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192 兄の帰宅

12月30日です。あと、2日で新年を迎えます。そして・・・やっと兄がうちに帰宅です。兄が家に着いたのはお昼前の11時頃。


「ただいま~。これ土産な。先に仏さんにいってくるわ」


帰ってきた兄は出迎えた私達に挨拶をしながら、先に仏壇に線香をあげに行きました。それが済むと父のところに行って「それで、何をすればいい」と訊いていた。兄は帰ってくると、大掃除の手伝いをしてくれるのよ。


農家の仕事は28日までするし、土日もほとんど仕事なので、年末の大掃除は大変なの。なので兄は帰ってくると大掃除を手伝ってくれたの。いつも父と家の外回りの掃除をやってくれていた。


だけどさすがにこの時間では中途半端になってしまうから、父も「今はいいから」と言っていたわ。


早めにお昼の支度をして昼食を食べた。洗い物を済ますと、私は自分の部屋へといった。午後はおせち作りをするから、汚してしまったエプロンの代わりを取りに行った。


「麻美、ちょっといいか」

「兄さん? 何」


声を掛けて部屋の中に入ってきたのは、兄だった。そのまま本棚のところにいって「あった、これこれ」と、本を何冊か取り出した。


「もしかして持って帰るの」

「ああ。お前が結婚するとこれは邪魔になるだろう」


そう言って本棚から取り出していったけど、兄の本は文庫とはいえ棚を一段占領していたので、30冊は超えるだろう。


「ねえ兄さん、この本はまだ持っていかなくてもいいわよ」

「そうか?」

「うん。邪魔じゃないもの。私もまだ読んでいるものもあるからさ」


兄の本は就職が決まった時に大学の時に買ったものをほとんど家に置いていったもの。微妙に買うものの路線が違っていて、私は家に戻ってきてから読ませてもらっていた。まだすべて読み切っていなかったから、もう少し家に置いておいて欲しかった。


「う~ん、どうするかな~」

「兄さんはもう少し社宅にいるんでしょ。引っ越すときにこれがあるのとないのとじゃ、違うよね」


兄が住んでいるのは会社の独身の人が入れる社宅だった。ここは確か入っていられるのに、年齢制限があったはず。まだもう少しいられるはずだけど、いつかは出て行かなければならない。ということは引っ越し荷物は少ないほうがいいと思うのよね。


腕を組んで考える兄に、私はもう一押しと言葉を続けた。


「もし、この段を使いたくなったら、段ボール箱にでも入れておくからね」

「麻美がそこまで言うなら」


そう言って兄は出した本を棚に戻して、最初に取り出した3冊だけを手に持った。そのまま出て行くのかと思ったら、私のほうを向いて止まってしまった。と、思ったら胡坐をかいて座りこんだ。


「お前も座れ」


兄の言葉に私も素直に座りこんだ。


「今年は忙しくて、夏にちゃんと話せなかっただろう。ちょうどいいから少し話をしようか」

「話って、何を」


そう言ったら、兄は少し気まずそうな顔をした。それからぽつりと呟くように言ったのよ。


「その、お前に相談せずに、跡継ぎを任せるようにして、悪かった」

「・・・気にしていたの」

「まあな。父さんから麻美に後を継がせたいと言われた時には驚いたけど、でもこれで大手を振って家を出られるとも思ったな。だけど、しわ寄せは全部お前にいっただろう。ばあちゃんのこともそうだし、母さんのことだって。父さんが決めたことでも、やっぱり悪いなって」


視線を合わせないようにしてぽつぽつと話す兄に、そこまで気にしていたのかと、苦笑が浮かんできた。


「別にいいわよ、そこまで気にしなくても。私も嫌々家に戻ったわけじゃないし。それにお嫁に行ってお姑さんと同居して苦労するより、自分の親と暮らすほうが楽なんじゃないかと、最近は思うようになったのよ」


明るくそう言ったら兄は私の顔を見てきた。しばらく見つめたあと、フッと肩の力を抜いて兄も笑った。


「麻美のことだから、そうだろうと思ったよ。でも、よく婚約者の・・・」

「浩二さん?」

「そう! 彼もよく婿入りを承諾したよな。普通男兄弟がいると知ったら、嫌がらないか」

「それは、浩二さんに聞いてみたらいいじゃない。今日は仕事が終わったら来るって言っていたもの」

「それは聞いているさ。そうだな、来たら聞いてみるか。だけど、その前に麻美と話しておこうと思ったのもあるんだよ」


兄の言葉に私は首を捻った。そんなに話すようなことってあるのだろうか。


私が家を継ぐ話も父と兄との間で話は済んでいるし、私も納得している。浩二さんも兄がいると知った時には少し戸惑っていたけど、父が兄も納得していると話したから婿養子の話を受け入れてくれたのよね。


私が兄を見つめたら真面目な顔で見つめ返してきた。


「麻美は聞きたくない話かもしれないけど・・・だけど、これはそのままにできないだろう」


意味深な言い方に私は顔をしかめた。


「なんのことなのよ。私が聞きたくない話って」


兄はためらうように視線を逸らすと、ぼそりと言った。


「渡辺・・・のことだよ」


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