を作っておいてそれはないでしょう~」
原田さんが軽い感じに言った。私の事を庇ってくれようとしたみたい。なので。
「私もそう思います」
と、同意したら、京香さんと三友紀ちゃんが驚いた顔をして、私の事を見てきた。
千鶴が京香さんに何を言ったのかは知らないけど、未だに心配をかけているのだなと私は思った。私は地元に戻ってくる前に失恋をしている。その事を知っているのは千鶴だけ。その千鶴に頼まれたのだから、京香さんもある程度の事情は知っているのだろう。
だけど、この様子だと千鶴が誤解したままなのだと気がついた。私は失恋しただけで、別に騙されたりとか、酷い目にあわされたわけではないのに。かなり落ち込んでいたから、そう誤解されても仕方がなかったのだけど。
「おっ、麻美ちゃんもそう思うんだ」
原田さんが笑顔で言ったら、京香さんが原田さんの方を向いた。
「俊樹~」
「だから、それ、ひどいってば。京香さんがいるから話しにきたのに」
京香さんの睨みを笑顔でかわすと、原田さんは私に一歩近づいた。いつの間にかそばまで来ていたことに驚いていたら、私の左手を掴んできた。
「えっ?」
「君の名前を教えてくれないかい」
そのまま私の目を見たまま私の左手を持ち上げる。私の左手が原田さんの唇と触れる寸前、パシンという音がして原田さんの手が私の左手から離れた。
「お前は調子に乗り過ぎだ」
もう一人の男性が、原田さんの手を払いのけていた。男性は原田さんにそう言ったあと、私の方を見て困ったように微笑んだ。
「ごめんね。こいつ女の子と見ると見境がなくてね」
「それはないだろう、航平。俺はちゃんと挨拶をしようとしただけだ」
「ちゃんとじゃないだろう。普通は手を掴んだりしないだろう」
男性は原田さんを軽く睨んだあと、私にもう一度微笑んでくれた。
「というか、航平。お前の方が駄目だろ。自己紹介してないじゃん」
原田さんに言われた男性は「あっ」と小さく言ってから苦笑を浮かべた。
「山本航平です。よろしく」
と、私を見つめたまま自己紹介をした。まるで私だけに言っているみたいだった。
「沢木麻美です」
私も名乗って軽く会釈をして、山本さんのことを見つめた。
その私の様子を京香さん達が見つめていることを意識しないまま、少しの間山本さんと見つめ合っていたの。
しばらく5人で話をした。というよりも、原田さんと京香さんと三友紀ちゃんが話すのを、私は時々相槌を打ちながら聞いていただけなのだけど。山本さんも原田さんに合の手を入れる以外は、比較的聞き役のようだった。
京香さんが他の人に呼ばれて離れると、三友紀ちゃんが原田さんに猛アタックを開始した。原田さんが山本さんや私に話しかけるのを強引に自分の方に向けるのだ。
私と山本さんは最初はその様子に呆気にとられたけど、そのうちに放置してしまった。私が三友紀ちゃんを諌めても、三友紀ちゃんは聞く耳をもってくれなかったのだから。
「沢木さん、デザート食べた?」
山本さんは私の耳元でそう言ってきた。
「いえ。取りに行こうと思ったら京香さんが来たから」
そう答えたら、山本さんが微笑んだ。
「じゃあ、取りにいこうか」
「原田さんには声かけますか」
「一応かけるか。俊樹、俺達デザートを取りに行くけどお前はどうする」
「あっ、俺も行く」
「じゃあ、私も~」
パーティーが終わるまで、私達はデザート談義をしたのでした。