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196 兄の性格は?

いや~、改めて言葉にして思い返すと、いろいろあったな~。と、しみじみしようとして、言葉を、間違えたことに気がついた。


「あっ、ごめん。違ったっけ。駆け落ちはしてないのよ。気持ち的にはそんな感じだったけど、じっちゃんはりっちゃんをお兄さんのところに連れて行っただけなのよ。本当はじっちゃんはそうしたかったみたいだけどさ、現実的に無理じゃない。このあと落ち着いた頃にりっちゃんから手紙を貰ったのよ。えーと、いろいろしてたのは親戚の娘だけだったのね。本当に親戚の人は気をかけてくれただけだったの。でも、娘がそういうことをしていたと知って、申し訳なかったと謝ってくれたそうなの。娘は親を取られたような気になって、いじめていただけらしいわ。本人はただの嫌がらせをしているつもりだったようだけど、友人たちに聞き取ったら目に余る行為もあったらしいのよ。ああ、それと私がりっちゃんが蹴られたり殴られたりしていると思ったのは、タイミングの悪い誤解だったわ」

「誤解って、それが真実なのじゃないの」

「ううん、たまたまね、りっちゃんが通りかかった時に、ふざけていた男子がぶつかってきて、りっちゃんが怪我をしたのよ。その話を私が勘繰りすぎたのね。親戚の娘が命じてりっちゃんに怪我をさせたのかと思ったから。いま思うと、あの頃のテレビドラマに毒されていたのかもしれないわね」


うんうんと頷きながら言ったら、兄から胡乱な視線が送られてきた。それに私は「えへへっ」と笑い返した。


「結局はこういうことかい。麻美の友人は両親が亡くなり、兄がいたけど親戚に引き取られた。その親戚の家で辛い思いをしていたから、助け出そうと友人の彼氏に協力をした」


かなり端的に言われたけど、余計な言葉をなくすと、兄の言葉のとおりなので、そのとおりと頷いた。そうしたら、近寄った兄は私のこめかみに握りこぶしをあてた。


「いった~い。痛い、痛い~。やめて~。暴力はんた~い~!」


思いっきりグリグリとやられて、私は涙目になった。そうしたら兄は手を離してくれた。けど、浩二さんに言った言葉に、私はムッと唇を尖らせた。


「バカだとは思っていたけどここまでとは。浩二さん、今からでも麻美と結婚するのをやめてくれても構いませんよ。麻美と一緒になることで苦労をすることはないですから」

「ちょっと、お兄ちゃん」

「麻美は黙っていろ」


私が抗議しかけたのを兄は止めて、浩二さんのことを真直ぐに見つめた。浩二さんもその視線を受け止めて、しっかりと見つめ返した。


「俺は友達思いの麻美が好きなんです。結婚を辞める気はないですよ」


私は浩二さんの言葉にジーンとして、感動しそうになった。けど、兄がまだ何をするかもと、身構えて兄のことを見つめた。


兄はハア~と息を吐き出していった。


「よかった~。これで『考え直します』なんて言われたらどうしようかと思ったよ」


そして私の頭に手を伸ばして乱暴にかき混ぜながら言った。


「改めて、こんな妹だけど、末永くよろしくお願いします」


この言葉と共に自分も頭を下げながら、私の頭を下げてきた。なんで私まで頭を下げなければいけないのだろうと思いながらも、今までに浩二さんに迷惑や心配をかけてきてたのは確かなので、素直に頭を下げた。


「えっ、あの、頭を上げてください。そんなことをしなくても、麻美と一生添い遂げるつもりでいますから」


兄の手が頭から離れたので、私も顔を上げた。兄は安心したような顔をしていた。


この後、椅子に座って和やかに話をしたのよね。うん。

父がお風呂を出て、入れ替わりに兄が入りに行った。その間に浩二さんと私は部屋へと行った。


部屋に入った途端「はあ~」と浩二さんは息を吐き出して、座り込んだ。そして私に来い来いと手招きした。そばに寄ったら浩二さんに背中から抱きしめられた。いや、抱きつかれたというほうが正しいか。


「麻美、お義兄(にい)さんってああいう人なのか」


私は自分の頬をポリポリと掻きながら答えた。


「え~と、まあ、そうだねえ」


そう答えたら、また浩二さんはため息を吐き出した。それからぎゅっと抱きしめて耳元で囁いた。


「それで、さっきの話はどこまでが本当のことなんだい」

「あっ、わかった?」

「最初はあんなドラマみたいな話が現実にもあるんだと思ったけど、聞いてて矛盾がいっぱい出てきたからね。本当のことを話したくないのかと思ったよ」


浩二さんの息が耳にかかり、くすぐったく思いながら私は言った。


「そういうわけじゃなかったんだけどね。ただ、兄が知るはずのないことを持ち出してきたから、ちょっとした意趣返しをしただけよ」


浩二さんは声を押さえて「クックッ」と笑った。


「それじゃあ、本当のところはどうだったのかな」

「りっちゃんの事情に関しては本当よ。お母さんが亡くなって、お兄さんと離れて親戚の家に行ったの。親戚の人はいい人だったようよ。でも、その娘がしたことは本当だったの」

「じゃあ友達は怪我が絶えなかったのかな」

「あー、そこは創作だね。地味な嫌がらせだけよ。でもさ、私からの手紙を先に開けてみるなんてひどくない? りっちゃんが大切にしていたお母さんの思い出の品物を壊したりしてさ。なんかわざとじゃなくて偶然だったみたいだけど、りっちゃんはしばらく落ち込んでいたのよ。それを親戚のおじおばは気にしてくれたようだけど、そんなこと言えるわけないじゃない」


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