198 結局何をしたかったのよ!
ここから浩二さんと結婚式に呼ぶ友達の話になったの。浩二さんが式に呼ぶのは高校の時の友達を5人だけなのですって。私は中学からの友達を3人と高校の時の友達を3人、向こうでお世話になった先輩1人と友達を2人呼ぶ予定。というよりも、私が友達を呼ぶのが多いのは職場関係がないからなのよね。
そんなことを後ろから抱きしめられた状態で話していたら、呆れた声が聞こえてきた。
「浩二さん、もういっそ泊まったらいかがですか」
「兄さん! なんでドアを開けているのよ」
「なんでって、お風呂が空いたと言いに来たんだけど」
私は顔を赤くしながら浩二さんから離れようとした。けど、浩二さんは私のお腹に腕を回して放そうとしてくれなかった。
「浩二さん、放して」
「やだ」
「ちょっと、浩二さん」
「もう少し」
浩二さんの腕を離そうと、攻防を繰り広げる私の耳に、また兄の声が聞こえてきた。
「だから浩二さん、麻美といちゃついていいですから、泊まっていってください」
その言葉を聞いた浩二さんは腕を離すと、パッと立ち上がった。
「そういうわけにもいかないからね、帰るよ」
と、スタスタと部屋を出て階段を下りて行ってしまったのよ。一瞬呆気にとられたけど、私も立ち上がり後を追って玄関へ。
「お邪魔しました~」
浩二さんは大きな声で挨拶をするとさっさと外に行ってしまったの。私も靴を履いて追いかけた。車に乗ろうとして私が来たことに気がついた浩二さんは、私をまた抱きしめた。
「連れて帰ろうかな」
などと言われて、私は目を瞬いた。
「えーと、泊まりに行った方がいいの」
浩二さんのことを見上げたら、浩二さんの顔が近づいてきた。軽く口づけた後、浩二さんは私の左肩に額をつけるようにして囁くように言った。
「そんなわけにいかないだろう。・・・それにしてもお義兄さんって、質悪いよな」
「そんなことはないと思うけど・・・」
結局兄が何の意図をもってあんなことをしたのかわからない私は、首を傾げながら答えたの。
「いや、絶対質が悪いって。俺がどんな奴か知りたかったのだろうけど、お膳立てされてあんなことやこんなことが出来るわけないだろう」
浩二さんの言葉に私は眉をしかめた。それじゃあ、父がしたお膳立てに乗りまくったのは、誰なのだろうと思ったのよね。というか、泊まるイコールそれかい。
「とにかく今日は帰るな。次は二日の日だよな」
「そうだね。お義父さんたちにもご足労かけちゃうけどね」
「ああ、そこは気にするな。先にそちらの親戚に挨拶したいと言い出したのは、こっちなんだから」
浩二さんは顔を上げて、もう一度口づけてから車に乗り込んだ。私はいつものように道に出て車が来ないか確認しながら誘導をしたの。そして車が曲がるまで見送ったのでした。
家の中に入り鍵を閉めて向きを変えたら、兄が腕組みをして立っていた。
「本当に浩二さんは麻美のことを溺愛してんだな」
「そんなことないでしょう。普通よ、普通!」
台所に入っていく兄を追いかけて、私も台所に行った。
「それで、どういうつもりで浩二さんにあんなことを言ったのよ」
「どういうって、わかっているんだろう」
椅子に座って向かい合うと、兄は笑顔を見せてきた。
「しらじらしい。何が可愛い妹よ。そんなことは思っていないくせに」
「いやいや、かわいいだろう、麻美は。こう顎の下を撫でたくなるというかな~」
「ペットじゃないやい」
思いっきり睨みつけたら、兄は笑みを消して真面目な顔になった。
「冗談はこれくらいにして、それにしても浩二さんは優良物件だよな~。私のボケに嫌な顔をしなかったし」
「呆れてはいたけどね」
「真面目過ぎるわけじゃないようだったし、一応麻美とは節度を持ってつき合っているみたいだし」
シレっとそんなことを言ってきたので、私はもう一度兄のことを睨みつけた。
「焚き付けるようなことを言っておいて、よく言うわよね」
「それに乗らなかったのだからいいじゃないか。それともお前のほうが一緒に居たかったとか」
「バッカなこと言わないでよ」
「顔が赤いぞ。・・・何を想像したんだか」
兄がニヤッと笑ってそう言った。私はもっと目を細めて睨みつけた。
「あのさあ、普通異性の兄妹でそういう会話ってしないんじゃないの」
「そういうってどういう部分のことかな~」
本当にくえない兄である。私はジト目で兄のことを見つめた。
「それじゃあ兄さんに訊くけど、そろそろ彼女の一人や二人、出来たんでしょうね」
「麻美、お兄ちゃんを甘く見てはいけないぞ。今でも彼女いない歴を更新中だからな」
それを胸を張って言う兄。私はガクリと肩を落とした。
・・・わかっていたよ。わかっていたけどさ~。やはり兄には彼女なんて夢のまた夢なのだろう。きっとこれも私を跡継ぎにと、父と兄の間で話が出た原因だろう。
「まあ、なんだ。お兄ちゃんは料理もできるし、掃除も苦じゃないから。このまま一人でも困らないんだぞ」
「それはわかっているけどさ、でもお兄ちゃんにも誰かいい人が出来て、家庭を持ってくれたらと思うわけなのよ。妹としては」
私の言葉に兄は苦笑いを浮かべたのでした。




