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195 兄の思い?

浩二さんが驚いたように兄のことを見つめた。私も兄がこんなことを言うなんてと、訝しみを込めて兄のことを見つめたのよ。


「中学の時にお前が好きになった男。私の学年にもいい噂がこない奴だったのに。あんなのを好きになるのなら、もっと他にもいい男はいたはずだ」


兄が忌々しそうに口にした男のこと。心当たりがなくて内心首を捻った。


「ねえ、お兄ちゃん。なんか勘違いしてない? 私は中学の時に好きな人はいなかったけど」

「麻美、今更隠さなくていいんだよ。お前にとってはいいやつだったかもしれないけど、お前を振るようなやつを庇うことはないからな」


私を振ったやつ? その言葉に何かが引っかかる。記憶を探っていくと、ある人に辿り着いた。


「お兄ちゃん、それ誤解」

「どこが誤解だい。中学を卒業して一年近くたつのに、わざわざ友人を介して呼びだして告白したのに」

「ちょっと、なんでお兄ちゃんがそれを知っているのよ。じゃなくて、私は告白してないから。あれは告白するってことを口実にしただけなの」

「なんだそれは」


今度は兄に訝し気な視線を向けられてしまった。私は黙って事の成り行きを見守っている浩二さんのことを、チラリと見てからため息を吐き出した。


「まあ、もう時効だからいいかー。あのさあ、お兄ちゃんが言っているのってじっちゃん・・・えーと、藤井君のことだと思うんだけど」

「そう、そいつ」


伺うように言ったらすぐに帰ってきた。本当に未だに忌々しいらしい。顔と声に出ているよね。


「私とじっちゃんはそんな関係じゃなかったのよ、本当に。お兄ちゃんは部活の後輩のことって覚えている」

「部活の後輩? あまり覚えてないな。生徒会関連でほとんど顔をだせていなかったように思うが」

「じゃあ、りっちゃん・・・小菅律子さんのことなんて覚えてないよね」

「・・・居たの」

「うん。ただし1年の時だけだったけど」

「部活を辞めたのかい」

「違うよ。事情があって引っ越したから。・・・転校をしたの」


思い出すと胸が痛くなる。私はりっちゃんに何もしてあげれなかったもの。


「ということは、まさか」


兄が何かを察したように声を出した。


「たぶん想像のとおりかな。私はりっちゃんが転校してからも、何度か会っていたんだよ。その関係でじっちゃんとも話すようになったのね。じっちゃんはりっちゃんの兄に嫌われて、りっちゃんと会うことが出来なくなったの。だから、私は二人の仲介をしていたんだ。高校の時にじっちゃんに会ったのは、私もりっちゃんに会えなくなっていたから。りっちゃんの居場所が分かったことを伝えるためだったのよ」

「その子の事情って?」


静かな声で兄が訊いてきた。


「りっちゃんは小学校の時にお父さんを亡くしていたの。そのあとお母さんが女手一つで二人を育てていたのだけど、体を悪くしたのね。そういう事情からアパートではなくて、公営の住宅に引っ越したの。でも、お母さんはよくならなくて、亡くなってしまったのよ。お兄さんは高校を辞めて働くことにしようと思ったけど、親戚の人が高校は出ておけと言ってくれたんだって。ただ、条件としてりっちゃんを養女にしたいって言ってきたらしいわ。兄妹で話し合ってお兄さんが高校を卒業するまでは一緒に暮らすことを許してもらった、と言っていたの。じっちゃんとは小学校の5年の時に彼が引っ越してきて、話すようになったんだって。りっちゃんが辛い時の心の支えになってくれたって言ってたな。中学生って子供よね。世間的に見ても保護者が必要でしょ。りっちゃんも親戚の人の言葉の意味がわかっていたから素直に頷いたけど、本当はここから離れたくなかったんだよね。それから中3になる時に、りっちゃんは親戚の家に行ったのよ。おかげで私とも簡単には会えなくなってしまったけどさ。手紙でやり取りはしていたんだけどね。それからある時変な手紙が送られてきたのよ。普通の内容の手紙にメモ書きのようなものが挟まっていたの。これは何かあると思って、私も手紙に書いてみたのよ。その返事に思った通りのことが書かれていたの。そこから約一年をかけてじっちゃんと計画を練ったのよ。それで最後に会った私の告白の日。あれは計画の最後の確認だったわ」


私の言葉に不穏な雰囲気を感じたのか、兄は顔をしかめて詰問するように訊いてきた。


「親戚はその子に何かをしていたのか。計画っていうのは? まさか・・・」

「親戚の人はりっちゃんを体のいい使用人扱いをしたそうなの。ちゃんとできないと蹴られたり殴られたりしたみたい。でも世間体を気にする人だったみたいで、高校には通わせていたらしいのね。あと、私たちと同い年の娘がいたとかで、高校も同じところに行った・・・ううん、行かされたというほうが正しいのでしょうね。あの手紙も内容を見られていたみたいだったのね。だからあのメモをいれられたのは奇跡みたいなものだったようよ」


私はハア~とため息を吐き出した。


「で、計画って何」

「うん、まあ、大したことじゃないけどね、じっちゃんがりっちゃんを連れ出して駆け落ちしたってだけ」

『はあ~?』


兄と浩二さんの声がハモったのでした。


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